File No.12:変身!トクサツ戦士誕生!!

 タケルから緊急事態を聞かされたあたしとルリナちゃんは、急いで『W.I.N.D』本部基地に向かった。


「タケルッ! ブレイドピアは!? あの怪人達はどうなったの!!?」

 あたしは息を切らしながら、タケルや総司令官の元へ辿り着くが……その風景はとてつもなく張り詰めた空気だった。


「……ヒロミ、これは一体どういう事なんだ!?」

 タケルは深刻な顔であたしを睨み付ける。


 そして、ブレイドピアの各所に設置したカメラに写された複数のモニターには地獄が見えていた。


『こちらスノース地方本部! 溶岩の身体を持つ無機質な未確認生命体が襲撃中!! 直ちに応援を……うわああああああ!!!』


『サースマリン地方、こちらサースマリン地方本部、巨大鯨によって起こした数十メートル級の津波が発生! 各部員は直ちに避難せよ!! 繰り返…………』


 各地域に設置された『W.I.N.D』の地方支部の様子から伺うように、隊員達の悲鳴や、途中で通信が切断されて安否確認が出来ない非常事態に陥った。


 それだけではない。他の街や都市でも化け物のような怪人に人々が理不尽に襲われている。

 子供は泣き叫び、逃げ惑う人は血を噴き出し、ある人は死を悟ったかのように自棄に陥り殺されるのを待っていた。


 ――――こんな現実、地獄以外の何物でもない。


「……あたしのせいだ……! あたしが封印なんて解いたから、悪の化身が復活しちゃったんだ――――ッ!!」


 今までの威勢を張っていたあたしの心情が一気に崩れ落ち、その顔からは涙が滴り落ちて恐怖でひきつっていた。

 ルリナちゃんも基地にいた戦闘ちゃん達も皆、絶句の一言に尽きた。


 そして、この惨劇に耐えきれなくなったあたしは…………


「――――もう嫌だ!!!!!」

 我が身を振り捨てるように基地から逃げ出した。


「ヒロミさん!! 待って!!!」

 逃げ出すあたしを追うように、ルリナちゃんも後から駆け出す。


(……無理もない、英雄が復活すると思い、封印を解いた筈が何も起こらなかった。更にアイツの武器だったトクサツールも使えない、こんな状況……誰でも絶望したくなる――!!)


 タケルもあたしに同情しているのか、握り拳を強く握りしめながら、傍観するしかアイツに出来ることはなかった。

 そして総司令官のサブロー司令官が、苦渋の選択をモニター越しから下した。


「『W.I.N.D』全隊員に次ぐ!! 我が機関全ての勢力を上げて、住民達を守り通すことに専念せよ!! 一筋の希望は捨てるな!! 英雄の力を借りずとも、我々の力で戦うのだ!!!」


『『『はっ!!』』』


 隊員達もモニター越しから敬礼の掛け声を立てる。流石機関を束ねる総司令は、こんな時でも諦めることをしなかった。そして、タケルも。


「……司令官、俺もこの砦を守る義務があります! 命を懸けてでも、司令官や皆は俺が守る!!」

「うむ、頼んだぞタケル君!!」


 ……皆、死ぬかもしれないのに勇気を振り絞って必死の思いで戦おうとしている。

 それなのに……力のないあたしは――!!



 ☆★☆★☆★


「ヒロミさん待ってください!! 逃げないで!!!」

 基地からかなり離れた草原でようやくルリナちゃんはあたしを引き止めた。


「戻ったところであたしに何が出来るのよ!? トクサツールも失った以上、あたしは何の力も無い只の特撮好きの変わり者女よ!!!」

「そんなこと……」


「転生して何になったの!? 前世が男か女かも何もかも分からないあたしに生まれ変わった意味があったの!!? こんなあたしなんか…………ッッ」



「――――そんな悲しい事、言わないで下さいッッッッ!!!!!」



 するとルリナちゃんはあたしにガバッと強く抱き締めて、即座に唇を奪い取った。



 ―――――ぷちゅ~~♡︎♡︎♡︎(ディープ付き)



「ホワワワワ~~♡︎♡︎」


 今まで焦燥と恐怖に襲われていたあたしの心を、ルリナちゃんのピュアな唇と、後からソフティな巨乳で一気に和らいだ。

 ダブルラブ攻撃にやられたあたしは力が抜けたところで、再びルリナちゃんが今度は優しくあたしを抱き締めていった。


「……ヒロミさんが例え前世が男であっても、他の存在であったとしても、私はヒロミさんの事が大好きですよ。

 ――だって貴方は、私の唯一のなんですから!」


「……救世主?」


「そうです。初めて出会って、私が敵に襲われた時に必死に私の事を助けてくれたじゃないですか! 凄く嬉しかったですもの!!

 その時からもう私にとってヒロミさんは、オンリーワンなヒーローになってるんです!!」


「!!!」


 あたしはルリナちゃんの言葉に心の底から励まされた。そして思い出しつつもあった!


「どんな事があっても、私はヒロミさんの味方です! だから……あっと驚く想像力で、皆を助けてあげてください!!」


 ……そうだ、大事なことを忘れていた!!


 あたしが救世主になる為に必要なのは、

 大好きな特撮ヒーローの持つ愛と正義の心と……


 ――――不可能を可能にする不思議な力、イマジネーションなんだッッ!!!



 ――ドックン!!!!


 再びあたしの心に発作を起こすような衝動が起き、悪夢の時の同じく闇の中に誘う。



『目覚めよ、内に秘めたる英雄の魂よ。今こそこの【トクサツールベルト】で、変身の時が来たのだ!!』


 闇の中に映し出されたのは、あたしが腰に巻かれていたピンクベースのベルト。

 そして中央のコアは埋め込まれていたから分からなかったけど、トクサツールは消えたんじゃなくて、


 ベルトの中に、トクサツールが埋まっていたんだ!!


 すると直ぐ様、また現実の風景と共に意識を取り戻したあたし。


(……何だろう。急に力が、勇気が溢れてくる!!)


 握り拳と腰のベルトを見つめるあたし。本来の目的を思い出した今、最早怖いものなどは無かった!


「…………ルリナちゃん、ありがとう! お陰であたし目が覚めたよ!! 御礼にお姫様抱っこしてあげる☆」


「キャー嬉しい♡︎ ――はっ!それよりも早く基地に向かわないと!!」

「分かってるって!」


 あたしは親愛なるルリナちゃんを抱えて、再び基地に向かった。

 アドレナリン全開、疲れも重さも感じないわ!!(重いって言ったらルリナちゃんに叱られちゃう)


 ☆★☆★☆★


 ――その頃、W.I.N.D指令本部基地では……


「お出でなすったな、怪人ども!!」

 怪人達に隊員の殆どが重症を負い、制圧寸前。


 タケルと戦闘ちゃん、そしてサブロー司令官が怪人達に袋のネズミ。窮鼠に追い込まれていた!


「これで人間どもの悪あがき機関もここまでだな……死ねぇ!!!」


 もう、これまでかと誰もが覚悟した……その時!!



「ちょっと待ったぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」



 基地のシャッターから差し込む後光を浴びて、やってきましたあたしとルリナちゃん!!

 それを嗅ぎ付けて怪人達もあたしの方へ振り向く。



「な……何しに来たんだヒロミィィィィィッッ!!!!!」


 タケルも極限状態で力の限りあたしに憤るように叫んだ。


「――――あたしも戦うわ!!」

「無茶言うな! トクサツールの無いお前に何が――」


「こんな奴等が理不尽なやり方でッ! 皆に悲しい思いなんかさせたくない!!

 あたしが転生してやることはただ一つ、この世界の皆の笑顔を取り戻したい! だからアンタも黙って見てなさい!!


 ――――あたしのッッ、変身ッッッッ!!!!!!!」



 あたしは両腕を左に水平に揃え伸ばして、シャキーンとポーズを取る。そして……



「あ、ゴメン。ベルト見せるの忘れてた、もっかいやらして?」


 ズコォォォォ!!!



 ルリナちゃんタケルその他一同大ズッコケ。

 我ながら最初が決まらないなぁ……


 あたしはピンクジャンパーのジッパーを開けて、腰のベルトを皆にさらけ出した。

 ――気を取り直してもう一回! 本邦初公開変身ポーズ!!


 皆も是非掛け声とポーズを真似してみてね!


 まずはこの掛け声から!!


「クルックル~♪ シャキーン!!」


 この『シャキーン!!』で、さっきの両腕を左に水平に揃え伸ばして、ポーズを取る。そして……


「巻~~き毛、クルクル♪」


 伸ばした両腕を頭の上を通過するように一周回して、反対の右側へ両腕を伸ばす。


「わ~~たあめ、クルクル~~♪」


 また反対側へ同じように一周両腕を回して、もう一回左へ両腕を伸ばし戻す。


「クルリと回って……」


 今度は両腕を伸ばした状態のまま、足踏みで時計回りに一回転周って……


「――トクサツ変身へ~んしんッッ!!」


 両腕を左右仰ぐように頭の上に伸ばしながら、最後は胸元に構えてフィニッシュ!! どう、簡単でしょ?


 ……他の皆は「ポカーン」としてるけど。


 ポーズを終えた後、ベルトが自動的に作動して中央のシャッターから虹色のコアが表れた!

 そして決死の変身ジャンプ!!


「そ~れッッ!!!」


 ――――ギュビビビビビビィィィィィン!!!


 ジャンプと同時に虹色コアが七色に輝き、眩しい光と共にあたしを包み込む!

 数十メートルのジャンプから宙返り、地面に降り立った時、変身した姿が露になった!!



「あ……あれが……!!」


 ピンクのピッチピチなウェットスーツに純白のグローブとブーツ。胸にはクリスタル合金で出来たハイブリッドなサイバーアーマー!

 そして頭にはモジュールイヤーと準透明なバイザーの付いたヘルメット、そこからはみ出るようにチャームポイントの巻毛クルクルヘアーが出ている!


 そう、我こそは――!!


「美少女大好き~! トクサツ戦士HIROMIヒロミ、参上ッ!!」


 ――クルンッ♡︎(バイザー越しのウィンク時に出る効果音)


「トクサツ戦士――!??」


(ナレーション)トクサツ少女・石ケ谷ヒロミは、英雄解放によってパワーアップした『トクサツールベルト』に変身ポーズでエネルギー充填する事で、無限大の想像力で戦う英雄【トクサツ戦士・HIROMI】に変身したのだ!! ――それ行け、我らのヒーロー! もしくはヒロイン!!


「うわっ、何だ!? 急にどっからかナレーションが聞こえてくる!」

 タケルもビックリするのはしょうがない。あたしも初耳だもの。



(ナレーション)私はトクサツ戦士に変身した時にだけ現れる天からのナレーション、通称『ナレさん』である!

 私の役目はトクサツ戦士の力を説明すること! そして私のイメージはテレビ局から開放されたフリーアナとして思ってください!!


「いや知らねぇよ!!」


 ……ま、ナレさんはほっといて。


 こっちは怪人達と真剣勝負!!


「さぁ、あたしが相手よ! 掛かってきなさい!!」


 奇声をあげながら怪人達が突っ込んでいく。

 それをあたしはパンチにキック、華麗なる投げ技でバッタバタと倒す!!


「ちょあ〜〜っ!!」


 ビシッ、ガッ、バシュッッ!!


 変身した時は変身前のあたしの50倍のパワーを発揮するのだ!!

 あたしって強~い! 是非この小説をメディア化して映像で見せたいくらいだわ!!


「HIROMIちゃんパ~ンチ!!」


 唸る鉄拳、赤◯少林拳ばりのパンチで怪人達もドミノ倒し!!


(ナレさん)『HIROMIちゃんパンチ』とは、流星の隕石のようなインパクトを秘めた鉄拳を相手にぶつける、乙女の怒り炸裂パンチなのだ!


「HIROMIちゃんキーック!!」


(ナレさん)『HIROMIちゃんキック』とは、全ての重力を味方に付けて、敵に華麗なる飛び蹴りを食らわせる美の巨人も真っ青のキックなのだ!


(何か極端に美化させ過ぎじゃないか?)


 聞こえてるわよタケル。


「おのれぇ!! こんなちんちくりんに殺られるような我が種族では無いわ!!!」


「またちんちくりんつったな、こんにゃろーーー!!!」

「ギャアアアアア!!!!」


(ナレさん)なお、HIROMIに悪口を言う者は千倍返しにされるので要注意。


「あーあ……怪人さん粉々になっちゃった」

 ルリナちゃんの言うとおり。中身は見せられないよ!!


「……これである程度やっつけたかな?」


 散り散りと怪人の残骸が転がるなか、誰も犠牲者を出さずに退治し……


「キャアアアアア!!」


 ――て無かった!!


 ルリナちゃんが蜘蛛怪人に襲われている!!


「貴方は……倒したはずの『スパイダー男爵』じゃない!!」


『ソウダ……コウナレバ、コノオンナノイキノネヲトメテミチヅレニシテヤル!!!』


 相変わらず読みづらい喋り方!

 でも二度もルリナちゃんに手を出そうだなんて許さない!!


「あんたの悪い女癖、あたしが直してあげるわ!! ――クルクル~~~~!」


 あたしはクルクルと身体を回転させて、エネルギーを蓄積させた。

 そしてそのエネルギーを、胸に蓄えて両手にハート型に掴んで準備完了!!



「――――愛情全開! HIROMIちゃんキッス!!」


 ――ちゅぱっ♡︎♡︎


 あたしがキスすると同時に、両手からハート型のビームが発射された!! スパイダー男爵に直撃!!!



「グフォォォォアアアアア!!!!!!」


 ――ドカーンッッ!!


 スパイダー男爵は爆散、こうしてルリナちゃんの貞操は再び守られた。


(ナレさん)『HIROMIちゃんキッス』とは、HIROMIの愛情によって凝縮したエネルギーを、キスと共に解き放つ強力なビーム光線!

 これを受けた者は女の子の場合は悪しき心をも浄化し、男の場合は吐き気も催し、精神をも破壊するとんでもない兵器と化すのだ!!


 何かあたし物凄く解せないんだけど。

 ――まぁとにかく、これで基地の中の怪人は全て倒したわ!


 後やることは……ただ一つ!!


「……オイ、何処行くんだ!?」


 あたしは基地の外に出て、薄暗い空を見上げてクルクル回ってエネルギーを溜める。


「クルクル~~~~~ッッ!!」


 あたしが引き起こした始末は、あたし自身が片付ける! ばら蒔いた悪を徹底的にお掃除よ!!



「HIROMIちゃん・緊急事態宣言で悪い子はとっととお家へ帰りなさい攻撃!!!!!」


 あたしの全身から眼を覆いたくなる程の眩しい虹色の光を解き放ち、それがブレイドピア全体に広がった!!



(ナレさん)『HIROMIちゃん・緊急事態宣言で(以下略)』とは、そのまんまの意味である!!


「説明めんどくさいならやるなッッ!!!」


 虹色の光を放出し終えた後、空はいつもの平穏な青に戻り、一時の平和が戻った。


「特撮ヒーローは強~い!! トクサーーツ戦士ッッ!!!」


 クルン♡︎と勝利の決めポーズ! 決まったぁ。

 そして……



「……司令官! ブレイドピアの各地域での襲撃が皆収まりました!! 怪人も兵器もありません!!」

「何、本当か!?」


 隊員の報告でサブロー司令官やタケルや皆も、モニターに集まる。

 天地がひっくり返るような地獄の風景から一変、町や自然がいつもの静けさを取り戻していった!


 その知らせを聞いて、あたしも基地から戻ってきた。


「あ、ヒロミ! ブレイドピアの怪人達は皆消えていったぞ!! 全部お前がやったのか!?」


 タケルは急かすようにあたしに質問してきた。


「……うん! でも皆倒したわけじゃないわ。一旦それぞれの居場所に戻って、おとなしくしてもらっただけ」

「え……じゃ、また現れたりするのか――!?」


「大丈夫! その時にはまた変身してやっつければ良いんだから!!

 だってあたしは、この世界のだもん☆ ――さ、ルリナちゃん一緒に帰ろー!」


「はーい!」

「トクサツールベルト、出てこいキューティクル号!」


 ベルトのコアから発した光であたしは愛車キューティクル号を出した!


(ナレさん)トクサツールベルトに進化した後も、以前のトクサツールのように武器や道具をイマジネーションで出すことが出来るのだ!


「じゃタケル! あと宜しくねバイバ~イ!!」

「ちょ、オイ! 後始末どうするんだよ!!」


 それくらい『W.I.N.D』が仕事しなさい。あたしは変身して疲れたから帰るッッ!!

 でもキューティクル号で飛び立ったあたし達を見送りながら、タケルは染々と呟いた。


「……でもアイツ、ホント凄いな。何かアイツが居ると、不可能なんて無いって思えるくらい心強いぜ……!」


 そして、サブロー司令官も。


「その通りだ。何もしないで、出来ることを『無理だ』って思っていては大事なものなんか守れないからな。彼女はその為に戦ってくれたんだ。

 ――ヒロミ君は我々に残された、最後の英雄なのだ!!」




(ナレさん)こうして、進化したトクサツールによって、石ケ谷ヒロミは英雄都市ブレイドピアの残された最後の英雄に変身し、一時の危機を救った。

 しかし、この世界には未だ底知れぬ悪の存在が待ち構えている! そして解放された他の英雄達は何処へ……?


 ヒロミは自由と平和の為に、無限のイマジネーションを武器に戦う決意を新たにするのだった!!


 行け、トクサツ戦士! 戦え、トクサツ転生少女ヒロミ!!



「あぁんヒロミさんの変身したスーツ、すべすべで気持ちいい♡︎」

「そーお? じゃルリナちゃんにあたしのヘルメットあげるー!」

「キャー! 素顔のヒロミさんもカッコいい~♡︎♡︎♡︎」



 ――運転中にイチャイチャしてんじゃねぇ!!!! byタケル


  ☆★【episode 2】へつづく。☆★

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