379.そういえば……〜レジルスside
「……切ったのか」
「まあな」
聖獣の羽根を切った事に対してだろうか。
呆れたようなミハイルの言葉を受け流したその時だ。
魔石が淡く光りだした。
「おい?!
何……」
すぐに対面に座るミハイルの胸倉を掴めば、抗議の声を上げてくるが、言い終わらない内に視界がグニャリと歪んでいく。
緊急事態や危険な場面に備え、魔法で身体強化して五感を研ぎ澄ませ、いつでも攻守の魔法を繰り出せるよう、体内で魔力を練り上げておく。
「ふ、邪魔してくれちゃって」
不意にどこからか、想い人である公女の声が微かに聞こえた。
しかしその声音は冷たく、どこか嘲笑うかのようだ。
初めて聞く声音に、背筋がゾクリとする。
「は?!」
「やっと発動したか」
しかし動揺したようなミハイルの声で、どこか恍惚としそうな感情に蓋をし、平静を装って悠然と言葉を発してみる。
気づけば目の前には、少し前に別れた教皇。
真っ白な長い髪は変わらないが、その黒い瞳と表情から苛立ちを感じ取る。
そしてその後ろには、いつぞやの男子寮て対峙した、見覚えのあるローブの女がたたずんでいた。
ローブの女は、唯一見える口元をそれとなく引き結び、凍土で作られた壁へと一心に視線を注いでいる。
その壁の位置は、あまりにも不自然だ。
それとなく魔力も感じる。
覚えがある魔力を感じさせる壁は、ファルタン嬢が魔法で出したものだと直感した。
壁はいくらか表面が濡れ、抉れている。
水系統の魔法攻撃から守りに使ったようだ。
だとすれば、公女は壁の向こうに?
「それでは後の事は、お2人にお願いしますわ!」
予想通りだったな。
壁の向こうからは平素と同じ声音で、逃げの猛者たる堂々した宣言が。
「任せろ」
もちろん即答する。
想い人からのお願いに応えないなどという狭量さを見せてやるものか。
「任されるな!
状況説明くらいしろ!」
ふっ、狭量な奴め。
しかし自らの兄との違いに、少しくらいは俺を見直してくれ……。
想い人に良い格好ができるとほくそ笑みかけたが、その思考の途中、壁の向こうの気配が完全に途絶えた。
……残念極まりない。
次はもう少し時間を置いて転移するように魔導回路を改良せねばな。
もちろんその時には懐の広さを対比する為にも、この
何だ?
ミハイルが俺の顔をじっと見つめているな?
それとなく、一歩後ろに下がったか?
何となく、頬をひくつかせている?
「……悪巧みに巻きこまれるのはご免だ」
何故バレた?
「何の事かわからんが、諦めが肝心な事もある」
「諦め……」
「もちろん俺は公女の事しか考えていない」
「いや、もっとそれ以外も……」
「そなたの妹には必ず幸せにしてもらうから、安心して散ってくれ」
おっと最後は、うっかり本音が駄々漏れてしまったな。
「むしろ私の身の方が少しも安心でき……」
「そなたの妹は俺が必ず幸せにする……」
「何だか興ざめね」
ミハイルの言葉を遮って話していれば、今度は俺が言葉を遮られてしまった。
もちろんそうしたのは、ローブの女だ。
本当の名かどうかは怪しいが、ジャビと名乗っている。
「全くです。
邪魔されてしまいました」
教皇はいつも通り微笑んでいるかと思いきや、苦笑している?
その表情に違和感を覚えた。
「その割には、ほっとしたみたいね」
そう。
ジャビが告げたように、俺の目にも安堵したかのように見えたのだ。
「私が?
ははっ、まさか」
ジャビに指摘された教皇が、今度は自嘲気味に笑うが、そこにも違和感を感じずにはいられない。
まるで……。
「あの無才無能公女に知られて、後悔でもしているのかしら?
でもわかっているでしょう?
君はもう、私と契約をして動いている。
今更私との契約を断ち切る事は、当事者である君にも私にもできない。
聖獣とその契約者でもない限り、契約が成就されなくとも、君が死んでもその魂は契約に縛られる。
私の力は君の体内と魂に、溶けこむように浸透しているのだから」
ジャビの告げた内容に、眉を顰めてしまう。
「その女は悪魔だろう。
教皇は悪魔と契約したと、自覚しているのか?」
ミハイルの言葉にハタとなる。
そういえば……そうだった。
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