348.最近の読み聞かせから教会まで
「ようこ……そ?
いつの間に……」
お久しぶりのナックス神官が出迎えてくれたと思ったら、どうしてかしら?
私のお腹をしげしげ見つめつつ、何故か頬をヒクヒクさせながら、口を開く。
かと思えば私が言葉を発するより先に、全学年主任こと、レジルス第1王子が1歩前に出た。
「誰の子供でもない。
そもそも公女は妊娠もしていない。
下手な勘違いは止めてもらおう」
ナックス神官が最後まで言い終わらない内に、食い気味で言葉を遮ってしまったわ。
どうしたのかしらね?
場所は教会の中では恐らくランクの高い客室よ。
この週明けにお兄様も含めて打ち合わせた通り、今、私達3人は教会を訪れている。
今は眠っているのだけれど、実は私のお腹……卵に、かしら?
そこに乗り上げるようにして、鎮座しているのは、赤い天使こと、ディア。
私と一緒に、魔力を卵に流していて、最近は頭よりも、よくここでこうしている。
もちろん姿は他の人には見えない。
場所が場所だから、私もしっかりディアの目眩ましに手を加えているもの。
今日は王子にも、気づかれていないみたい。
そして私の後ろには、人見知りを拗らせているリンダ嬢。
ちなみにミランダリンダ嬢だと少し長いからと、愛称で呼ぶ事になったの。
でも私の呼び名は、ラビアンジェ公女のまま。
四公の家柄だから畏れ多いと、ラビ呼びは断固拒否されてしまったわ。
ちょっと寂しいけれど、四公の公女の立場は本来ならそれくらい厳格だから、伯爵令嬢には荷が重かったのね。
昨日の夜、教会へ赴く時間の都合もあって彼女は約1週間ぶりに、ロブール邸のゲストルームに泊まってもらった。
パジャマパーティーはまた後日する予定よ。
昨晩は彼女が持参した私小説を読ませてもらう代わりに、私が今週書き上げたばかりのBとLな小説の短編風プロットを、別々の部屋で読む事にしていたから。
彼女、まだBとLなお話は初心者さんだから、ちょっと解説も含めた地の文を増量。
読みやすかったのか、今朝はその話をたくさんしてくれたの。
私の方は夕食後にログハウスに戻って、彼女の小説を、ここ数週間の日課であるお腹に向かって読み聞かせ。
そうしていつも通り、同居中のキャスちゃんとディアが、寝静まるのをじっくり待った。
そしてタイミングを見て、魔法で防音と紙に幻覚を施して、作業開始。
まだ途中だったBとLな本格的R18版小説を書きつつ、子守唄代わりにお腹に読み聞かせる。
ちなみにタイトルは【夜王〜追い堕とす金の鷹】。
無事にラストのシーンまで書き上げてから、聖獣ちゃん達に気づかれる事なく、亜空間収納に片づけたわ。
そして今朝、ロブール邸に迎えに来てくれた全学年主任こと、レジルス第1王子が馬車で迎えに来て、お兄様に見送られながら、教会へ。
馬車の中では、リンダ嬢と小説のオタトークで盛り上がれたし、昨日の夜は各自で読書の時間に充てて、正解。
王子はもちろん終始無言。
恋愛小説なんて読まないでしょうから、入りたくても入れない話題だったのでしょうね。
時折リンダ嬢が王子をチラ見をしては、ビクッとしていたいたのだけれど、あれはもしや……恋愛小説に良くある、王子様に恋に落ちるご令嬢の、リアル再現?!
なんて思って観察しているだけでも、お婆ちゃんのミーハーゲージは満たされて、滾りっ放し。
教会までの道のりが、短く感じたのは秘密よ。
そして下級神官の案内で通された部屋で、上級神官であるナックス神官にご対面、というわけ。
「左様ですのよ。
今は大事な時期ですの。
きっと可愛らしい子が生まれましてよ」
王子の当たり前の説明に、補足をしつつ、ディアが落ちないように支えつつ、お腹を擦る。
中身は人でないのだけは、確か。
初めはワンコ君が火山の火口から、バンジーで簡単に引き上げられるくらい、余裕の片手サイズだったのに、今やこんなにも大きくなった。
毎日読み聞かせしつつ、しっかり魔力を注いできたから、大きくなるのも早かったわ。
前世の知識を総動員して、腰のサポーター機能を持った、妊婦用腹巻きで固定しているの。
最近は時々胎動ならぬ、卵動も感じるようになったからか、前世の妊婦時代の記憶と相まって、愛おしくて仕方ない。
※※後書き※※
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