【閑話】小さい頃勉強するのに、アドに王宮シェフ特製のケーキで餌付けされました

お勉強、私は昔から嫌いだった。


というか、勉強そのものをしたこともなかったのだ。

いろんな事を覚えなければならないということは判っていたが、冒険に忙しくて中々そこまで回らなかったのだ。


何しろ小さい時から魔の森に放り込まれて、私は走り回っていたのだから。

生きていくために、どの食物が食べられそうだとか、これは毒だとか庭師のおじいちゃんからは聞いていた。けれど、魔の森に入るとどれがどれだか良く判らなくなって、お腹の減った私は片っ端から食べてしまったのだ。


そんなの魔物でも馬鹿な冒険者でもやらないって? 


だって仕方がないじゃない。5歳よ!5歳!

5歳にそれを求めるのは酷よ!


「今でも変わらないわよね」

メラニーが横で失礼なことを言ってくれたけれど、今は違うわよ。この草食べたらお腹痛を起こすか知っているわよ。


「いや、フラン。それ食べたら普通は死ぬぞ」

「鋼鉄の胃袋持っているお前だから生きているんだ」

皆めちゃくちゃ言ってくれるんだけど……

大げさなんだって!


そんな私が、魔の森で理解したのは人間やればなんとかなるだ。


そう、覚えていなくても何でも食べたら何とかなったのだ。


毒は気持ちが悪くなったし、吐いてその地を転がりまわったこともあったけれど、私はちゃんと生きているのだから……。


だから知識をバカにしていた面もあると思う。


そんな私も、アドと婚約して王族教育が始まって愕然としたのだ。

とてもショックを受けたのだ。


アドがスラスラ問題が解けたことが理由ではなかった。

そんなの昔から勉強していたアドが取れで当然なのだ。

年も1つ上だし、当たり前ではないか!


それよりも点数が悪すぎるから、王宮のデザートが食べられなくなったのがショックだった。

元々、アドとの婚約は、王宮のデザートが食べ放題だとアドに騙されたからだ。

なのに、テストで点数が取れないと、お預けになってしまったのだ。

それは、ないんじゃないの!

詐欺だ!


許さない!


それもだ。

問題を解けないので、居残りさせられた私の前に、アドがケーキを持ってきて、美味しそうに食べてくれたのだ。


何、こいつ、鬼だ!


私は完全に切れそうになっていた。


「教えてやろうか?」

「ふんっ、いいもん!」

私にも意地があるのだ。

食い物の恨み、覚えておけよ!


心のなかで呪いの言葉を吐きながら私はアドを睨みつけた。


アドはなんか私の視線を受けてブルリと震えてくれた。

私の恨みがましい目に恐怖を感じたのかもしれない。


「お前、何が出来ないんだよ」

そう言って私の答案を見るとぎょっとした顔をした。


「王都のすぐ近くにある文官を多く排出している公爵家はどこかって、それ、お前の親父が目の敵にしている家だぞ。そんなのも知らないのかよ」

アドはバカにしているが、

「何言っているのよ。お父様はお父様よ。わたしは関係ないわよ」

私が文句を言うと、

「お前、この前、あなたのほっぺ丸々しているってつんつんして顰蹙を買っていたじゃないか」

アドに言われて思い出した。あの時は本当にあの子はおこっていたのだ。


「えっ、ああ、グレースのところの家ね。楽して碌な事言わないラクロワ家ね」

「お前、なんちゅう覚え方しているんだよ」

私の語呂合わせにアドは驚いていたが、


「だって、貴族の数って1000近くあるのよ。そう簡単に覚えられないわよ」

私は文句を言いつつ、書き込んだ。

「お前、次の問題は馬鹿でもわかるだろうが」

アドは本当に馬鹿にして言ってくれたんだけど……


「えっ、だってバロー地方にある商会で有名になって昇爵した家って、知らないわよ」

私が言うと、

「お前が仲良くなったメラニーのところだろう」

「うーん、そうなんだ。メラニーの姓って何だっけ?」

「いや、だから書いてあるって」

完全にバカにした声でアドが言ってくれるんだけど、


「書いてあるって、バローしか……そっか、バロー男爵家ね」

私はやっと理解したのだ。まさか答えが書いてあるとは思わなかった。


「そうだ。基本的に爵位はその土地の名前だからな」

「でも、我が家の名前は魔の森じゃないわよ」

私が文句をいうと、

「何言っているんだ。お前のところはルブラン地方にあるだろう」

「でも、半分よ」

私が即座に言い返すと

「昔、ラクロワ公爵家と争って半分になったんだよ」

「それで、お父様とラクロワ公爵は仲が悪いのね」

私が納得して言うと、


「それだけじゃないさ。お前のところの母親を二人して争ったって聞いたぞ」

「ええええ! あの怖いお母様を相手に、お父様とラクロワ公爵が争ったの?」

私には信じられなかった。

あの陰険なラクロワ公爵とお父様が、あの怒らせたら何をしでかすか判らない母を巡って争ったなんて、私なら絶対にしない。

お父様は、なんかこの前もお母様の怒りを買ったみたいで、黒焦げにされて魔の森に放り込まれていたんだけど、……


見た目が優しいグレースのお母様のほうが100倍ましだと私は思うんだけど。


「フラン、人は見た目じゃないぞ。グレースの母は陰険だからな。お前も気をつけろよ」

「そうなんだ」

でも、食べ物をほとんど持たせずに、実の子供を魔の森に放置するお母様よりもましだと思うんだけど……


私がそう思っていると私の目の前に一切れのケーキがフォークに突き刺されて出されたのだ。


「えっ?」

私が驚いて見ると

「二問できたからな。褒美だ」

「本当に」

私は喜んでパクリと食べたのだ。


「美味しい!」

さすが王宮のケーキだ。私にはとても美味しかった。


「取り敢えず、このプリント全部覚えろ。そうしたらこのケーキ、全部やるから」

「えっ、アド、本当に!」

単純な私はそれを聞いて、とてもやる気になったのだ。


褒美があるのとないのとではぜんぜん違う。

食べ物がかかっていると全く違うのだ。

私は宿題のプリントを必死に覚えだした。

そして、1枚終えるたびに、アドがケーキを食べさせてくれた。

それは本当に美味しかった。


私は完全にアドに餌付けされていたのだった。

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ここまで読んで頂いてありがとうございました。


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