File No.05:恐怖・バット貴公子

 ―――秘密特別捜査機関『|W.I.N.D』特捜指揮官、タケル・C・メタルハートより報告する。

 ブレイドピアの北東部に位置する街、『サウザンリーフ』より、またしても『ジャックス』の怪人が出現した。



 住民の証言から得た情報によると、その怪人の目撃時刻は深夜0時頃。

 住宅の窓から強引に侵入し、寝室及びリビングの天井に隠密に忍び、隙を狙って住民達を襲った。


 その姿、形はまさしくの姿をした人間だったという。


 しかし、事件の核はそこでは無かった。

 そのコウモリ人間に襲われた住民には、首筋に噛まれた痕が付いていた。


 更に何者かに操られたかのように人格を失い、接触する人々に襲いかかり、更なる犠牲者……いや、同胞を増やしていった。

 まさにジャックスによる、無差別バイオテロの発生である。


 ★☆★☆★☆


 ――『W.I.N.D』特捜指令本部。


 総司令官『サブロー・スタンバナード』を指揮に取り、バイオテロ対策の決起集会を行っていた。


「――現在ジャックスのコウモリ怪人によって発生したバイオテロは、日に日に犠牲者を増加させている。

 現在感染のクラスター(集団)はサウザンリーフの地域の一部に留まっているが、いずれ首都まで広がると取り返しの付かないことになる。一刻も早く我々の手で収束させねばならん!!」


「「「はっ!!」」」

 特捜隊員一同敬礼、皆機関の信頼に掛けてでも事件解決に全力を注ぐ意気込みだ。


 そしてこの俺、タケルも総司令官の指名で指令本部室に呼び出された。


「失礼します」


 俺は部屋のドアをノックして、入室した。


「……忙しいところ済まないな、タケル君」


 部屋にはサブロー総司令官と、


「ハロー☆ トクサツ少女のヒロミで――」


「失礼します」


 一旦退出しよ……これは夢だ。あのちんちくりんがここに居るはずがない。


「戻ってきなさいタケル君!」


 総司令官がまた呼んでる。気を取り直して……


「失礼しま――」


「ハロー☆ トクサツ少女のヒロミでーす!!」


 やっぱり夢じゃなかった……


「何でお前がここに居るんだ!!」


「天と地と人が、悪を倒せとあたしを呼ぶからよ!」

「意味分からんわ!!」


「ヒロミ君は私が呼んだのだ」


 オイマジかよ……そういえばコイツんとこの探偵事務所とW.I.N.Dが、連携協定を結んだのをすっかり忘れてた。


「タケル君を呼んだのは他でもない。前のスパイダー男爵の討伐活躍を見込んで、今回もヒロミ君と協力してバイオテロ解決に尽くして貰いたいのだ」


「冗談じゃないですよ! またコイツの護衛をやるとか真っ平ごめんです!!」


 どうせまたちんちくりんに出番取られて、俺が空気になるのが落ちなんだから……


「あたしの美貌に眩しがってるの? ウブねぇ……」

「うっさい!! まな板少女!!!」


(まな板少女って何よ――?)


 ヒロミは内心異議を求めたがっていた顔をしてたが、俺は本心を言ったまでだ。


「君がいくら文句を言おうとも、トクサツ少女であるヒロミ君の協力無しでは収束には難しいのだ。引き続き護衛を頼む、これは命令だ!」


 総司令官の命令は絶対。機関はともかく社会に出ている人には当たり前のルールだ。

 当然不満はあるが、こればかりは仕方ない。


「分かりました……」

「給料貰ってる身ってのは大変ね~」


 自営業のお前に言われたないわ。


 ★☆★☆★☆


 俺とヒロミは事件が起きた元を辿るため、ブレイドピア北東部の町『サウザンリーフ』へ出動した。

 俺の愛機バイク『ウィンドサイクラー』で俺の後ろに乗っかるヒロミ。


 やたらに強めに俺にハグするように掴まるかと思えば身体をスリスリしたり……何がしたいんだお前は。


 そして現地へ――――



「……誰も居ないね」


 サウザンリーフの街並みに人は通らず、がらんどうとしている。皆、コウモリ怪人の襲撃を恐れて家に籠っているか、或いは避難しているようだ。


 そしてコウモリ怪人に襲われ、謎の洗脳を受けた住民は同じく家や施設で隔離を受けている。


「この辺りにも人は居ないか? ヒロミ」

「うんにゃダメ。閑古鳥もポッポ~☆って鳴いてるわ」


 閑古鳥は鳩か? んな事はどうでもいいんだ。これじゃ情報が手に入れないじゃないか。


「これは無駄足だったかな……?」


 俺も諦めかけていた所、ヒロミは遠くの団地マンションを眺めていた。


「……何を眺めてるんだ?」


「こーゆーマンションも、コウモリにとっては洞窟なのかなって思ってね」

「は?」


「タケル、ある程度ならコウモリの習性は知ってるでしょ?」

「あ、あぁ。夜行性って事ぐらいは」


「そう、コウモリは昼間は洞窟のような暗いとこで暮らしてる。夜に備えてね。

 ――あそこのマンションみたいにカーテンを殆ど閉ざして、夜が来るまで活動の時を伺っているとしたら……」


「――――まさか!?」


 そういえばヒロミは探偵でもあったんだ。


 確かに襲撃が起きた時刻が全て夜であること、そして襲撃されて洗脳された人々は、日中では仮死状態にされているようで、夜まで催眠状態に陥っているという情報だ。


 もしそれが事実なら、この全棟カーテンで閉ざされたマンションは……?

 癪だが彼女は推理力も長けているようだ。



「今は昼間、奴等が本格的に動くまで……二人きりの時間を過ごしましょ♡︎」


 ………やっぱ撤回。コイツバカだ。


 ★☆★☆★☆


 ――その夜。俺とヒロミはマンションの周辺を見張りながら様子を伺っていた。


「ねぇねぇ、そのタケルが口説いた女でどの子が一番魅力的だったの? あんたタイプはロリコン、熟女? どっち? ねぇ~!」


 夜までずーーーーっと俺のプライバシーにヒロミは顔を突っ込んできやがる。もう勘弁してくれ、怪人も来るなら早く来いや!!


 ――と思ったその時!


『キャアアアアアア!!!』


 夜の帳が下りた瞬間、警戒していたマンションから悲鳴が聞こえた。


「――ヒロミ!!」

「分かったわ! ダーリン☆」

「だから同棲ごっこは止めんか!!」


 猛ダッシュで悲鳴の声がした部屋へ突入した俺達。

 そこには大きなコウモリの羽を広げながら、女を襲っていた。その姿はまさしくコウモリ怪人だ!!


「キェヘヘヘヘヘヘヘヘッッ!!!!」


 不気味な鳴き声を上げて、襲った女を捨てて羽を翻し、俺達に襲いかかった!


「貴様がこの街を襲った『ジャックス』の怪人か!?」


 コウモリ怪人のその出で立ちは夜の街を優雅に振る舞う貴公子の姿、それにコウモリを移植し、醜くおぞましい形相をした男。

 中世の悪夢の象徴、ドラキュラのような怪人であった。


「――私の名はバット貴公子。この私の夜の晩餐を邪魔するとは礼儀を弁えぬ奴め。失礼千万だぞ」


 こないだのスパイダー男爵みたいに読みづら……いやいや、聞きづらい感じではない。公爵のような滑らかな喋りだ。


「夜の晩餐だと……? ――それでこのマンションがお前の御馳走って事か!」


「キェヘヘヘ……我がジャックスが開発した『バットコントロールウイルス』の力が、どれ程の威力を持つのか、この住民どもを使って実験を施しているのだ」

「人体実験だとぉ……!!」


 このコウモリ怪人の人の命を道具のように粗末に扱う言動に、俺は右手拳に怒りを溜めた。


「そしてその実験が終わってからは次の段階へ進む。我が組織から奪い取った『英雄封印データ』の入ったマイクロチップを、実験したこいつらを眷属けんぞくにして一気に奪い取るのだ!!」


(マイクロチップ――!?)


 ヒロミは横でそれを聞いてハッとした。

 そう、奴等が血眼で探しているマイクロチップを持ってるのは……


「この晩餐を見られたからには生かしては置けん! 貴様らも眷属に仕立ててやろう!!」


 すると……


「キキキキキ……」


 コウモリの超音波のような音を立てながら、さっきまで襲われていた女が死んだ目付きと顔に血筋を立たせ、口元に牙を生やして俺達に襲いかかった!


 女の首筋には、あの噛まれた痣が……


「あの女もやられていたか!」

「ひとまず逃げよう!!」


 ヒロミの提案通りに、俺達は部屋を立ち去ろうとドアを開けるが……!


「「「キキキキキ………!!」」」


 同じようにバット貴公子に襲われたマンションの住民が群がっていた!!


「……もうこんなにも犠牲者が――!」


 その数は数十人、奴によって洗脳された住民はどう足掻いても俺達の声は聞こえはしないだろう。


「さぁ、私の可愛い眷属達よ……この不届きな連中を噛み殺すのだ!!」


 バット貴公子の号令と共に、俺とヒロミに群がるように襲いかかる!


「オイ、ヒロミ! こんな時の『トクサツール』だろ!? 何か出せんのか!?」

「ダメよ! 相手は一般人よ? そんな相手に使ったら被害が広がるだけよ!!」


 ヒロミもこの非常事態では、流石に冷静にもなる。彼女に出来ることは他に無いものか……


「――でも守る事なら! トクサツール!!」


 ヒロミはキューブ状のチートアイテム『トクサツール』を天高く目掛け投げる事で、便利な道具や武器等に自由自在に変化出来るのだ!!

 その瞬時にヒロミは光を纏いながら、トクサツールの服に変化させた! 鎧か、強化服か?


「トクサツール・防護服(ハチ用)!!」


 ハチ用!? あので使うやつか? コウモリ相手に通用するのか!?


 操られた住民は牙でヒロミを噛み付こうにも彼女には効いてない。こんな養蜂所の作業着で……


「針にも牙にも刺されない! 安全保証済みよ!!」


 何の宣伝する気だ?


「住民達はあたしに任せて! タケルはあのバット野郎を!!」

「お、おぅ。分かった!!」


 俺はバット貴公子に銃を向けるや否や、奴は咄嗟にガラス窓をぶち破って逃亡した。


「また逃げる気か!!」


 俺はまた例の如く『ウィンドサイクラー』を飛ばして、大きな羽を広げて大空を飛ぶバット貴公子を追う。

 ……しかし、意外にも奴の飛行速度は速かった。夜空に舞うコウモリに成す術なく、俺は奴を取り逃してしまった。


 ――――ピリリリリ……


 俺の携帯端末の着信音が鳴る。相手は……強引に連絡先を教えられたヒロミからだ。


「――もしもし?」


『今ちょうど住民達が自己催眠で眠って落ち着いたわ。そっちはどう?』


「……ダメだ。逃げ足が速くて逃げられた」


『……そう、仕方ないわ。とにかくこれからは……あたしだけじゃなくて、助手のルリナちゃんを守った方が良いわよ』


「どういう事だ?」


『アイツらが狙っている『英雄封印データ』の入ったマイクロチップ……


 ――――

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