親しくない伯爵家のお茶会に顔を出をしました
「えっ、じゃあ、スヴェン、あなたは私がスヴェンと結婚したいって言ったらしてくれるの?」
ええええ! そういうってことはカトリーナはスヴェンと結婚したいってこと?
カトリーナのド直球告白に私は唖然とした。
そして、告られた形になったスヴェンも、それを目の前で見せられた私も、言った本人のカトリーナまで赤くなって固まってしまったのだ。
そうなんだ。カトリーナはスヴェンが好きだったんだ。
私は初めて気づいた。
スヴェンもプルプル震えている。何かを必死に堪えているみたいだ。
ええい、男らしくない。さっさと頷けよ……と言ってもカトリーナは侯爵令嬢で、スヴェンはたかだか男爵の次男だ。下手したら次の代で平民落ちだ。そんな彼が頷くわけにはいかないのかもしれないけれど、でも、男なら頷くべきだ!
そう、スヴェンは貴族か平民か覚えていない私に比べれば余程ちゃんとした貴族だし、別に優秀ならば男爵次男でも侯爵家に婿入すればいいのに!
私はそう言いたかった。
でも、睨みつけたスヴェンが頷くことはなかったんだけど……
どれだけこの状態が続いただろうか?
実際は1分も経っていなかっただろう。
「ごめん今の忘れて」
その三人の間の沈黙に耐えられなくなったのか、カトリーヌが顔を両手で押さえて否定したのだ。
「そう出来るのならそうしたいです」
蚊の鳴くような声で何か言ったスヴェンは下を向いたまま出ていったのだ。
顔を押さえていたカトリーナの肩が震えているんだけど。
泣いているんだろうか?
「大丈夫、カトリーナ?」
私はカトリーナの肩に手を置いて聞いた。
「ああ、フラン、ごめんなさい。変なこと言っちゃったね」
カトリーナが涙を押さえながら言ってくれるんだけど、
「変なことじゃないわ。カトリーナ。自分の気持ちを伝えるのは大切なことよ」
私はそう言うとカトリーナの背中に手を伸ばしてカトリーナの顔を胸で抱きしめたのだ。
「ああん、フラン。私、言ってはいけないことを言ってしまったの」
そう言うとしばらく、カトリーナは私の胸に顔を埋めて泣き出したのだ。
「大丈夫よ。カトリーナ。自分の気持ちに正直になるのは良いことよ」
「でも、でも……」
泣いていたので言葉にならなかったが、私はカトリーナがスヴェンが好きだったことを良く理解できた。身分差で今まで言えなかったということも。
「大丈夫だから」
私はそう言うしかその場では出来なかったのだ。
後で、スヴェンを絞めてやらなくちゃと思ったのはカトリーナには内緒だ。
でも、スヴェンを絞める時間はなかったのだ。
出ていったスヴェンは結局その夜は離れに戻ってこなかった。
翌日もスヴェンは離れに顔を出さずに、曇った顔のカトリーナを励ましつつ最後のおさらいをして寝た翌日はお茶会の当日だったのだ。
当日の朝、起きた私達はリビングに朝食を準備して待っているスヴェンを見つけたのだった。
「スヴェン、今までどうしていたのよ。心配したのよ」
カトリーナに代わって私が責めると
「申し訳ありません。個人的な用で実家に帰っていました」
スヴェンはカトリーナに頭を下げたのだ。
「えっ、そうなの。実家の御用なら仕方がないわね」
カトリーナはあっさり認めるんだけど、私はなんか納得がいかない。
まあ、暇を見つけて話そうと私は思った。
でも、今日はやることが多いのだ。
朝食後に、私はカトリーナとスヴェンが手配してくれた青いドレスを侍女たちが着付けしてくれたのだ。
「フラン、そのドレス着た姿がめちゃくちゃ可愛いわよ」
カトリーナが褒めてくれたんだけど、
可愛いって言うのがちょっと不満だ。
私も美しいとかきれいだとかエレガントだかと言われてみたい……
そう思ったけれど、その不満を言ってはいけないのだ。
「カトリーナはそのモスグリーンのドレス姿もとてもきれいよ」
凄い私。ちゃんと褒められている。まあ、カトリーナは褒めなくてもきれいだけど……
「そう思うわよね。スヴェン」
仕方がないからスヴェンに振ってやったのだ。私も大人だ。
「は、はい。とてもきれいです」
スヴェンは思いっきり噛んだんだけど?
「何か心が籠もっていないような」
「いえ、そんな事はありません。とてもきれいです。カトリーナ様」
なんか、もっとスマートに言えないのか、と私は思わずスヴェンを睨んでしまった。
お前が言うなと頭の片隅で誰かが叫んでいる声が聞こえるんだけど、私はこんなに酷くないはずだ。
カトリーナの地味な衣装を見た時はもっと華やかでも良いのにと私は思ったのだが、両親が亡くなってからまだ1年くらいしか経っていないからと言われるともう何も言えなかった。
それに地味なドレスでもきれいに見えるなんて美人は得でいいな、と思ってしまった。
「でも、フラン、その右手の腕輪は外せないの? 少し衣装に合わない気がするんだけど」
カトリーナが言ってくれる。
確かにこの腕輪、なんかとても嫌な感じがしているんだけど、
「外そうとしても外せないのよ。なんか手錠みたいで、嫌なんだけど」
私が言うと
「そうなんだ。今度魔術師に見てもらったほうが良いわ。呪いか何かだったら大変だから」
カトリーナが言ってくれた。確かにこの腕輪は呪いのような気がする。
それにスヴェンが私のその腕輪を食い入るように見てくれるんだけど。
「この腕輪が何か判るの?」
「いや、見たことがあるように思っただけだ」
スヴェンが首を振ったが、絶対に何か知っているはずだ。今度問い詰めようと私は思ったのだ。
それやこれやしているうちに出発の時間になった。
サンデルは何故か侯爵家のちゃんとした馬車を使う許可をくれたんだけど、絶対におかしい。
何か裏があるに違いない。
私は警戒感マックスで馬車に乗り込んだのだった。
馬車の中にはカトリーナと私が隣り合わせで座って、その前がスヴェンだ。
なんか、スヴェンとカトリーナの間がぎこちなく思えるけれど、今はそれどころではない。
私はさりげなく、馬車の外を覗いたりして不審な者たちがいないか探りを入れた。
なんか手元が寂しいように思うのは気のせいだろうか?
しかし、馬車は何事もなく順調に走ってケルクドリール伯爵家に着いたのだった。
私は拍子抜けしてしまった。
でも、まさかその伯爵家にテュール・ブールセマがいるなんて思ってもいなかったのだ。
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ついに悪徳商人の登場です。
フラン達はどうなるのか?
今夜更新予定です
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