97.王家と四公の祖
「はっきり言っておく。
蠱毒の箱庭の結界を長子でもないような、替えのきく貴族の子供の為に壊す事は絶対にない。
救助もそうだ。
入って出られなくなるかもしれない、危険度の高い蟲型魔獣だらけの場所に誰が来る。
仮に救助が来るとしても、すぐの事にはならないはずだ。
ここに救助に来れるような実力者を集めるのには時間がかかる。
それまでこの魔獣避けの魔法具が役に立ち続ける事はない」
「お前、我がニルティ家を馬鹿にするのか」
珍しく怒鳴らず、けれど怒りをこめて家格君が低く唸るけれど、ラルフ君は何も間違っていないのよ。
「冷静に考えろ。
隣国も絡んで共同で維持している結界だ。
ここに王家の者や当主教育を受けた四公の子息令嬢がいるならまだしも、替えのきく次子では望みが薄い。
しかもニルティ家もロブール家もお前達以外にも弟妹がいる。
それにこの森の結界に何かがあって国民に被害が出れば国際問題になるばかりか、王家すら非難されかねない。
四公の当主達が仮にも自分の子供だからと国民に危険が及ぶ事を優先させると思うのか」
「そ、れは……」
まあまあ、家格君てば、片手で口元を覆って絶句してしまったわ。
本来なら王家も四公も、民草の為に生きる事がその存在意義なのよ。
自分より弱き者の為に剣を持ち、盾となって命尽きるまで民草の前に立ち続ける事を王や四公当主は聖獣に誓うわ。
聖獣に誓うのは、遥か昔からの慣わしとされているようだけれど、もちろん理由があるの。
この国がまだ名もなき小国だった頃、王家と四公の祖は1つの家族だったわ。
当時は小国とは名ばかりの、いくつかの村が纏まって形成した規模の大きな農村ね。
祖はその中の代表を務める大家族だった。
首長一族みたいなものだと思うわ。
そしてある時、他国の凄惨な侵略を受けた。
家族は村人達を守り、1人、また1人と散っていったの。
盾にしかなれない自分達の無力を悔やみながら。
そして何人もいた家族がほんの5人になった時、助けてくれたのが聖獣ちゃん達。
聖獣ちゃん達は散っていった家族の最期の想いを気に入って5人に守護を与え、正しく剣を握れると判断してから契約して力を与えたの。
けれど始まりから千年か、もっとずっと昔の出来事だったでしょう。
それに人は罪深く傲慢な側面が多々あるわ。
王家や四公の在り方は少しずつ歪んでいったみたいね。
前々世のベルジャンヌの時には歪みマックスだったんじゃないかしら。
今でも時々聖獣ちゃん達が思い出し怒りをするもの。
ベルジャンヌの死によって聖獣ちゃんと愉快な仲間達から見限られて、王家や四公はようやく危機感から
当時の世代から孫世代に産まれた私は少なくともそう感じているの。
けれどラルフ君の話し方では民草の為にというよりも、王家も四公も面子の為と言っているように聞こえるわね。
まあ孫や家格君をトップに高位貴族の令息令嬢を見ていれば、気にかけるのは親世代止まり。
初心を取り戻せたとは全く言えないわ。
仕方ない評価ね。
ひとまず家格君に自分の生家が彼の私欲では動かないのが伝わったようで何よりよ。
でもやっぱり家格君は何も教えられていないのね。
さすが
「そんな……学園の落ち度なのに?!」
金髪君の舞台男優も顔負けな、悲壮感漂う声で、家格君と同じ色味のかつての王妃から意識がそれたわ。
「どうして……」
そんな彼の隣に鎮座する金髪ちゃんがぼそりと呟く。
「どうして私達がこんな目に合うのよ?!」
あらあら、こちらも舞台女優みたいね。
結局甲高い声を上げて泣き出してしまったわ。
悲壮感漂う金髪君が肩を抱いて慰めるけれど、学園の落ち度やどうしてか、なんて今追求しても無意味ではないかしら?
「学園の落ち度や答えのない原因を探ってもどうしようもないだろう!
無意味に泣き叫ぶな!」
家格君てば、私と同じ考えね。
でも自分がずっと怒鳴っているのは棚に上げるのね。
ほらほら、金髪ちゃんがキッと睨んでしまったわよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます