173.派閥違い〜シエナside

『彼等の葬儀にも、献花にも、生き残ったルーニャック令息のお見舞いにもいらっしゃらないなんて……』

『そ、れは……』


 もう1人の女も、どうしてか非難めいた視線と言葉を呟くから思わずそちらを見てしまう。


 醸し出す非難の色があまりに濃くて、上手く反論出来なかったわ。


 でも言われてみれば、体裁だけでも整えておくべきだったかもしれない。

お兄様からは葬儀や見舞いには行くなと言われたけど、それだけだったの。

その気になればどうとでもできた。


 この女達なら私が全く行くつもりが無く、これ幸いと何もせずにその関係を無かった事にしようとしたのはお見通しな気がして、下手な事は言えない。


『ダツィア侯爵令嬢、お気持ちはわかるけれど、今は……』

『……はい、バルリーガ公爵令嬢。

フォルメイト侯爵令嬢も、申し訳ございませんわ』


 目の前の女が後ろを向いて諭せば、素直に頷いた。

家名で互いを呼ぶなんて、随分余所余所しいのね。


『連れが失礼しましたわ。

このお2人もここに来たのには理由がおありですけれど、貴女は一生気づかれないのでしょうね。

1つ申し上げておきますが私達、本来の生家の派閥は違いますの。

ですから後ろの方々は私のただの付き添いでは無いとだけ伝えておきますわ』

『どういう……』

『学園に通う高位の貴族令嬢ならば誰でもわかるような事を何故一々お教えせねばなりませんの?

派閥と言葉を口にした者にそのような事をお聞きになる事自体がマナー違反ですわ』


 ハッとして、バツが悪くなって視線を逸らす。


 これに関しては、確かにその通りね。

下手をすれば様々な家門のしがらみに力ない立場の令嬢など潰されてしまうわ。

特にこの女達は腐っても由緒正しい代々続く家柄ですもの。


 何より聞いてしまった私まで危うくなるのはごめんよ。


『ただ1つ。

貴女がそんなだから、第2王子殿下以外の王家の方々から相手にされませんのよ』

『ちょっと!

……っ』


 せっかく悪かったと思ってあげたのに、何なのよ!!


 思わず腰を浮かせたものの、アイツのような圧のある微笑みを向けられて思わず固まった。


『どうぞ、あと少しで終わりますから、そのままお掛けになってらして?

どこまで話したかしら……ああ、そうそう。

そして今回の件が明るみになり、王家が沈静化をする為に在学中の王子ではなく、他の王族を学園に異例の派遣をされたわ』

『それはシュ、ジョシュア殿下が休学なさったからよ』


 ほとんど無意識に言い直して、そんな自分に何故か苛つく。


『本気で仰るの?

これまでも王族が在学していない時もありましたのよ?

他にもやり手と称されるロブール公子もいらっしゃいますわ。

第2王子殿下の休学など、王家からすれば些事でしてよ』

『でしたら偶然では?』


 既にアイツや目の前のこの女のような淑女の微笑みはとっくに失っているから、取り繕っても意味が無いわ。


 せめてもの意地でこの女の目をしっかり見つめ返しながら、無表情を貫く。


『貴女は何でも偶然という言葉で処理されるのね?

客観的に捉えてみても、仮にも四大公爵家の被害者と加害者に公女と元公子が絡み、ここまでの大事になったからこそ王家が動いたと答えるのが及第点ではなくて?』

『左様ですのね。

それで?』


 とにかく早く解放されたくて、内心では苛々しながら先へ促す。


 この女がクスリと笑っても、反応なんか絶対してやらないんだから!


『そうして王族がその立場から学園に働きかけた事で、やっと増長していた学生達の危険思考に歯止めがかかりましたのよ?

そうでなければ今回のように自業自得で亡くなる加害者が増えるのは勿論、次こそ被害者が亡くなっていましたでしょうね』

『でしたら……』

『けれどあの方と同じ公女だと主張なさる貴女が同じ状況に陥ったからとして、王家に異例とも特例とも思える対処を取るよう動かせまして?』


 その言葉に胸を抉られる。


 わかっているわ。

王家からすれば、私は所詮養女。

学園でどんな目に遭っていても、動くはずがない。


 けど……だからこそよ。


 私がアイツを、アイツの存在そのものを許せないのは。

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