エピローグ 校舎を壊した罰で、楽しみにしていた夏休みは全て礼儀作法の補講になってしまいました

「フランソワーズさん、首の角度が少し違います」

夏休み、ずうーっと楽しみにしていた私の夏休みが……。



私は陛下の執務室で修道院に入ると言うクラリスをなんとか止めてホッとしたのだ。

やり切った感満載だった。


そう、あの怒声を聞くまでは……



「フランソワーズさん。何なのですか? その格好は」

騒ぎを聞きつけて駆けつけてきたフェリシー先生に言われるまで私は寝巻き姿だったのを忘れていたのだ。


言い訳させてもらうと、寝巻きと言ってもグレースのようなスケスケの寝間着ではない。

本当に寮ではグレースははしたない寝間着でいるのだが、私は違う。

前世のジャージみたいな感じのものなのだ。

これで平民が外に出ても問題ないという代物なのだが、見つかった相手が悪かった。


そもそも、3代目が屋上に上がった時に、フェリシー先生に生意気な言葉を発したらしい。


そんな事言われても、言ったのは私ではないといくら言い張っても信じてもらえなかったのだ。


「フランソワーズさん。あなたの家の3代目はもう200年も前の方なのです。そんな方が生きていらっしゃるわけ無いでしょう。陛下方は騙せても私は幽霊なんて信じませんからね」

「違います。魔導具か何かで3代目の意志を残したとか、そんな感じなんです!」

フェリシー先生の言葉に私は必死に言い訳したが、逆恨みしたフェリシー先生は絶対に許してくれなかったのだ。


「そもそも、大半の校舎を壊したのはあなたの手から出た火の玉ではないですか? 皆見ていたのですよ」

あれも違う。そう見えただけだ。

私がいくら口を酸っぱくして言っても誰も信じてくれなかったのだ。


「このようなはしたない格好で学園からここまで来るなど言語道断です。

そもそも、今回の反省房行きは、殿下とあるまじきことに公衆の面前でキスしたことを反省するためなのです。それを反省するどころか、それを逆恨みして大半の校舎を壊すなど、許される事ではありません。そもそもあなたを反省房なんてところに閉じ込めたのが間違いでした」

私はその一言でほっとしたのだ。これでまともな食事にありつけると。

あそこの腐った食事に比べれば家の食事は一万倍もましだ。

しかし、ただ単に反省房を出られるはずもなく……


「そんな酷いことをしたあなたには夏休み中補講とします」

「ええええ! そんな酷い」

私は完全に涙目だった。

一応、私は今回の反乱を阻止した立役者なのだ。それに校舎を壊したのは三代目なのに……確かにボタンは押したけど、それはやむに已まれぬ理由があったのだし、みんな無事だったじゃない!

一応私のおかげのはずだ。



でも、そんな私を見ても陛下は何も言ってくれなかった。ラクロワ公爵もトルクレール公爵もクラリスですら目をそらしてそそくさと部屋を出ていったんだけど。


ちょっと待ってよ! あなた達、それは酷くない?


それにそもそもここは陛下の執務室では?


何故か陛下の執務室で延々3時間、フェリシー先生に怒られることになったんだけど……。





そして、私の無くなった夏休みの代わりの補講は本当に最悪だった。


「元々キスしてきたのはアドです。だからアドも付き合わせるべきです」

私の言葉にフェリシー先生も頷いてくれたのだ。


でも、最初だけだった。


「はい。殿下の礼儀作法は素晴らしいです。補講の必要はございません」

最初の1時間でアドの補講は終わってしまったのだ。


そんな……嘘だろう!


私は目が点になってしまった。


そして、それから延々とフェリシー先生の補講が始まったんだけど……


私の補講の原因になったシュタイン公国は今回の責任を取らされて我がエルグランに吸収合併された。唯一我が国に残っていたモラン子爵として今後は生きていくしか無いだろう。我が国はその子爵家に莫大な損害賠償金を請求したのだ。これを返すのは1万年くらいかかるのではないかと言われている。まあ、それはアイツラがちゃんと返していけばよいのだ。


王弟一家は一から教育のやり直しということでアルメリア王国に文官として派遣されることになった。まあ、あちらの国は人が足りていないそうで、徹底的にこき使うと新国王からは言われている。


うーーーーん、でも何か一番の貧乏くじを引いたのは絶対に私だ。

絶対に変だ。

なんか、フェリシー先生は反省房で母が書いていた悪口を見たみたいで憤怒の如く怒っていたのだ。

あれを書いたのは母だといくら言っても聞いてもらえなかったし……


そして、辛いことにお昼の食事もフェリシー先生の礼儀作法の授業の一環なのだ。


折角のおいしい王宮の料理もフェリシー先生に注意されながらでは堪能できないじゃない!

なおかつ、給仕が何故かアドなんだけど。


何でだ?


自分がキスしてきたくせに私一人を反省房に入れて断食させたアドを私は未だに許していなかったのだ。食べ物の恨みは怖いのだ。行き帰りに送り迎えしようとするアドに対してけんもほろろな私の対応にアドは考えたらしい。

私もフェリシー先生の前では逆らえない。


そして、その日も最初の料理をアドが出そうとしたところでフェリシー先生が呼ばれて席を外したのだ。


折角監視者がいないのに、料理が目の前に無いなんて、最悪だ。


早くおけとアドを睨むと、アドは嫌な笑いをしてくれた。


そして、何故かお皿を私の前におかずに、お皿から一口サイズの肉の塊をフォークに突き刺して私の目の前に持ってきたんだけど。


怒っている私は無視したら、それを自分で食べてしまったんだけど……


「あっ、これおいしい」

アドはおいしそうに食べてくれるのだ。


私が物欲しそうに見たんだろうか?

本当においしそうだ。

でも、許さない!


それをもう一回やられた。


グーーーー

思わず私のお腹が鳴ってしまった。


「フランも我慢しなければいいのに」

笑うとアドは私の目の前にお肉を持ってきたのだ。


そして、今度は強引に口元に持ってきた。


私は理性と戦った。一瞬だけ。


でも、理性は食欲の前に負けてしまったのだ。


ぱくりと食べてしまった。


おいしい!

私は満面の笑みを浮かべていたと思う。


次から次にアドが差し出してくる。


私はそれをパクパクと食べてしまったのだ。




「フランソワーズさん!」

そこには憤怒の形相をしたフェリシー先生が立っていたのだ。


ええええ!


プッツンキレたフェリシー先生の前に補講の時間が延びたのは言うまでもない。


私の夏休みが…………




外は私の心を反映するように大雨だった。



第四部  完


****************************************************


ここまで読んで頂いて有難うございました。

書籍化出来るようになったのは読んで頂いた皆様のおかげです。

本当にありがとうございました。

コメント頂いた方もネタバレしそうなので、ほとんど何も返せずすみません。

評価等頂いた方には感謝の言葉もございません。


生まれて初めて自分の書いた物語が本になったというのがいまだに信じられません。

家族なんか新手のオレオレ詐欺に引っかかっているのではないかと本が出るまで疑っていましたし……



閑話をまた、ちょくちょく上げさせていただきます。

今後ともよろしくお願いします。


出来たら本を読んで頂ければ嬉しいです!


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