240.ロブール家の気質〜ミハイルside
「初めは私への当てつけ。
愛情どころか憎しみしか与えていないのに、母親としての承認欲求はあったのね。
それに夫の決定に従うしかない立場だった自分への慰めでもあったかもしれないわ。
養女を可愛がる事で実娘である私を精神的に傷つけようとして、けれど全く動じない私に承認欲求は満たされずに憎しみは増し、あなたへのそれも結果的に全て私へ向いた。
あなた自身もそうなるように私を貶める事で取り入って、お母様の憎しみに拍車をかけた。
憎しみが分散せず私1人に向いて良かったわ」
淡々と、時にふと何かを思い出したかのようにほくそ笑みつつも、終始穏やかに微笑みながら話す内容に絶句する。
ほくそ笑む理由は皆目見当つかないが、最後のその一言は本心からの言葉だと直感する。
分散……俺にも向かずに良かったと言外に告げていると感じた。
「……は。
まるであんたこそが博愛主義のヒロインみたいに話すのね」
それでもお前はこうやって皮肉るのか……。
憤りも生まれるが、何より呆れてしまう。
冷めた目で見つめれば……何だ?
シエナの上半身が咲いているそのすぐ後ろの蔦が赤黒く変色し始めた?
「私の中の事実を話しているだけだから邪推しないで。
私は特に親からの愛を求めた事はないし、どちらかといえば同じ孫であるあなたとお兄様への愛着の方が私の中ではお母様より強いのよ?」
同じ孫……先ほどの祖母に免じてと言っていた事と関係するのか?
「どちらにしても今のロブール家の子供達の中で、あなたは誰よりもその気質を受け継いだんじゃないかしら」
「どういう意味よ」
ロブール家の気質……思い当たるのは領地経営を学びに行った時の祖父だ。
どうでも良いかもしれないが、変色の範囲が広がっていないか?
いつでも雑な魔法具を発動できるようにそれとなく魔力を通しつつ、視界の端で観察する。
「ロブール家には相手の望む言葉を与えて自分の思い通りに他者を動かす事を無意識にやってのける者が多く産まれるの。
立ち回り方が上手いとでも言うのかしら。
だからこそこの家は危うげもなく中立を保ち続け、今ではその立場を強固なものにしているわ。
もっともお父様のようにしがらみを嫌う者も多くいたから、その為にそう行動してきた末の結果論とも言えなくはないけれど。
時流や敵味方の見極めと立ち回りで相手を魅了するからこその中立ね。
ああ、別に魅了魔法を使っているわけではないわ。
使えるならあなたの本性が表に出たところで他の学生達から潮が引くように冷遇なんてされないもの。
ただあなたはそれを機械的にできず、その場の私欲を優先させてしまう未熟者だっただけ」
黒い霧が再び濃くなり、シエナは怒りに顔を再び歪ませるが、変色した部分が今度は盛り上がっていく事に気づいていない。
「どちらにしてもお母様にとってあなたの言動は好ましく、元婚約者の娘とはいえ父親似でなかったからか養女として受け入れた。
他は……そうね、この家に平民の血を招く事で意趣返しができるとも考えたとか?
だってそれこそがお母様的元婚約者の弟を自分に当てがった
「どうしてお祖父様が出てくるのよ」
「だってお祖父様はあなたを引き取る事に反対していたじゃない?
もしかしたらお母様は伯父様の駆け落ち前、何かしらの行動をあなたの実母にしていたかもしれないし、お祖父様ならそれに気づいても黙認、もしくは唆した可能性すらある。
ロブールらしい人だものね。
だからこそ突然の駆け落ちに繋がった。
なんて、もちろんこれは推測の域を出ない話よ。
けれど有り得なくはない可能性。
そしてお母様があなたを手にかけると確信して見逃していた。
結局私がいた事で起こらなかったから、これも想像でしかないわね」
「お祖父様が……どうして……」
「…………さあ?
お祖父様のお気持ちはお祖父様にしかわからないから」
何かを言いかけようとして口を閉じ、少しの沈黙の後、明言は避けた。
しかし本当はわかっているんじゃないのか?
妹はまるで仕方のない人だとでも言うように苦笑していた。
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