第112話 忍狼
「オーケイ! 左翼本隊に向け、全騎強速前進!!」
『『『『『
敵異形、約6万3千の大軍勢。その内3千もの先陣隊を僅か72で約2千にまで削りながら突破し、進撃速度を軽快に上げるウルフ旅団。
後方では左翼側を突破する際、指揮系統の各頭を潰した事により、キメラたちは混乱し右往左往。更にカレンの【
一時的だが追撃の手を防ぐことはできたが、何の策なのかそのまま1万4千もの左翼本隊へと強速突撃。
因みに海上自衛隊の艦船速度は、「最微速」「微速」「中速」「原速」「強速」に区切られている。
その上「第一戦速18ノット(時速約33km)」から「第五戦速30ノット(時速約55km)」の五段階。
更に上は「最大戦速(速度は艦船スペックによる)」「一杯」と、全12段階。
余談だが、現在海自の最速艦船は「海の迎撃機」との二つ名を持つ、ミサイル艇
「はやぶさ」その最高速は80km/hに達する。
「なぬっ!? せ、せ先陣隊が突破されただと!? 何故我ら左翼側に!? ふん、この「ナマ・ヒゲ太」様の軍勢を舐めおってからにぃぃ!あんなミミズの如き小布陣で何ができるくわぁ! 前列第一陣隊前進、左右から包囲! 逃げ場を無くしてから圧し潰しぇええ!! 間違ってもエルフだけは傷つけるなよぉぉぉ!!」
左翼陣本隊、屋根無し金属製 物見
身体の形状はガリ夫に近いが、頭部は棘だらけのナマズと言ったところだ。四ツ目で髭部分は硬質、先端は針のように鋭く尖り左右に太く長く伸びている。
その櫓は大型キメラの背に設置されたもので、見た目は異形アフリカ象。ドラゴンのような外殻鱗に覆われ、鼻が二本、脚が八本。
例えるなら二門の戦車砲搭載、上部に
ヒゲ太の指揮に、各部隊長ホムンクルスが檄を飛ばし、第一陣5千が動き出す。
本来であればこれらが先陣隊であり、初手投入分1千も含めれば6千もの規模であった。
その背後に、第二陣が左右距離を置き2千5百ずつで5千。更に後方に第三軍の本陣3千。その両脇に游兵軍5百ずつの1千で構成された1万5千もの大軍勢。
ウルフ旅団は、その圧巻の陣容にも怯むことなく一直線に進み往く。その後方では炎上による混乱で足止めされていた先陣隊 約2千が、残存のホムンクルス指揮により追撃を始めたところだ。
前方5千に後方2千の軍勢が、僅か72の小部隊に攻め入って来る。兇夢大津波の第二波は悍ましい白波を荒げ強大にそそり立つ。
『奴ら、
「そのようね弥宵。それと動きに躊躇の色が見えるわ」
『リディ殿の捕縛を重要視しているようでござるから、それが楔となって思い切った攻撃ができぬと見られますな』
『楽観は禁物ぞ黒鉄。抑制されているとは言え、数の戦力差では圧倒的に不利であることには変わらぬであろう』
「あーまぁ、飛んでくる核ミサイルを小鳥と勘違いし、とっ捕まえようとしているおめでたい奴らなのは好都合」
「誰が火星なんちゃら号かしら?」
「やかましい!」
付け加え例えるなら、ドゥルナスも含め総大将ガリ夫が率いるこの大軍勢は、最新鋭イージス艦を、一艘の釣り舟か何かと思い込んでいるかの思考状態。
そもそも、見当違い以前にイージス艦の存在を知らぬ、驕り高ぶった大勢力の古代バイキングのようなものであろう。
「 おーし、全騎
ここでまた陣変形。先頭トール、リディ騎はそのまま、後列は左右に段階的に広がり逆Vの字編隊。
渡り鳥を模した飛行隊列、航空隊では「V字編隊」戦車隊列では「楔型隊形」
「傘型隊形」などと呼ばれる(|→/\)。
トールの脳内、
レーダー映像では
移動目標に於いては
ピピピピピピピピ──ピィイイイイイイイイイイイ。
ロックオン ロックオン ロックオン ロックオン ロックオン ロックオン
ロックオン ロックオン ロックオン ロックオン ロックオン ロックオン
ドン!!ドン!!ドン!!ドン!!ドン!!ドン!!ドン!!ドン!!
ドン!!ドン!!ドン!!ドン!!ドン!!ドン!!ドン!!ドン!!
トールの脳内HUDにて、幾つもの光彩照準カーソルが目まぐるしく動き、複数ターゲットを同時にロックオン。
狙うはホムンクルスのみ。リディも続き、Mk18強化付与仕様 アサルトウインドレールガンにて指揮統制を破壊し崩していく。
トールに於いては、最早視覚は不要。ノールックで正確にターゲットを、砲弾の如く強化されたM27IAR 超音速の凶弾にて後方キメラも含め、ホムンクルスら上半身を弾け飛ばしていく。
更に、トール騎の黒鉄、リディ騎の弥宵が二人に倣い、他の
『『──
術名コール後に、ホムンクルスらの足元の影から、黒い棘だらけのつる草が複数伸び、身体に巻き付く。
「なんじゃいこりゃ!? くっ、こんなもの!! クソー!外れ……」
必死にもがき、膂力でぶち切り外そうとするが1ミリも切れる様子が無い。
すると徐々に痩せ細り干からび、そのつる草から幾つもの黒薔薇が開花した。
それは、身体に無数の棘が突き刺さり、血液を全て吸い尽くす吸血黒薔薇。
「エグっ! だがナイスキル、ウルフ3、4!」
『『あり難き誉れ!!』』と、黒鉄、弥宵はドヤ顔。
『我らは道を切り拓くぞ!!
指揮官が次々と倒れ混乱するキメラ軍勢。これは好機と火器管制、朔夜の攻撃指揮。仔狼たちも含めた全ダイアウルフの
そこから放たれるは、大火山噴火を思わせる放物線を描く無数の燃え盛る火炎岩、迫撃弾の暴雨。
ドオオン!!ドオオン!!ドオオン!!ドオオン!!ドオオン!!ドオオン!!
ドオオン!!ドオオン!!ドオオン!!ドオオン!!ドオオン!!ドオオン!!
⦅⦅⦅⦅{{{GYAORUARARAAAAAAAAAAAAAA!!!}}}⦆⦆⦆⦆
異形の濁流の中に次々と降り注ぐ焔の種子。爆轟音と断末魔の叫びと共にそれらが刹那に芽生え花開く紅蓮華の花。それが一直線、導くように敷かれていく爆炎のレッドーカーペット。
「ハハ! ド派手な道ができたな! おし、フォーメーション
『『『『『イエッサー!!』』』』』
縦陣に変形、燃え盛る劫火の中へと、躊躇せずに進軍速度を2段階上げ突き進む狼龍。魔術に備えて受け流せるよう、リディが予め施していた
第一陣は多数の指揮官を失い統制が崩壊。追撃の先陣隊も巻き込まれ、災害に見舞われた大群衆の如く混沌、大混乱の状態。
「な!? 何がどうなっている!? 何故にこれほど陣が乱れている!? 何故に第一陣の中心が一直線上に炎上しているのだ!? これは奴らの
第三軍大将 ヒゲ太がわたわたとパニくる中、激しく燃え盛る炎の道を抜け、何かが飛び出して来た。それは勿論、狼龍 ウルフ旅団の戦闘騎たち。
「あー、あのでかいキメラの上で、お祭り騒ぎをしている奴がここの将軍か?」
「そのようね。だんじりか、ねぶた祭りかしら? 楽しそうで何よりだわ。それより本陣には飛翔型が多数いるようね」
本陣の上空には、直径5m以上はある赤黒い肉団子のような飛翔生物が多数浮遊していた。
胴体中心に巨大な一つ目三つ瞳。身体中から多数のヤツメウナギのような触手が生え、うねうねと蠢き、胴体下部には猛禽類のような脚が三本。
「こ、こここコケーっこうなれば第二陣! 左右から鋏込みぇー!「 ニョロ目」隊、上空から
一陣と本陣の間の第二陣は、左右二手の布陣の為、真正面本陣はがら空き状態。
どうやら、大規模の実戦指揮は初のヒゲ太は慌てふためく。第二陣の各指揮官に魔力通話にて令を出し、本営からも噛み噛みグダグダで迎撃部隊を投じる。
「ニョロ目…? あのイービルアイっぽいキメラのことかしら…? それより左右陣の足止めね──LV2【
またも珍妙なネーミングに緊張感を削がれつつ、リディは左右の第二陣が動き出したところで、
その前列隊が足を取られ、盛大につんのめり、後列隊が派手に巻き込まれる。倒れたキメラを後続のキメラが踏み潰すなど、第二陣の進軍速度を大いに鈍らせた。
「にゃ、何をしている馬鹿タレどもが!!
ドン!!──ドゥウウウン!!
大声を張り上げ、陣頭指揮に勤しむ大目立ちのヒゲ太に、トールの強化M27 から超音速弾が放たれた。
だが、着弾手前でヒゲ太は瞬時に、ハニカム構造、黄色光のギアバリアを展開。着弾衝撃によりバリアは大きく波紋が生じ波打つも、完全に防がれた。
「こんにゃろー!! 小粒カスのくせに貴様あぁあ、この大将軍‶ナマ・ヒゲ太〟様を狙ってきやがったなぁあああ!! 許すまじ!!あいつをみちみちに潰して喰らい尽くしぇあら!!」
⦅⦅⦅⦅⦅GURUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!⦆⦆⦆⦆⦆
「ふーん、アホそうだが、やっぱ大将首はそう簡単に取れねーか。つか、ネーミング……」
敵攻勢が迫る中、トールはここぞと見定め大将を狙ってみたもの叶わず、あっさりと防がれたが予測の範疇。何やらヒゲ太は激昂しているが知ったことか。
特に焦った様子も無く、至って平常騎乗運転。気になるのは名付けのみ。しかし危機迫る状況であることには変わらない。
『
そんな中、朔夜が奮然とそう宣言する。この異形猛勢が埋め尽くす中、その中心部に座する敵大将に単独で辿り着くのは至難の極地であろう。だが、自己過信による慢心や思い上がった様子は一切無い。絶対的な確信に満ちた様相だ。
「 オーケイ、頼んだ
『無用でございます、即座に済みますので。──では、少々ご観覧あれ』
そう告げると朔夜は自らの影の中へと沈み、前方敵勢方向へと向かい大蛇の如く伸びていく。
──
「おー、すげー魔術! ジャパニーズアニメの忍者みてーだな!」
その影蛇は、うねりながら戦場大地を超速疾走。迫りくる敵陣の影へと混ざり何処かへと消えていった。
「否よ。いえ、その通りと言うべきかしら。確かに
「はっ!?」
『然りでござりまする リディ殿』
まさかの日本古来からの浪漫ワードに、さすがに驚愕するトール。それを是とする弥宵に続き、黒鉄から衝撃的な補足要項が語られた。
『
現在その一派、神狼ミゼーア様に仕える某ら【月華衆】頭首は姉上でござる』
「……あー、まぁ…了解したよ」
何ともな爆弾情報が投下されたが、現状は戦時下の大合戦。余計な思案を巡らせている場合では無い。と、そうこう語っている間に、ヒゲ太の足元影からぬる~とすぐ背後に浮き出て現れる朔夜。
「ふん、馬鹿め。 気付いておったわい!!」
その気配を感じ取っていたヒゲ太は即反応。背から幾つもの棘が突きだし伸び、襲い掛かろうとした朔夜を刺し貫いた。
「なっ!?」
だが、仕留めたはずの刺客が瞬時に入れ替わり、現れたのは直下部隊長のホムンクルス。
首を180度回転し、振り返ったヒゲ太は仰天。刺されたホムンクルスは何が起きたか訳も分からず虚しく息絶えた。
『──
それは、数々の忍者登場作品で定番王道の‶代わり身の術〟。だが、その代わり身に敵の身体を使い同士討ちさせるとは何ともエグイ。
念の為の標的の虚を衝く術であったが、見事に功を奏し一瞬の停止時間を作り出すことに成功。本体である朔夜が姿を現したのは、ヒゲ太の真正面。
「!!!!」
『──孤月 十文字』
そう刹那の死の宣告を朔夜は呟くと一瞬。目にも止まらぬ速度で縦、横に後方二回転の十文字。
驚愕の表情のままヒゲ太の身体は僅かの間のあと、頭部から股間、上半身中央横に十字の赤線が浮き出る。
ドスリ、ドチャ、と重みのある鈍い音と共に四つに分かれたヒゲ太の身体は崩れ落ち、大量の血液が櫓にしていた大型キメラの背に広がり滴り流れ落ちる。
『標的沈黙
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