154.ボッチで得られなかった情報
「そうか。
そなたの心に傷を残していないなら、それはそれで良いのだ」
「しかしまさか蠱毒の箱庭で1人で釣りをして、現地調達した食材で食事をしているとは思っていなかった。
本当に、お前が無事で良かった」
王子が目を細めれば、お兄様は何度目かの言葉を口にして笑うわ。
箱庭にいる時に思ったけれど、王子は表情筋が固めね。
無表情というわけでも無いけれど、あまり大きく動かないわ。
お兄様の表情はそうでもないけれど、こちらはこちらで先月までの態度とは本当に変わってしまって、時々その手の平返しに戸惑うの。
でももう教養は強要されないから、それでいいわ。
ある意味では理想の妹像を諦めてくれたんでしょうね。
「あのローブの効果は凄いな。
お陰で半年待たずに出られたが、結局助けられたのは俺の方だ。
偶然が重なったとはいえ、そなただけならローブ無しでも出られたのだから」
「ふふふ、私もびっくりしましたわ。
魔力が低すぎるとあの結界、素通りできましたのね」
そう、前々世の私が張ったあの結界魔法は、魔力がほとんど無い者は元々素通りできる仕様よ。
だって魔力の無い普通の動物が閉じこめられたら捕食一直線で可哀そうじゃない?
蟲に群がられてパクパクされたら、結界魔法を張った張本人としては罪悪感でいっぱいになっちゃうわ。
「魔力が低すぎて良かったとお前に言う日が来るとは思わなかった。
だがそれができる者がそうはいないというのが何とも……お前の魔力枯渇への耐性が高いのにも驚いたが」
そうね、動物レベルまで魔力を消費しきるしかないけれど、大抵は死にかけるわね。
この世界の人は魔力枯渇があまりに酷いと死んじゃうの。
あの箱庭でそんな形で死にかければ、蟲に群がられて餌として取り合いされるわ。
きっとB級特撮映画な光景に見舞われるでしょうね。
私は魔力が低すぎて日常でもよく枯渇していたから、そこの耐性や感度がバカになった事にしてあるの。
それを学園で報告した時の、一同の気まずそうな沈黙がいたたまれなかったわね。
だから不用意な情報は規制した方がいいわ。
ラグちゃんが都合良く蟲達を威嚇したりもしてくれないし。
魔力をほぼ使い切って、ラビ印の非売品ローブと同じ物があれば誰でも生還できる。
なんてお馬鹿な事を短絡的に考える人って必ず出てくるのよね。
あの婚約者な孫やワンコ君も力を過信して入ったりしたんだもの。
「それから、そなたの婚約者……いや、第2王子は側近候補であったヘインズ=アッシェを伴って蠱毒の箱庭に侵入していた。
それも蠱毒の箱庭に入るにしては、思いつきのような軽装備だった」
そうそう、その2人よ。
わざわざ今話をするって事は、ボッチで得られなかった情報が手に入るのかしら?
「これによりヘインズ=アッシェは決定していた学園からの騎士団入団の推薦状、及び、騎士団からの引き抜きの話のどちらも無くなった。
卒業後は何かしらの成果を出すまでアッシェ家の公子を名乗る事を許さず、それを広く周知すると現アッシェ公から王家へ報告があった」
まあまあ、やっぱりそうなったのね。
弟を即座に切り捨てたニルティ家次期当主といい、世知辛い世の中だこと。
それともそうする事で助けようとしたのかしら?
成人したとはいえ、まだ学生。
家から半放逐状態にされただけでも一生醜聞がつき纏い、四公家の名で得られたはずの恩恵を失っただけでもある程度の社会的な罰は下されたと判断できる。
恐らく彼の長らくの目標である騎士の道は茨の道になっても、閉ざされなかったのはそのお陰。
チラリとお兄様を見れば、目がバチッと合ってしまったわ。
「護衛対象を、それも王位継承順位の高い者を止められず、ましてや城へ知らせもせずに共に赴き、危険に曝したばかりか、痕が残るような傷を負わせたからな。
それも本人は無傷であったとなれば、護衛として体裁も整わない。
当然の結果だろう」
「左様ですわねえ」
お兄様の補足に相槌を打ちつつも、内心やっぱりそこね、とため息を吐いてしまう。
だって彼の酷い火傷を跡形もなく治癒させたのは私よ。
前世の記憶がなければ当然だとしか思わずにいられたのに……。
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