第134話 セントラリア
セクター40。そこは最長約2km程、楕円形の地下大空間。
オールドアメリカンな廃墟が建ち並ぶ町並み。そこに住まうは、正体不明のキモ生物に寄生された
永らく、物静かなで平穏な時を過ごしていた住人たちであったが、久方ぶりの来客の到来に現在、町を上げての大歓迎ぶり。狂気の大狩猟祭、絶賛開催中。
そのパラサイトなパラダイスタウンに意図せずの来客兼、獲物認定の米軍部隊。
当初の海兵隊に途中応援に参戦、フォースリーコンと
マリーンレイダース。
殺到する祭り参加者第一陣を捌くも、海兵隊は部隊長を含む11名。
レイダース1名が犠牲となり、現在フォースリーコン「ウルフ1」5名。
レイダース「ディンゴ4」4名。海兵隊「ハウンド・ゴルフ」4名の計13名。
第二陣が攻め込む前に、とりあえずは近場にある防御力の高い建物への退避。
この場合はコンクリート製の公共機関施設をまず考え付く。
このレトロな雰囲気からショッピングモール以外、現代とそう変わりは無いであろう。尚且つ田舎町でも在る頑丈な建物の公共機関と言えば、学校、病院、役所、保安関連施設辺りが思い付くが、高いリスクも考えられる。
それは、建物内にも多数の脅威がいる可能性。その点で学校、病院は特に可能性が高く除外。
それらを踏まえ、最有用な退避場所を選択するとなれば──。
「やはり‶群保安官事務所〟でしょうね」
そう呟くのは、レイダースに随伴し、海軍所属ながらもチーム編成にも組み込まれている、
「まぁ、妥当だな。程度は知れるが、ここなら色々と武器類も取り揃えているだろうし、ベットが置かれた仮眠室もあるし、一時的に立て籠るには最適だろう」
「ああ、先ほどの変異したマーロー中尉の件もあろうし、長物の近接武器が必要だな」
そう語るは、ウルフ1リーダー「ラーナー大尉」とディンゴ4リーダー「ブルース大尉」。現在この混成チーム滞在する場所は、外壁は赤レンガ風、コンクリート造りの2階建て。窓には鉄格子。建物看板には──。
『Centralia County Sheriff’s Office(セントラリア群 保安官事務所)』
退避場所に保安官事務所をラーナーに提案したのはクロエであり、部隊先導を任せられたリーコン隊。即時に【鼻ムズレーダー】スキルにて感知反応を示した「黒ブロッコリー」の案内により、迷う事なくこの場所へと退避に至った。
おそらく、当初この町が非常事態に陥った際に、保安官を含めた治安職員総動員で、事の対処に出動したのだろう。所内に寄生された職員はおらず、もぬけの殻だ。
「ハハン、ここなら思う存分、無限に鼻をほじれるね」
「さすが、鼻黒ッコリー専任曹長!それは、実現不可能とされた『永久機関』!
無限、無尽蔵のエネルギーがその鼻から得られるってことっすねー!」
「なんのエネルギーだよ!それと、その呼び名!」
早速、戦闘グローブを外し、鼻を抉るようにほじり捲るダドリー。カオスボケの『ジミーホッパー二等軍曹』と、それにツッコむ『ダフィ一等軍曹』。
余談であるが、アメリカに置ける市警察組織は大都市部のみ。予算の関係上、地方の治安保全を担うのが「州保安官」や、小規模の市町担当の「群保安官」である。
因みに映画やドラマでは複数人の保安官が見られるが、実際に「群保安官」の肩書きを持つのは、四年に一回の選挙で選ばれ、その地域の管轄を任せられた唯一名のみ。他は保安官が任命した「副保安官」「保安官代理」。それ以外は「治安職員」である。
「それで、ギブスの容体はどうなんだ、カミズル少尉?」
と、負傷した同チーム戦友の様子を心配気に尋ねるラーナー。
変異したマーロー中尉に、錯乱した海兵隊員が発砲により、後方にいた仲間二名が即死。ギブス曹長は右腕に被弾。
ここ群保安官事務所に退避後、クロエは仮眠室にて、軽装のわりに例の如く何処ぞから結構な手術用キットを取り出し、ギブスを
この間に他のメンツは、手分けして事務所内の索敵、安全確認、補強及び、各室内状況把握&物資調達。そして、クロエが手術を終え一先ず落ち着き、会議室と思われる部屋に、ギブス以外の全員が集まったところで、各情報交換に至る流れであった。
照明は、何処ぞから拾ってたランタンを使用。カーテンは遮光性のものであったが、灯りが外に漏れぬよう念の為、縁をダクトテープで塞いでる。そんな中、外では何やら、わーきゃーと多数 駆けずり回っている様子。
「ええ、症状名で言えば、右腕上腕骨の貫通銃創性粉砕骨折。粉砕と言っても軽度のもの。幸いにも弾丸は、上腕動脈や上腕骨の直撃を
デブリドマン。またはデブリードマン、デブリードメントとは、感染、壊死組織を除去し、創を清浄化することで他の組織への影響を防ぐ外科処置。
「そうか……良かった。しかし、単独でそんな
「そうですか? ただの手品ですよ」
「「「んなわけ、あるかよ!」」」
ギブスの容体に関しては一先ず安心と云う事で、これまで忙しない状況の為、悠長に話し合う機会が得られなかったが、ここでようやく情報の整理だ。
「まず、ここが何処かと云う事だよな?周囲は、いずれも廃墟の様だが、アメリカの古い田舎町。この保安官事務所の看板には『セントラリア』って、あったな」
そう切り出したのは、レイダース指揮官のブルース大尉。
「セントラリア……確か、ペンシルベニア州のコロンビア群の町ですね。この町は、石炭鉱業で栄えていましたが、1962年に坑内火災が発生。政府から住民へ退去勧告が出てゴーストタウンと化したと存じてましたが、実際の事情とは異なる様ですね……」
「ああ、町ごと‶異世界転移〟と云うやつか…。消失したとは言えず、政府が妥当な理由付けで情報を操作し隠蔽。無難に事を収めたって訳か。あの化け物どもは、元はこの町の住民や飼っていたペットの類。他に野生動物も混じっていた様だな……」
「その様だね、ラーナー大尉。転移前のアフガンでの奴とも全く違うタイプね。鼻がそう教えてくれたね」
「さすが、鼻専任曹長ー!もはや全知全能っすねー!」
「黙れバカハゲ、余計なガヤを入れんな。 それとダドリーの名前がもう「鼻」だけになってんじゃねーか」
「そう。ワタシは鼻そのもの。平伏すといいね」
「うるせーよ、鼻ボケ!」
クロエの脳内情報検索から、この町の元の大まかな概要が表され、それに対して淡々と事の真相、顛末を語るラーナーと、沸き立つガヤ芸人たち。そこに海兵隊の一人が割って入る。階級は『伍長』。
「おい、ちょっと待ってくれ! 何だよ‶異世界転移〟って!? 大尉らも揃って、そんなバカげた事、マジで言っているのか!?」
他の海兵隊員も、その否定に同調する者と納得する者が半々。レイダーの方は、いずれもすでに受け入れている様子。
「ああ、まぁ伍長。そのバカげたモノを、ここに来るまで散々見て来たんじゃないのか?」
「……ええ、それは、まぁそうだけど、確かに異常な状況なのは理解しているが、さすがに話が飛躍し過ぎじゃないんですかね。確証とかはあるんですか?」
「この時点でそんなものは無いよ。地球の何処か隔離された場所かも知れないが、俺たちが知る地球の環境とは、明らかに異なる異常なエリアであることは確かだろう。今は信じる信じないの論議を講じている状況じゃない。何を以って、是か非かの確証と判断するかは、これから自分の目で見て決めろ。いいな?」
「い…イエッサー」
この後に及んで、受け入れられない現実主義の否定派を一先ず諫め、今後の対応策や、食料問題を含めた行動指針の取り決めが最重要。
だが、最大の問題点は、この周囲を徘徊する多数の脅威。そして、その脅威の元凶たる存在。
ふと、クロエは先ほどの戦闘後の、その海兵隊伍長の言葉を思い出した。
(……マーロー中尉が負った傷は、今戦った奴らの爪や咬み傷じゃない。
‶別の奴〟の別物の攻撃。最初に変異した仲間もそいつの攻撃によってさ)との事。
「伍長。マーロー中尉や最初に変異した仲間が受けた傷とは、如何なるモノの如何な攻撃なのですか?」
「え?……ああ、少尉。高さは、約5フィート(約1.5m)くらいだったか。
アレは……植物……‶花〟の様だったよ」
「ブツブツの‶鼻〟? もしや、鼻クソでも飛ばしてくるのね?」
「やめろや、話の腰を折るな。なんだブツブツの鼻って、ニキビだらけかよ」
「フッ、鼻クソを飛ばすか……。確かにそれに近いかもな」
「「「!!!!」」」
「さすが、
「マジかよ……。つか、鼻漢って、階級の呼び名も飛んで、もはや何だか分からねーよ」
「それは、どう云った事でしょう?花と言いましたね。もしや種子のような物を弾丸の様に射出すると云う事でしょうか?」
ガヤボケトリオは全スルー。要点だけを纏め、妥当な最適解を導き出すクロエ。
「ああ、正にそんな感じだよ。おそらく、寄生虫の卵の様なものなんだろうよ」
「なるほど。それが体内にて孵化し、あのような形態に変異させたと云う事ですね。それで、どの様な花なのでしょうか?植物であれば、近寄らなければ然程、問題無く避けられそうですが、その様相を知り得なければ回避しようがありませんからね」
「いや、その花は……‶移動〟しやがるんだよ」
「「「「!!!!!」」」」
「名前は忘れたが、世界最大の花に似た感じだ。その花びらは40インチ(1m)程で棘だらけ。しかもそいつは…最初発見した時、何かの死骸を……貪り喰ってたんだよ」
「「「「………」」」」
「それで、そいつは俺たちに気づき、花びらの中央口部から種子を射出。即座に反撃して殺せたんだが、その攻撃を喰らった仲間が変異し、他の仲間に襲いかかり……
何とか、それも仕留められたんだが、結果6名がおっ死んじまった……。その時は、変異の原因が分からなくて、マーロー中尉まで……」
その悍ましき経緯に、絶句するリーコンチームとレイダース。
そして、その時の事を思い返し、複雑な表情で肩を落とす海兵隊たち。
「世界最大の花と云うと‶ラフレシア〟……それに似た様相。しかも、移動可能で肉食……。このような日光の無い地下空間で活動となると、光合成を必要としない
『菌従属栄養植物』。その特性を持った肉食性動物。地球生物学史では存在し得ない、どの種にも該当無き未知の分類生物の様ですね……」
一同が言葉を失う中、顎に手を当て、淡々と冷静に生態分析をするクロエ。
「……まぁ、兎にも角にもギブスの事もあるし、周囲の状況が落ち着くまでは、ここに籠城するしかないだろう。色々あり過ぎて今は皆、混乱しているだろうし、とりあえず飯にして一旦休息を取ろう」
「「「「イエッサー!」」」」
その頃、地上冒険者’S &米軍戦隊イナバレンジャーたちは──。
「ガハハハハハハハハハ!!全くここは新拠点には最適だな、イナバよ!!」
「
「痛い痛い痛い!バンバン叩くな叩くな!折れる砕ける!レオバルトとリョウガ!もはや、それマジ攻撃だから!」
「ブォホホホホホ!まさか、酒蔵まであったとね、ほんと最高ばい!!」
「なんや、この
「みゃー!うましにゃらー!!」
「主よ、この恵みに心より感謝致します!」
「ミシェルさん、そこで服を脱がないでください、酔い過ぎですよ!はぁ、全く」
「オーホッホッホッホッホー!!」
「ミゼーア様、さささ、どぞどぞ、お酌致しますねー」
「悪いなメルヴィ。それと阿狼、吽狼よ、酒に酔うと奇妙に踊り出すのは止めよ。
動きが気色悪いぞ」
「グルワハハハハハハハハハ!!」
「ブルワハハハハハハハハハ!!」
ドンドンドンドンドンドンドンドンドン!
「ダンソン! フィーザキー! トゥーザティーザーサ コンサ!!」
「おい、テッド! その奇妙な文言とリズムステップで、何故にその狼獣人たちに近づく!?」
と、まぁ新拠点内食堂にて大宴会中。その中、黒兎獣人が某バンビーノの
「──トゥーザティーザーサ コンサ!! だっふんだ!」
「うるせーよ!!」
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