186.嫁ぎ先ゲット

「しっかし、これからどうすんだ?」

「どう?」


 ユストさんの言葉に意味がわからず首をかしげる。


「兄貴との関係も改善、婚約は破棄じゃなく解消、それも王子側の問題だってのも周知された。

腐っても四公の公女だろう。

次の婚約者なんか、わらわらいんじゃねえのか?」

「いないわよ?

それに無才無能で必ず冒頭に、一応、がつくような公女だもの。

仮に候補がいてもお父様は今のところ私の意志を尊重して、というよりも興味がないし、むしろまた婚約させるのが面倒なのだと思うわ」

「そうねえ、ご当主はずっと放置し続けていたものね。

王族との婚約なら喜んで淑女教育も王妃教育も当主命令で強制しそうなのに」

「ええ。

お父様は私が逃げても放置プレイよ。

いっそガルフィさんのように独身を貫き続ければ、そのうち縁談の噂すらもなくなるんじゃないかしら」

「ちょっと、人をいき遅れみたいに言わないでちょうだい?」

「あらあら?」


 ガルフィさんの天性の性別ならまだまだ結婚適齢期だと思っているのだけれど、怒られてしまったわ。


「じゃあ当面はまだ月影としてやってけそうって事か。

こっちとしちゃ嬉しいが、いき遅れた先がどこぞの変態爺の後妻とかは寝覚めが悪いからやめてくれよ。

そうなったら俺かガルフィのどっちかの嫁に避難してこい」

「そうね、万が一にでもそんな事になったらこの際年の差婚でもしましょうか。

白い結婚も自由恋愛も認めてあげるわ」

「ふふふ、嫁ぎ先を2つゲットね」


 2人共だいぶ飛躍しているけれど、私を色々な方面で心配してくれているのね。

有りがたいわ。


 でもそんな心配性な2人のうちのユストさんは、ガルフィさんが王家の影だなんて知らないのよ。


 もちろん仮に知っていても、これから知っても、知らないを通し続けるでしょうけれど。


 いくら私のアドバイスがあっても、大商会にまで大きくしたのはユストさんの手腕。

リュンヌォンブル商会会長の肩書きは伊達ではないもの。


 さすがに俺様王子と婚約した時点で私の身分に知らないふりはしてくれなくなったけれど。


 ちなみに表向きのガルフィさんはどこぞの貴族のご落胤で、平民に混じってお小遣いを貰いながら生活してる放蕩オネエ様よ。


 この2人の出会いは私繋がりではないわ。

もちろんその話を鵜呑みにはしないけれど、2人のご縁は私の監視任務より前。

どこぞの飲み屋さんでのナンパですって。


 したのはガルフィさん、されたのはユストさんよ。


 でもガルフィさんが表立って女装を始めたのは私の監視についてから。


『もしかして、公女様が自分で服を仕立てているのかしら?』


 天井からそんな風に声をかけられたのが始まりね。


 その頃には自分の服は自分で仕立てるようになっていたのだけど、ガルフィさんてハスキーボイスはともかく、あの見た目じゃない?


 当時は正直性別不明だったわ。


 ただ、より楽に外を出歩くには影を買収したかったの。

もちろん聖獣ちゃん達もいるし、いくらでも目くらましはできるけれど、常の監視はやっぱり長期に渡ると面倒でしょう?


 で、彼の興味津々な服や小説を贈呈して買収。


 今ではお得意様兼、読者兼、モデル時々デザイン画担当兼、共犯者。


 最初にお金で買収しようとしなくて良かったわ。

このタイプの人はお金に価値を置いていないもの。


 もちろん王家の影だって事は念頭にあるけど、どこまで報告していたか、本当にもう監視対象から外れたのかはこれからも探らないわ。


 お互いの為にね。


 私を良心から長年気にかけてくれる貴重なオネエ様をどういう形でも失いたくはないじゃない?


 これまでの彼の主への報告も、最低限の差し障りのないものにしている気がするし。

元婚約者やお兄様の反応を見る限りでは、ね。


 ちょうど私の24時間体制の監視も比較的すぐに無くなったから、ガルフィさん的にも後半はやりやすかったんじゃないかしら。


 どちらにしても今は王族の婚約者から解放されたから、もう私を影として監視する必要は少なくとも表向きにはないはずよ。


 何より王子妃教育は受けず、明確に元婚約者との交流もないもの。

生涯秘匿するような情報を与えられていないのは明らか。


 ふふふ、王子妃関連から全力で逃げ続けて本当に良かったわ。

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