95.食後のお茶

「鞄持ってきますね。

今日はお肉の日だったから、さっぱりするやつですか?」


 移動した私は網を持ち上げて少し前までそこにあった炭の代わりにトングに挟んでいた燃える木を置いて網をひっくり返したわ。


 カルティカちゃんは私の鞄を手渡すと、隣に腰かける。

これまた阿吽の呼吸ね。


 私が鞄から取り出した小鍋を網の上に置いている間に、近くにあったうちわで火を勢いづかせてくれるの。

素晴らしく気が利く女子でしょう。

またまた阿吽の呼吸よね。


 私は魔法で小鍋に水を満たすわ。


 物理的に補えない場合に限り魔法を使う。

これが人目がある時に魔法を使用するマイルールなの。


 つまり火は起こせるけれど、水はない。

だから魔法を使って小鍋に水を満たす。

そういう事よ。


 後は時間がない時ね。

そういう時は魔法でパパッと沸騰させるけれど、今は時間もあるからしないわ。


 何故小鍋に水をと思う人もいるかしら?

カルティカちゃんが察してお手伝いしてくれているように、もちろん食後のお茶の準備をしているの。


「今日のお肉の脂はくどくないとは思うけれど、毒消し草や後味をスッキリさせるようなハーブを混ぜている物を使うわ。

でもそうね……少し甘さがある方がいいかしら。

甘味は苛々の解消に良いもの」


 いくつかあるお茶パックから1つを選んで小鍋に沈めるわ。


 煮出しタイプの茶葉なの。

煮出す事で甘み成分が溶け出すわ。


 私達の為の甘味というよりは、家格君を筆頭にした4年生グループの為よ。

家格君だけじゃなく、お孫ちゃんも何だか苛々してそうだものね。

それとなくケアしてあげなくっちゃ。


 この茶葉の配合だとお味は前世で飲んだ事のあるルイボスティーに似ているように思うの。

あちらの世界では妊娠と母乳育児の間お世話になった懐かしの味よ。

ノンカフェイン、ミネラル豊富だったと記憶しているわ。


 魔獣のお肉を食べる時は、念の為毒消し草のお茶を食後に出す事にしているのよ。

今のところお腹を下した人はいないのだけれども。


「ロブール様の淹れてくれるお茶は何だかほっとする味だから好きです」

「ふふふ、そう言われると嬉しいわ」


 うちの眼鏡女子ってば、婆心を的確に突いてくるんだもの。

お婆ちゃんをどうしたいのかしら。


 コポコポと沸騰を始めたところで少し小鍋の場所を移動させるわ。

じっくりことこと煮こみつつ、全員が食べ終わるのを待ちましょうか。


 まだ日が高い時間帯のはずなのだけど、どことなく鬱蒼として薄暗い森にパチパチと爆ぜる火の音。

静寂を感じながら全員のお腹が満たされてきた頃を見計らって、小鍋を持ち上げたわ。


 するとカルティカちゃんがトングで燃え尽きるまであと少しの火を持って焚き火に焚べ直してくれたのよ。

そのままご飯を食べていた場所に座ったわ。

またまたまたまた阿吽の呼吸ね。


 焚き火って癒やし効果があるっていうし、お腹も満たされて4年生達のトゲツンな雰囲気も随分丸くなったわ。

頃合いね。


「さあさあ、できたわ」


 そう言ってお椀が空になっている自分のグループからお茶を注いでいく。


 もちろん生活魔法と呼ばれる洗浄魔法で各自がお椀を綺麗にしているのは言うまでもないわ。


 ああ、4年生はコップじゃないのが気になるかしら?


 でも私の荷物は多くなりがちなの。

ほら、野営の時の私って食事や魔具でフォローするのが担当でしょ?

なるべく軽量にしたいし、洗浄魔法もあるから兼用できる食器は兼用するし、森ならお皿の代用ができる何かがあるからお皿も持って来ないわ。


 合同討伐訓練は暗黙の了解で下級生が食事の用意をするから、今回は人数分のお椀を用意しておいたの。


 もちろん寄付の為に時折魔獣討伐する私達のクラスは、訓練の際にも使いたい食器は各自で用意して持ち運ぶのよ。

だから今回は特別ね。


 どちらにしても早くマジックバックを作りたいわ。


「ありがとう」

「「ありがとうございます」」


 短いお礼のラルフ君も、にこにこと丁寧なお礼の2人も、お茶に口をつけてほうっと息を吐いたわ。

もしかしたらこれから話し合うはずの4年生達に緊張しているのかしら?


「ふん、公女が給仕の真似事とはな」


 あらあら、どこぞの金髪ちゃんから聞いた言葉がここでも登場ね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る