59.学園生活と卒業後の貴族社会〜ミハイルside

「どうした?

馬車の件も、の件も、何が正しいのかは調べればすぐにわかるだろう。

お前が正しいなら何も問題はない」

「そ、んな……」


 義妹の顔が愕然としたものに変わり、顔色が悪くなっていく。


「シエナ、何故そんなに驚いている?

心配せずともラビアンジェの言葉を鵜呑みにするつもりはないから安心しろ。

私にとってはどちらも妹である事に変わりはないんだ」


 そう言って今度は義妹の両隣の2人を見る。


「それから良い機会だから、君達にも言っておく。

ラビアンジェはロブール公爵家の公女だ。

今の君達は学園生活が主だが、ここでの短い4年間を過ごせば貴族社会に出て、社会的身分という立場に支配される。

卒業後の身の振り方を考えて過ごすのは、言われずとも貴族として当然の教養の1つだと心得た方が良いだろう」

「「「……」」」


 令嬢達は全員が押し黙る。

救いを求めるような視線をいつも連れ立って婚約者を責める王子へと向けた。


「私の婚約者へのこれまでの言動に君達を感化させてしまったのは私の責任だ。

ロブール公子、これまでのロブール第1公女への言動については心から謝罪する。

彼女達のこれまでの言動も、私に感化されたものについては合わせて謝罪する。

この通りだ」


 そう言ってこちらを向いて頭を下げた。

それに合わせて向かいの令嬢達の後ろに立っていたヘインズも深く頭を下げる。


「ロブール公女とは、全てを明らかにした上で改めて話をしていく」


 妹本人への謝罪はその時に考えると言いたいのだろう。

素直に謝るには、妹自身にも問題があり過ぎる。


「わかりました。

ジョシュア第2王子。

謝罪するという事は、先にを取られているという認識でよろしいか?」

「ああ。

個人的な立場であるなら、問題はない」


 その返答を聞いた瞬間、目の前の3人は息をのんだ。

それはそうだ。

王子が許可を得る相手は限られている。


 王家が管理する影の報告書を、王子であっても無条件に見られるはずもない。


「ならばミハイル=ロブール個人としては、妹のラビアンジェが許す範囲での謝罪に関しては受け取りましょう。

ヘインズ=アッシュ。

君についても同様です」


 そう言うとヘインズは頭を上げて真摯な面持ちで頷いた。


 そう、あくまで俺個人として、妹が許してきた範囲に関しては、だ。


 兄としては違う。

妹を悪意をもって直接的に傷つけられた事を、金や言葉程度で許せるほどお人好しではない。


 それにロブール公爵家としてはわからない。

王子も謝罪に許可が必要なように、ロブール公爵家としての俺にも受け取りには許可が必要になる。


 それには当主である父の意向が大きく、そして父の感情は未だに読めない。


 そもそもこの婚約を実妹で継続し続けなければならない理由もわからないんだ。

もちろん血筋的な立場でいえば母親が平民であるシエナが致命的に劣るが、本当にそれだけか?


 国内外の情勢も落ち着いているし、どちらも先代公爵である祖父の血は同じだけ引いている。

勤勉さ、教養、魔力や魔法は全て義妹の方が優れているし、今となってはわからないが王子も実妹と義妹を差し替えたいと望み続け、婚約関係も破綻しているのに。


 正直あの報告書にあった義妹の言動については驚かされた。

失望もした。


 だが裏を返せば、腹芸もできるという事だ。


 何より養母だけでなく王子の言動に感化されたせいだとも取れ、養女であっても公女であり学園での学力も優秀であるという側面を考えれば、妃教育を施してどうとでもなるレベルだと現状では取れる。


 少なくともあらゆる義務から逃走する方向に能力を全振りし、無才無能と広く知れ渡る実妹よりも余程適性がある。

王子の妃に自給自足能力は要らない。

まさかあの報告書で実妹を少しばかり見直すとは思わなかったが、妃や公女としての方向性が違いすぎる。


 改めて考えればわからない事が多い。

だからこれ以上は受け入れるわけにもいかない。


 そこまで考えて令嬢達に意識を向ければ、俺達の様子に体を震わせながら顔の色を失くしつつあった。


 いや、義妹のシエナはむしろ顔が少し赤くなっている?

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