184.買収させてくれたオネエ様

『素敵なオネエ様でしょう』

『小さかったラビに買収されまくった拝金オネエ様だけどね』


 私の頭にド派手に鎮座しておきながらしっかりと目眩ましをしているリアちゃんの言う通り、オネエなガルフィさんは王家の影なのに何かと私に買収されているの。


 といってもお金じゃなくて、物。

しかもオネエ様的価値のある物でないと買収されてくれないのよ。


「それにしても珍しいな。

お前達が昼間っから2人で来るの」

「だってこの子、もう王子の婚約者じゃないんだもの。

まあ相変わらず色々狙いは定められているみたいだけど、もう人目をはばかる必要はないでしょう?」

「それならお前が女装して来る必要だってねえんじゃ……」


 一緒にテーブルを挟んで一服し始めた2人の会話は、今では大商会の会長に出世した厳ついオジサンであるユストさんの言葉ではたと途切れたわ。


 美味しい紅茶を堪能しながらリアちゃんと念話中の私も、思わず顔を上げて隣のオネエ様と目の前の厳ついオジサンを交互に見つめてしまう。


「今さら何言ってるの?

私、女装は趣味だってちゃんと伝えてあったわよね?」


 ややもして、怪訝なお顔になったガルフィさんが口を開く。


「え、あの話本気だったのか?!

てっきり婚約者のいる月影の為にカモフラージュしてんのかと思ってたぞ?!」

「まあ、失礼ね。

そもそもこの子、王子には全く好かれようとして無かったし、何なら男と歩いて有責を問われてもそれはそれで婚約解消なり破棄なりされる名目になってラッキーくらいにしか思ってなかったのよ?」

「いや、一応婚約者が王子なんだから、好かれようとくらい……まあ……小っちゃい頃から知ってる俺の記憶でも婚約者なんかガン無視、つうか基本的に存在忘れてたな」

「あらあら、あの方とは初対面からちゃんと意気投合してたわよ?

主に二度と登城しない方向で」

「そうね。

生意気盛りの王子を初対面で笑い者にした挙げ句、城に来るなと言われれば嬉々としてその1度きりの話に婚約が解消されるまで全力で乗っかり続けたわね」

「ああ、そうだったな。

普通の貴族令嬢なら心折れてるのに、心踊らせてたのが見てる俺にもしっかり伝わってたな」


 まあまあ、どうして2人して呆れた目を?


「一時期学園に出入りしてた時に見聞きしたあの王子の言動がぶん殴りたくなるくらい酷すぎて、その結末にゃ同情の余地もねえんだが……。

とは言っても同じ男としちゃ、ある意味少なからずの不憫さを感じる俺は頭がおかしいんだろうか……」

「まあ母親に言われて仕方なく小さな歩み寄りを手紙にしたためても、一応でも婚約者なのに一刀両断、初志貫徹とばかりに寄りつく隙を一切見せず、多感な時期の少年らしい理不尽なプライドを木っ端微塵に打ち砕いたのは確かね」


 歩み寄りなんてあったのかしら?

それよりも一応仕えてる人の息子なのに、言葉の端々に悪意を潜ませてない?


 思わず首を傾げてしまえば、今度は2人してため息を吐いたわ。


「でも、まあ何だ。

婚約解消で晴れて自由の身になったんだ。

一応めでてえ、のか?

普通の令嬢ならお先真っ暗なんだろうが……」

「この子はそもそも貴族令嬢でなくてもやっていける生活力を持っているもの。

むしろ最悪な評判ばかりの貴族令嬢なんて足枷でしかないじゃない。

おめでとうでいいんでしょう、月影」

「ふふふ、もちろんよ」


 随分な物言いのガルフィさんだけれど、幼かった私に色々な意味で生活力を与え続けてくれた大人の1人だからこその言葉ね。


 王家の影なのに食用茸の見分け方等々の伝授やログハウスの修繕だけじゃなく、執筆活動も含めて外でのお仕事の見逃しやデザイナー活動のお手伝いまでもしてくれたわ。

まだ商会としても無名だったユストさんとはかなり早くに出会っていたけれど、公女の身分なんてものがありながら別人の月影としてここまで活動できたのは彼のお陰もあるのよ。


 買収だって、私の現状を見かねて応じていた部分があったのには気づいているもの。

実際に誰にどこまで黙ってくれているのかはあえて聞いていないけれどね。

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