127.いっそ攫っていかない?

「才能がないとは言わないけれど、あの程度の実力と判断力。

今までは学生や公子という身分に守られていながらの訓練だったみたいね。

大きく伸びる時期は終わったでしょうから、伸びしろは知れているんじゃないかしら。

実力者だともてはやされていたから期待したのだけれど、所詮は学生の中でのお話だったみたい。

護衛騎士になるには長く険しい道のりになるでしょうね。

物事を深く考えず、思いこみも激しい性格の彼には、王子の護衛として王宮の奥まで出入りできない限り、ヒントがあっても簡単に正解には辿り着けないはずよ」

『立場や身分のある者の無知が1番罪深い。

あんな程度の低い者は騎士云々以前に公子ですらいるべきではない』


 あらあら。

ラグちゃんてば、愉快そうな雰囲気がなくなって、敵意むき出しの辛口発言になってしまったわ。


『そんな奴らばかりだったから、ベルはあんな風に死んだ。

なのに四公は未だにあんな子供ばかり育てている。

俺達聖獣が心から契約を望む者は、この先もラビ以外に現れないだろうな』


 まあまあ、今度は怒り以外にも悲哀と後悔の感情を感じるわ。


 やあね、聖獣ちゃん達と愉快な仲間達にはいつでも楽しく過ごして欲しいのに、ベルジャンヌがあんな生き方と死に方をしたせいで未だに影を落としてしまっているわ。


「ふふふ、そう言われると照れちゃうじゃないの。

まあそんなやらかした騎士見習い、いいえ、騎士かぶれだもの。

Aクラスが合同討伐の度に伝統行事のように行ってきたDクラスへのある種の隠れた虐待行為を明らかに、なんてできないんじゃないかしら。

それに王家とアッシェ家の罪を調べようとすれば、稀代の悪女の裏の顔を知られたくない誰かしらが何かしら事を起こすでしょう。

特に彼はアッシェ家の人間だもの。

彼の身近にいる人間がどう出るのか、楽しみね。

彼は果たしてこれから無事でいられるのかしら?」


 あえて明るく言ってみる。


 でも内容はそこそこダークね。

だってあのワンコ君はきっと無事ではいられないもの。


 あの孫がどうするのか見ものだわ。

あの愚鈍な孫が、これから距離ができるだろう側近候補の異常にそもそも気づけるかどうかはわからないけれど。


『ふん、長らく俺の愛し子に辛く当たってきたんだ。

むしろ抹殺でもされればいい』


 あらあら。

ラグちゃんてば、今度は殺意むき出しの過激発言ね。


「事実を明らかにできなくても、真実に辿り着かなくても、それはそれで良いのよ。

元々期待していないもの。

ことあるごとに一生あの激痛に苛まれればいいんじゃないかしら」

『Aクラスの裏の事実を明らかにして、家門の罪を知れば解呪されるようにしたのか?』

「そうよ。

比較的強めの誓約にしたから、稀代の悪女ってワードにも反応するかもしれないわ。

だって誓約の1つはについて、だもの。

あの姿もリコリスも見たから、無意識下で繋がるだろうベルジャンヌが有名だと大変ね。

でももし辿りついたら……彼らはどんな顔をするのかしら」

『碌でもない顔になるのは間違いないだろうな』


 思わず、ぷっ、笑ってしまう。


「そうね。

まだまだ中身の幼い坊やに意地悪が過ぎたかしらね?」

『しょせんはアッシェ家の者だ。

四公の中でもアッシェ家はあの聖獣しか加護を与えない。

それが俺達聖獣の総意だ』

「……ある意味ご愁傷様ね」

『真実を知れば、最悪王家に消されるかもしれんぞ?』

「ふふふ、ベルジャンヌってば、どれだけシークレットレディ扱いなの」

『ふん、ベルをあんな形で死なせたのは王家と四公の汚点。

ベルが死して尚、稀代の悪女に仕立て上げた事こそ王家の罪だからな』


 ざわざわと空気が揺れているわ。


「ラグちゃん、殺気立ってはちびっこ蛇ちゃん達が怖がってしまうわよ?」

『ぬぅ、すまない、子供達。

それで、あの3人はどうする?』


 やっぱり気になるのね。


「そうねえ、あの3人なら放っておいても半年は生き残りそう。

お馬鹿さんな孫達と違って装備もしっかりしているようだし、実力者揃いね」

『なら……』

「ふふふ、やっぱり放置は駄目よ。

とりあえずこの森から退場してもらいたいわ。

ラグちゃん、こっちに来ていっそ攫っていかない?」

『…………命令か?』


 あらあら、たっぷり間が空いてからの、とっても嫌そうなお声ね。

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