26.異世界チートの逆輸入

「そうね、キャスちゃんの言う通りね。

あのシュシュは補助金も少ない、学力が低くなりがちなDクラスの商品だもの。

特に学園祭で販売開始直後に即完売した限定品に、Dクラスを馬鹿にしてる各学年のBクラス以上を重きに置くシエナが買うなんて有り得ないのよね。

元々あの限定品を購入する8人は初めから決まっていたのだもの」

「それって八百長とかサクラって言うんじゃ……」

「まあ。

ちゃんと手順は踏んだのよ?

経営戦略と言ってちょうだい」


 キャスちゃんてば私と前世の記憶を共有しているからか、時々不穏なワードを口にしちゃうのよ。


「そうなんだ?

むしろその2つはそういうの無しでよく売れたね。

ちびっ子王女が身につけていたのは残りの2人が買ったどっちかって事?」


 可愛らしい真っ白なお狐様が9つのもふっと尻尾でバランス取りながらテーブルにちょこんと座ってカップの前で腕組みしているわ。


 何てメルヘンな世界!

素敵か!


 くっ……こんなにキュートなのに……でも家庭内別居の危機が去るまでは何もしなくってよ!

私、頑張る!


「そうなるわね。

10個の限定品だし、8人のうちの何人かは社交界でのインフルエンサーの役割も担ってくれているから、良い噂が起きたのならまず手放さないわ。

話題沸騰の限定シュシュに、チャリティー的な要素も組みこんであのシュシュは金貨1枚。

銀貨3枚の他のシュシュとは材質も作りも違うし、レースもつけているから確かに人目は引くわね。

キャスちゃんのそれも布切れを縫い合わせていても安っぽくはないでしょう?

残りの2つは外部からのお客様で1人は売り子をしてた同級生が来年度、といってももう今現在なのだけれど、新入生の女の子だったと言っていたわ。

もう1人は妙齢の女性よ」


 ふふふ、どうかしら。

荒ぶるキュートへの熱望を抑えて平静をしっかり装う完璧な淑女!

伊達に稀代の悪女と呼ばれていないのよ、私。

今こそ悪女ステータスをマックスレベルに開放よ!


「よく覚えてたよね」

「キャスちゃん、いくら素材は良くてもあの切れ端を縫い合わせて作った物に金貨1枚出すのよ?

嫌でも印象に残るわ」


 この世界の硬貨は1枚が日本円にしてこんな感じよ。


・大金貨;100万円

・金貨;10万円

・大銀貨;1万円

・銀貨;1,000円

・大銅貨;100円

・銅貨;10円

・鉄貨;1円


 1つ10万円のシュシュって、ぼったくりもいいところじゃないかしら?

そりゃ少しくらいならおまじないのようなものを1つくらいかけて差し上げましょうかとなってしまうでしょ?


「確かに。

にしてもあんな少ない補助金でよくあれだけの事をやってのけたよね。

ていうか、何だか呼吸が荒くない?」

「ふふふ、前世で異世界での便利な一生を思い出して興奮しただけよ。

ちょっと深呼吸して落ち着くわ」


 スーハー、スーハー。


「もう平気よ。

あっちの世界で過ごしたせいで、今世の魔法があるのに不便な生活がどうにも我慢ならなかったの。

一々紐やボタンでしか止められないゴムのない世界がどうにも不便だったわ」

「ゴムを普及させるのにシュシュを流行らせるとか、遠回りしすぎ……」

「そこはほら、物事には順序って大事でしょ」

「はいはい。

何だかんだでベルジャンヌの時から才能豊かな大天才だったのに、前世で異世界の知識まで仕入れてこっちに転生したんだから、前世のラビが好きだったラノベの異世界チートの逆輸入だよね」

「あらあら、うふふふふ。

キャスちゃんてば、私と記憶を共有してるから時々うまいこと言うわよね」


 良かった。

悪女ステータスを開放したお陰で冷静になってきたわ。


 前世の私が好きな小説のジャンルはミステリーだけじゃないの。

ファンタジーもホラーも現代史もエッセイも、15禁も18禁もBLも百合も含めて気に入ればあらゆるジャンルを読破した愛読家、または活字中毒者とも言うわ。

中身は享年86才のお婆ちゃんだから、年齢指定はフリーパスよ。


 こちらの世界に転生して残念なのは不便な事だけじゃないの。

今世の趣味でもある読書。

この世界にはまだまだ自由な作風の小説がなくて寂しいわ。

漫画なんて論外よ。

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