破落戸の襲撃を撃退しました

「フラン、ありがとう! ブルーセマをやっつけてくれて!」

馬車に乗ったらカトリーナがお礼を言ってくれた。


「まあ、あれくらいは大したことな無いわよ」

私は当然のことをしたまでだ。


「でも、カトリーナ様、大丈夫なのですか? 出てきたブルーセマは体中ケーキだらけでしたよ。あそこまでやる必要はなかったのでは……」

スヴェンがやんわりとたしなめてくれたんだけど、


「何言っているのよ。スヴェン、あの男は私の事を婚約者だって皆に言ったのよ」

「な、何ですって! そのようなことを言うなど、言語道断。私がその場にいれば燃やしていました」

おいおい、なんか急に私以上に過激になっているんだけど……


「そうでしょ。フランがあそこまでやってくれて私はとても嬉しかったわ」

「フランさん。ありがとうございました」

スヴェンが頭まで下げてくれるんだけど。


何なのだ、この変わりようは?


「でも、カトリーナ様。あの手の男は根に持ちますよ。今後は一層気をつけないと」

「まあ、何かしてきたら私が叩き潰すわ」

私は腕まくりしていったのだ。そう、今は早朝の素振りくらいしか出来ていない。久々に暴れたい気分だった。


「フラン頼りにしているわ」

「その時は私も戦いますから」

スヴェンも申し出てくれた。


「あれ、少しルートがおかしくない?」

「本当ね」

でも、そんな事を話しているうちに馬車は行きとは違うルートに入ったみたいだった。


「どうしてこのルートを取っているんだ」

スヴェンが窓越しに御者に聞いてくれた。


「前侯爵様からは安全のために行きと帰りはルートを変えるように言われているんでさ」

「そうなの。お父様から」

御者の答えにカトリーナは納得したみたいだった。


でも、外の景色は、どんどん人通りが少なくなってくるんだけど……

寂れた感じがしている。


「おい、どこへ向かっているんだ?」

スヴェンがもう一度聞くが、今度は返事がなかったのだ。


「スヴェン、ここは頼むわよ」

私はスヴェンに言うと、離れにおいてあった木の棒削って作った木刀片手に、窓を開けて馬車から身を乗り出したのだ。


「ちょっとフラン、危険よ!」

「フランさん!」

「大丈夫よ」

心配するカトリーナとスヴェンに言うと馬車の屋根によじ登ったのだった。


「お、お前、なんてことを」

御者がこちらを振り返って慌てて声をあげた。


「煩いな。どこに向かっているのかすぐに答えて」

私は木刀を御者の首筋にピタリと突きつけたのだ。木刀だから臨場感はもう一つだけど、剣術は得意みたいで、おそらくこれでも人は斬れるはずだ。


一度思いっきり素振りしたら目の前の木が真っ二つに割れてしまったのだ。

嘘っ! ひょっとしてソニックブレードになった?

慌てて証拠隠滅とばかりに魔術でその木を燃やそうとしたら右手の腕輪から激痛が走って出来なかったのだ。

仕方無しにそのままほっておいたら、朝になって使用人たちが起き出して見つけて大騒ぎになったのだ。知らぬ顔をしていたら、木が腐っていたのだろうという結論になったみたいだけど……いらい、素振りは池目掛けてやっている。

それと私の腕輪は魔封じの腕輪みたいだ。誰かに付けられたみたいだ。本当に痛かった。それ以来魔術は使っていない。まあ、魔術はあまり使ってはいけないと叱られた記憶が頭の片隅にあるみたいだから良いんだけど。


「や、止めてくれ。俺はサンデル様からとあるお屋敷に連れて行けって命令されているだけだ」

木刀を突きつけられた男は震えて答えていた。


「それは誰の屋敷なの」

「それは知らねえだ」

「あんた、これが木刀だと思って舐めているの?」

「ち、違う。おめえがこの木刀で、大木を両断するのを見ただ。頼むから助けてくれ」

そう言う、御者の腕にずぶりと矢が突き刺さっていた。


「ギャッ」

御者が叫ぶやそのまま倒れる。


馬車がゆっくりと止まった。


そして、すぐ目の前の屋敷からバラバラと破落戸が出てきたんだけど。


何なのこいつら?


ついに私の出番なの!


ついに暴れられる!


私はやる気満々だったのだ。


でも、その前に扉が空いて、スヴェンが出てきたのだ。

何するつもり?


「母なる大地の神よ。我に力を与えたまえ……」

スヴェンが正式な魔術の詠唱を始めたんだけど、今どきそんな事やっていたらやられるって。


そう思った矢先に矢が飛んできたのだ。


私は馬車から飛び降りついでにスヴェンを蹴倒したのだ。


今までスヴェンが立っていた所に矢が通り過ぎる。


「何するんだ!」

地面と激突してキスしていたスヴェンが文句を言って立ち上がるが、


「今どき正式詠唱している馬鹿がどこにいるのよ。その間に殺されてしまうわよ」

私はそう叫ぶと

「あんたは中でカトリーナを守って」

そう言うと馬車の中へスヴェンを放り込んだのだ。

「ぎゃっ」

と言う悲鳴が聞こえたが今はそれどころではない。


「ふん、威勢のいい姉ちゃんだな」

男たちが笑って近づいてきた。


「そんな木刀じゃ、怖くないぜ」

「その威勢のいいのもいつまでかな」

「捕まえたらオレたちが可愛がってやるよ」

そう言うとニタニタ下卑た笑いをした男が、私に近寄ってきたのだ。

次の瞬間、私は木刀で横なくぐりにその男の顔面を剣で殴っていたのだ。


「ギャッ」

男は叫んで地面に激突していた。

少し手加減したから死んではいないはずだ。


周りの男達の動きが一瞬止まった。


皆ぎょっという顔をしていた。


「ふんっ、口だけでかい男はいらないわ」

そう言うと、木刀を構える。


「お、おのれ」

「やっちまえ」

男たちが集団で私に襲いかかって来ようとした。


先頭の男を木刀で薙ぎ払うと、次の奴の斬り込みを躱して股間に蹴りを入れる。

「ギャッ」

男は立ったまま悶絶していた。


次の斬り込んできた男の足を払って顔から地面に激突せて、正面から斬ってきた男は躱しざま肘鉄を胸に叩き込む。


だが数は多い。


私以外に馬車に取り付こうとした男たちもいた。


しまった。


目の前の男の顔面を木刀でぶっ飛ばしつつ、そちらに駆けつけようとしたら、


「ギャーーーー」

扉に手をかけていた男が瞬時に火達磨になったのだ。


男は燃えながら体を地面にこすりつけて必死に火を消そうとしていた。


スヴェンが魔術で燃やしたみたいだった。


まあ、馬車の中からなら詠唱の時間もあるのだろう。

これなら大丈夫だ。


私は残りの敵を倒そうと嬉々として木刀を構え直したのだ。

私は久々の剣を使って戦えて、とても嬉しかった。


しかし、しかしだ。


「た、頼む」

「命だけは助けてくれ」

私がこれからだと気合を入れ直したのに、全員剣を投げ捨てて命乞いを始めてくれたのだった。


*************************************************************************


やり足りないフランでした。

まだまだ続きます。

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