File No.18:トクサツ特訓のすすめ!
――あたし、
この前サースマリン地方から異動されてきたエリート隊員、フィーリア・J・プラチナムが本部基地にやってきた。
ところがうんとこどっこいしょ。
あたしがトクサツ戦士
ヒーローの立場潰されたあたしの事可哀想って思う人、思い切りあたしを慰めて、お願い!!
シーーーーン。
……もういいわよッッ!!!!
「ムニュ……またフィーリアさんの事で悩んでるんですか?ヒロミさん」
「あ、ルリナちゃん起こしちゃったゴメン……」
えーと今の状況を単刀直入に説明すると、
あたしとルリナちゃん二人で【ダブルベッド・ラブラブグッドナイト】してました。
要するに、フィーリアの件でここ数日眠れなかったあたしをルリナちゃんが心配してくれたの。
「フィーリアさんも仲間なんですから、気にすることないじゃないですか。それにヒロミさんトクサツ戦士なんですし、比べることもないでしょう?」
「そうなんだけど……せっかくのトクサツ戦士の見せ場をまた潰されたら主人公としての立場が」
「メタいですよ」
「ゴメン……」
ルリナちゃんに注意されるほど、あたしも相当参っていたのを自分でも分かっていた。
そこで、ルリナちゃんがある提案を思い付いた。
「……じゃ、私達で特訓してみませんか?」
「特訓?」
「そうです。自分だけの力で鍛え上げて、フィーリアさんを見返してやるのです!」
特訓かぁ、でもあたしの為に協力してくれるルリナちゃんの提案を断ることなどあたしには出来ない。
それに一回はフィーリアをギャフンと言わせたい! アクションも出来ないヒーローなんかスタントウーマンにもそっぽ向かれるわ。……無論吹き替えもスタントも使ってないけど!!
「……分かった、あたし特訓してみる!」
「そうと決まったら早く寝ましょ、ヒロミさんおやすみなさい☆」
――ぷちゅ、むにゅ~~♡︎
「はぁぁあん♡︎♡︎ Zzz……」
ルリナちゃんのマシュマロキッスと、プリン感覚の巨乳サンドは、あたしにとって睡眠薬以上の快眠を得られる特効薬。これのお陰で毎回百合百合しい夢を見れるのは秘密である。
★☆★☆★☆
――――翌日。
あたしとルリナちゃんは自宅で朝食を取りながら特訓の会議を行った。
「……で、特訓ってどんな事をすれば良いのかな?」
「この前ヒロミさんが特撮見てたときに丁度特訓のシーンをやってたんですよ。えっと、崖から岩を落としてそれを避けたり、必殺技でぶつけたりするような感じです」
……あー、特撮の中でも特にオーソドックスな特訓だなそれ。
「ちょっとそれは、効率的じゃないから止めた方が良いかな?」
「どうしてですか?」
あたしは特撮で何回もそーゆーシーンを見たから分かるの。
――ある特撮ヒーローの場合は、セオリー通りに岩を落として技の威力を鍛え上げようとしていた。
身体で受け身を取りながら落ちてくる岩を技で打ち返し、時にダメージを負いながらもヒーローはあることに気付いた。
『そうだ! ○○キックのパワーを2倍にすれば……!!』
と言いながら呆気なく解決したり。
――またある戦隊ヒーローも強敵にリベンジすべく、崖の岩を使ってソイヤソイヤやって鍛えたのは良いけれど、またしても強敵にやられてしまう。
『こうなったら、これしかない!!』
これを見かねた司令官が、ヒーローの強化スーツのパワーを調整する装置のダイヤルを『2』から『5』に回した途端に、別人のようにヒーローが強くなって敵を倒した。結局岩がなくても解決するようなのばかりだった。
「だから止めといた方が良いわよ?」
「む~~」
ルリナちゃんは口を籠らせながら別の案を考えた。
「……じゃやっぱり地道に筋トレですよ! 日頃から心身鍛練を磨きあげてこそ……」
またしてもあたしはその提案に待ったを掛けるように、ピラッと1枚の紙をルリナちゃんに渡した。
「……何ですか? これ」
「フィーリアの日課トレーニングのラインナップ。これやってみたらって彼女に勧められたの」
「『腹筋・背筋300回、腕立て500回、スクワット200回、ランニング30㎞ etc.』……」
ルリナちゃんも自分で読み上げながら、その運動量に気が遠くなるくらい白目を向いた。
「フィーリアはそれプラスで拳法も武術も習ってるんだから、追い付こうなんて思ったらアラフォー越えるわよ」
「むにゅにゅ~~~~」
段々とルリナちゃんの籠りから苛立ちが見え初めてきている。それでも可愛い、異論は認めん。
「もうヒロミさん文句ばっかり! じゃどんなのだったら良いんですか!?」
……流石にワガママすぎたかな。でもあたしにはこーしたい!って願望はちゃんとあるの。
「あたし、実際にトクサツ戦士に変身して自分の力を試したいの!!」
「……それはトクサツールの力がどれだけ通用するか、って事ですか?」
「そう! トクサツールはイマジネーションで無限のパワーを生み出すって言うけれど、それがどんな感じになるのか実際に見てみたい!!」
今までトクサツールの力は怪人に遭遇したときのような本番と、家具生産でしか発揮したことがない。
今まで一番大きかったのは、ブレイドピア全般に放たれた『外出自粛ビーム』。
果たしてイマジネーションの力はそれを上回る能力を発揮するのだろうか、所持者であるあたしは興味に引かれていたのだ。
「じゃ、例の場所でやりましょう!」
「例の場所?」
★☆★☆★☆
――向かったのは、壮大な崖で囲まれた『ウォーキャニオン』
特撮の大掛かりな撮影の聖地みたいな崖の下にあたしとルリナちゃんがポツンと立ち尽くしていた。
「ここなら誰にも見られないし、思う存分トクサツ戦士の力が発揮できますよ!」
「そりゃ見られないだろうけど……」
あたしにとっては若干苦い思い出のある場所でもあった。
崖の上の怪人大軍団に囲まれて、ブレイドピア全般に奇襲を掛けたあの悲劇……
もう2度と、皆にあんな思いはさせたくない。そんな思いがベルトに蓄積されて、あたしの闘志を駆り立てていく。
「……よーし! 見せてやるわトクサツ戦士の底力を!!」
あたしはピンクのジャンパーを開いて、腰のベルトを露にさせた!!
さぁ、皆さんも一緒に変身しよう!!!
「クルックル~♪ シャキーン!!」
……ところでこのシーンを読んでる読者の皆ってどんなBGMが流れてるのかな? 今度感想か何かで聞いてみたいわ。
「――巻~き毛、クルクル!
――わ~たあめ、クルクル~♪
――クルリと回って……トクサツ
掛け声が終わったと同時にベルト中央のシャッターが開き、虹色の結晶『トクサツールコア』が現れた!!
「そ~~れッッ!!!!」
――ギュビビビビビビィィィィィン!!!!!
(ナレさん)トクサツ少女・石ケ谷ヒロミは、変身ポーズでベルトの『トクサツールコア』にエネルギーを溜めることによって、【トクサツ戦士・HIROMI】に変身するのだ!! ――そして皆さんお久しぶりぃ☆
大ジャンプ、空中一回転からの着地!!
「トクサツパワーでがんばるぞい! トクサツ戦士HIROMI、参上ッッ!!」
――クルンッ♡︎(バイザー越しのウィンク時に出る効果音)
「じゃ早速ですけど、自分の理想のアクションをやってみてくださいな! ヒロミさんの想像力が運動神経にも影響される筈です!!」
「分かったわ、やってみる!!」
ルリナちゃんの言うとおりに、あたしは思う存分殺陣アクションを披露した。
連続側転からの空中後方宙返り、こんなのはトクサツパワーじゃ御手の物。更に畳み掛けるように月面宙返り、渾身のムーンサルト!!
そこでルリナちゃんが事前に用意してあったカメラ形式で跳躍測定が出来るジャンプテスターで、あたしの垂直ジャンプの距離を測った。
「凄い! 30メートルジャスト!!」
成る程トクサツ戦士のジャンプ力は30メートルか。中々ポテンシャル的にも優秀だし、慣れればもっと伸びるかも!
じゃ、横からの水平ジャンプはどうかな?
「とおッッ!!!!」
羽ばたく鳥か流星の如く、水平直ジャンプで飛び立ったあたし!! この華麗なるジャンプもルリナちゃんが正確に測定してくれた。
「……横ジャンプは75メートルです!!」
すごーい! こんなにハイスペックなのねトクサツ戦士って!!
「っと!!」
低空ジャンプから地上に降り立ち、あたしはルリナちゃんの元へ戻ってきた。
「凄いじゃないですかヒロミさん! 全然フィーリアさんよりも引けを取らないですよ!!」
「あたしも自分でびっくりよ! 運動得意じゃないのに、こんな力出せるなんて!!」
二人とも無邪気にトクサツ戦士の力と可能性に喜んだ。でもあたしはもう一つ試してみたい事があった。
「ここまで来たらデカイ技でも撃ってみたいわね、一発スカッとするやつ!!」
でも今まであたしが見せたのは、パンチにキックに癒しのキッスくらい。前のキューブだったトクサツールの時みたいな派手な兵器とか出来るのかなぁ?
(ナレさん)トクサツ戦士の力の原動は想像だけではない。身の回りにある人や趣味に関わる愛情もパワーとなるのだ。
「愛情?」
「もしかして……ルリナちゃんとの百合パワーって事?」
(ナレさん)その通りである!!
「「うぇえええええ!!?」」
驚いた。ルリナちゃんとのラブラブ百合ぃな展開もトクサツ戦士の力になるとは。思えばルリナちゃんの鼓舞で変身したようなものだし、合点が行くわ。
「……じゃ、試してみます?」
「やってみよ!あたしに思い切りハグしてルリナちゃん♡︎」
「それじゃ……ムギュ~~~♡︎☆♡︎」
ルリナちゃんのプニュプニュとした素肌があたしのすべすべなスーツからも直で伝わり、癒しのパワーがみなぎってきたぁ!!!
「ッしゃあ! 力が、愛が溢れるだ!!」
若干訛る程の膨大な百合パワーを得たあたしは、溜めた力をあの巨大な崖に全身全霊を込めた!!
「クルクル~~~~!!!!」
百合とトクサツのパワーを背に受けて! 今解き放たれる特大技!!
「HIROMIちゃん・ワンダーワイドスラッシュ!!!!」
(ナレさん)『HIROMIちゃん・ワンダーワイドスラッシュ』とは、両手の指先から縦方向に上下広げて半円を描いた巨大な切断光線を前方目掛けて発射する凄まじい威力を持った技である!!
半円の斬撃光線が放たれ、距離が離れる毎にその光線が大きくなって、最終的には高い崖と同じ30メートルまで光線の幅が大きくなる。
そして……
――――ジャキィィィィィン!!!!
崖が真っ二つに切断された鋭利な音が聞こえたと同時に、突如地響きを立てながら崖が自然と積み木、或いは屋台崩しのように壁のように覆い尽くした崖が崩れ落ちた。
「「……………………」」
あたしもルリナちゃんもそのとてつもない威力に口をあんぐりと開けながら茫然としていた。
崩れた崖から遥か奥の海辺を見てみると、斬撃によって水面をも切断されていた事が分かった。いくら何でもこれはやり過ぎたかしら……?
「……ルリナちゃん」
「……何ですか?」
「あたし、特訓要らない気がしてきた」
「…………そうみたいですね」
百合パワー、恐るべし……!!
★☆★☆★☆
あたしとルリナちゃんは自宅の喫茶店に戻ってからしばらくして……
――ピリリリリ!
あたしは特訓で疲れはてた体を起き上がらせながら、スマホの着信に応対する。相手は……W.I.N.Dのサブロー総司令官だ。
「もしもし……?」
『あぁ、ヒロミ君かね? ちょっと君に確認したいことがあるんだが……
私が留守から本部基地に帰ってきたら、基地が真っ二つに切断された跡があるんだが……何か知っているかね?』
………………そう言えば、『ウォーキャニオン』の崖を崩した向こう側って指令本部基地があったような。
「……イエ、トクニゾンジアゲマセン」
私は片言になりながらもしらを切った。
『なら良いんだが……誰がこんな仕業を――』
そして一方的に着信は切られたのだった。
「……私最初から分かってましたよ! ヒロミさんはフィーリアさん以上に凄いパワーを持ってるって!!」
いや、持ちすぎるのも困りようだわ!!
(ナレさん)こうして、トクサツ戦士HIROMIの限りなきトクサツパワーを目の当たりにしたヒロミは、『あー、
行け、トクサツ戦士! 戦え、トクサツ転生少女ヒロミ!!
〘おまけ〙
ヒロミ「全国の良い子の皆! よかったらトクサツ戦士HIROMIの新しい必殺技を感想欄で書いて考えてみてね!!」
――クルン♡︎
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