230.腐ったアルマジロちゃん

「ラビアンジェ、今のはどういう……」


 お兄様ったら、驚愕したお顔でどうしたのかしら?


『ラビは見たままを言っただけなのに、何を言ってんだろうね?』


 意味がわからずに首を傾げれば、頭に鎮座するリアちゃんも傾くわ。

相変わらず姿は消しているの。


「あははははは、あーら、おねえさま、くやしいの?

わたしが、さらに、ふさわしいたちば、せいじゅう、なったから、あはははは!」

『ふん、何が聖獣だい、この呪物娘が』


 そうね、違うわね。

アレを聖獣扱いされると流石にリアちゃんも他の聖獣ちゃん達も殺気だってくるからやめなさいね。

 

「公女、それは義妹ではないのか?」

「魔力はあの子のものでしてよ?」

『この王子も何を言ってんだろうね?』


 呆れ声のリアちゃんに同意するわ。


「それ以外は?」

「腐ったアルマジロちゃん?」

「うわーん!

わ、わたし、くさったー!」


 泣いてもどうもできないから、とりあえずよしよししてあげましょう。

直接は触れない仕様みたいだから、エアタッチね。

これ以上のお仕置きペンペンは孵化したばかりのこの子には可哀想だから止めておくわ。


 でも中身の入れ替わりに気づいてからは起動ワードは言ってないのよ。

それっぽく地面をペシペシしただけ。


「アルマジロとは?

ラビアンジェ、アレは?」

「鎧鼠とも言われていて、元は他国で生息していた動物がこの国に入ってきてひっそり生息していたのでしょうね。

他国でも絶滅危惧種並みに数が少ないのではないかしら?

背中側に鎧のような硬い甲羅で覆われておりますの。

相当大昔に他国から流れてきたらしき古い図鑑に載っていたのをチラッと見ましてよ」


 お兄様がアルマジロを知らないのは無理もないわ。


 あちらの世界ではお馴染みだけど、少なくともこの国では王女時代に図鑑でしか見た覚えがないの。

あちらでは哺乳類だけれど、こちらの生態系まではちょっとわからないわ。


「卵生だったのか、実は卵が丸くなった甲羅みたいな骨だったのかはああなる前を見ていないのでわかりませんけれど、魔力があったなら魔獣なのでしょうね。

アレは見たまま、完成した魔法呪でしてよ?」

「シエナ、なのか?」

「動かしているのはそうですわね。

まだほんのりアルマジロ成分がなくはないですけれど」

「うわーん、わたしのからだー!」


 自分が体から逃げてしまったのに何を言っているの。

それに今のあの体に戻りたいわけでもないでしょう?


 まだ魔力は行き来しているから、それぞれ96対4くらいの構成成分ね。

繋がっていた蔦を切るのがもう少し遅かったら戻す道は完全に断たれていたわ。


 ただ……どうするかはね。


「聖獣、なのか?」

「あり得ませんわね」

「シエナは聖獣の卵と……」

「聖獣は元魔獣でしてよ?」

『ラビ兄は何を寝ぼけた事を言っているんだろうね?』


 リアちゃんと2人して、またまた首を傾げてしまうわ。


「公女は魔獣がどのようにして聖獣になるのか知っているのか?」

「そもそも何故知りませんの?

王家と四公の祖の口伝は誰でも知ってますわよね?」

「だがそれは聖獣に助けられた、としか……」

「ええ、ですから普通は仲良しの魔獣が昇華して聖獣と呼ばれるくらい強くなったと考えるものでは?

人に害をなす方向性なら、それは災害級の魔獣、契約して守ってくれるなら聖獣。

そもそもパラパラ聖獣が生息していればアルマジロちゃんのようにどこかしらの国で観測されても不思議ではございませんもの。

そしてアレは元腐った魔獣で、今は魔法呪でしてよ」


 厳密にはそもそも聖獣になるには契約者がいて、昇華させられる状況が整ってこそだけれど、ベルジャンヌの死後にどこまで正しく伝わっているかわからないから全部は伝えないでおきましょう。

そもそもこの王子も知らないとは言っていない。

人を試して様子を窺う節があるわ。


 それよりこの子ね。

確かに聖獣になれるだけの素養はあった。


 そうでなければ死にたくない、生きたいと望むだけでこんな事態を引き起こしたりできるはずがない。

ここが魔法の世界だからかしら?

思う力が強いのは、素養の1つとなるもの。

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