83.勘の鋭いリーダーと知らなくてもいい事

「公女、悪い顔になっている」

「あらあら、うっかりね」


 私の腹黒い囁きを聞いたお孫ちゃんが何やら自己完結した体で、向こうの4年生達の方へ立ち去ったわ。


 それを見計らったのでしょうね。


 近づいてきてそんな事を言うのは、もちろん勘の鋭いうちのリーダーのラルフ君よ。


 私のお顔はデフォルトの淑女の微笑みだったのだけれど、腹黒い婆顔に勘づくなんて、流石はうちのリーダーね。

素敵よ。


「今日はここで野営になる。

ローレンもカルティカも腹が減って仕方ないらしい」

「あらあら、それは急がないといけないわね。

私の役割はこれまで通りでよろしくて?」

「ああ。

ローレンが既に調理用に火の準備をしているから、飯の支度を先に頼む」

「もちろんよ。

カルティカちゃんに、あのウゴウゴの周りの土の採取をお願いしておいてくれない?

あのムカデと同程度以下の魔獣避けと、番寄せに使えるわ」

「ウゴウゴ・・・・わかった。

魔石と素材は場合によっては4年生グループに渡す。

かまわないか?」

「もちろんよ。

彼らにも面子と成果は必要だわ」


 ふふふ、ウゴウゴで通じたわ。


 それより最後は無表情ながらもどこか呆れたお顔になったわ。

実は既に家格君が主張したんじゃないかしら。


「あの2人にはもう話したが、食事をしながら4年生と今後を話し合う。

少なくとも俺達2年は場所が場所だけに、すぐの救助は期待せずに動こうと思っている」

「そうね。

移動はするの?」

「できればロベニア国側の結界の近くには行きたいが、どうだろうな。

次に結界を張り直すまでに半年はある。

うまく出られるならいいが、最悪は半年後のチャンスにかける事になるはずだ。

向こうの公子は四公の自分がいるから、すぐに助けが来ると踏んでいるらしい。

このままここで待つつもりのようだが、甘いな」

「まあまあ。

どの選択をするにしても、4年生達に堪えられるかしら?」

「さあ?

俺達は美味い飯さえあれば、半年ぐらいどうって事はないだろうが、連中はどうだろうな。

まあ堪えられなければ、何かしらの理由で死ぬだろう。

それが魔獣に殺されるか、自死か、はたまた同士討ちになるかはわからん」

「あらあら、物騒ね」


 もちろん私達は4年生達の同士じゃないから、彼らが仲間割れからの同士討ちなんて笑えない事態にならないように、こっそり祈っておいてあげましょうね。


「ここはそういう場所だ。

短期間ならともかく、長期間極限状態が続くとなれば何が起こるかわからない。

だが俺が守るのは、間違っても仲間に手を出したあいつらではない」

「そうね。

去年の4年Dクラスの先輩方からもAクラスとの合同訓練は色々と気をつけるように言われていたものね。

あらあら?

でも誰か手を出されたの?

怪我はしていなくて?

それなら私、毎晩夜中に出した人の耳元で命に感謝をって囁き続けて差し上げてよ?

そうしたら4年生達も食への探求に目覚めて、仲良くなれるんじゃないかしら?」

「いや、むしろ夜中にそれはノイローゼに追いこまれる。

後が面倒だから、やめて欲しい。

まあ怪我もないようだし、公女が気づいていないなら気づかないでいい。

気にするな」

「あらあら?」


 おかしいわね。

命に感謝する心を説けば、お孫ちゃんを除く4年生達とももう少し食への相互理解ができると思ったのに。


 まあまあ、少し引き気味なお顔を向けられているわ。

ちょっと厳ついけれど、間違いなく好青年な若者にそんなお顔されるなんて。

お婆ちゃん、傷ついちゃう。


 でもいいわ。

リーダーの意見を尊重しましょう。


 優しい若者はお婆ちゃんの好物だもの。

お昼は多めにして引いたかもしれない好感度を向上ね。


「それよりも、何故こんな所に転移したか、だ」

「そうねえ。

困ったわねえ」


 もちろんキャンプは楽しむつもりだけれど、あの転移陣の細工は誰がしたのかしら?

それだけじゃないわね。


 転移陣のカラクリを考えれば、グループ分けからして怪しくなるわ。


 でも・・・・今はあえてスルーでいきましょう。


 余計な疑心暗鬼を与えてしまえば、この森では自分のグループを危険に曝しかねないもの。


 もちろん私がいるのだから、自分のグループとお孫ちゃんの生還は確定しているのよ。

けれど魔法では優しいあの子達の心への傷までは防げないわ。


 仮にも1つのグループになったのにその内の誰かが狙って、誰かが狙われたなんて知らなくてもいい事でしょう。

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