公爵家の令嬢が処刑されるかもしれないと聞いて寝間着のまま寮を飛び出しました

戦いは終わった。


私のパンチを受けたクラリスの髪から髪飾りが吹っ飛んだ。

文字通り木端微塵に粉砕されたのだ。

そしてその瞬間、クラリスは人間に戻ったのだ。


アドは証拠品だから何も壊すことなかっただろうって後で愚痴口文句を言ってきたが、クラリスを人間に戻すためには必要だと思ったのだ。

下らない呪い道具よりも人が大切なのだ。

「何も散々悪口言われたからって、殴り倒す必要はなかったのに!」

これ見よがしにグレースが言ってくれたが、一度魔人になった人間が元に戻ったことは確か無かったはずだ。誰が何と言おうとあそこはああするしかなかったのだ。


「クラリス!」

ぼろぼろになったクラリスに縋りついてトルクレール公爵は抱きついていた。


「フランソワーズ様、どうもありがとうございました」

公爵は私に何度も頭を下げてくれた。

でも、何か公爵の目が私を恨めしそうに見ているんだけど。

クラリスの顔が私に殴られた後で凄まじく腫れていた。



ええええ!


でも、公爵が土下座して頼むからエクちゃんで真っ二つに斬るの止めたのに……それにちゃんと人間に戻してあげたじゃない……それをその目はないんじゃない!


まあ、その顔は少しきつく殴り過ぎたかもしれないけれど。


「フランも、もう少し手加減ってものを覚えたら良いのに!」

後でメラニーに言われたんだけど。

「だって仕方がないじゃない。下手に手加減して魔人から戻らなかったら後悔してもしきれないし、ちゃんと死なないようには手加減したわよ」

私が言うと

「あれで? あの顔は本当にお岩さんみたいになっていたわよ」

「……」

メラニーの言葉には何も言い返せなかった。

ちょっときつく殴り過ぎたかもしれない。

だってどれだけ強く殴れば人間に戻るか判らなかったんだから……



残った残党は陛下が指示して近衛たちが拘束していた。

「ルブランの小娘、よくもやってくれたな」

「礼儀作法のなっていないお前にこのような目にあわされるとは」

「絶対に許さないんだから」

引っ立てられながら大公一家から罵声を浴びて、私はげんなりした。

魔人から攻撃を受けそうになった時に、ちゃんと助けてあげたじゃない。普通は御礼を言えよ。


でも親の心子知らずなのだ。

私は嫌になった。


「あんたがそれを言う?」

メラニーが後で言ってくれたんだけど、何よ、その呆れた目は! 私はうちの親よりは余程ましよ!

「どっちもどっちじゃない?」

メラニーは容赦がなかった。




「バスチアン、お前は何て事をしてくれたのだ」

陛下が王弟殿下に向かって怒って言った。


「兄上に俺の何が判る。今まで散々、王太后にきつく当たられた俺の気持ちの何が判るのだ」

「何を言っている! 母上が厳しいのはみんなに対してだぞ。俺も散々、『そんな事ではバスチアンに敵わないわ。それでも私のお腹から生まれた子供なの。バスチアンの方が余程、国王にふさわしいわ』と言われ続けて育てられたのだぞ」

「はあ、あの王太后がそんなこと言うわけないだろう」

「お前のいないところで散々言われたわ。礼儀作法がバスチアンの方がきれいだとか、剣筋はバスチアンの方が良いとか。人の心はバスチアンの方が良く判っているとか」

「俺は兄上の方が勉強ができるとか魔術は得意だとかさんざん言われたぞ。そんなので王族が務まるのですかとまで言われたんだから」

「俺と何が違うのだ!」

「王となれないのと王族にふさわしくないなら王族にふさわしくない方が酷いだろうが……」

この二人は何の言い合いをしているんだろう。疲れ切った私は疲れきったのかそのまま倒れ混むようにねこんでしまった。


その倒れる前に暖かい手で抱かれるのを感じたが……





次に気付いた時には私は寮の部屋だった。


ぼうっとしているとメラニーが入ってきた。

「あっ、やっと気付いたのね! あんたは3日も寝込んでいたのよ!」

メラニーが呆れて言ってくれた。

「そうだったんだ」

私はやけに寝起きが良いと思ったのだ。


「皆は無事だった?」

「生徒の重傷者はあんたと戦おうとした奴以外はいないわよ」

「そうなんだ。良かった」

私はほっとした。

「でも校舎に隠れていた敵の騎士たちは、あんたが壊した校舎の瓦礫の下敷きになって結構大変だったみたいよ」

「あれは三代目に言ってよね。私は何もしてないし」

「うーん、皆はあんたがやったって言っているけど」

「ええええ! さすがに私はあんなひどいことはしないわよ!」

「でもなんか校舎の上に出てきた人があんたとそっくりだったみたいよ」

「ご先祖様なんだから似ていても仕方がないでしょ」

「まあ、あんたの日頃の言動と同じだったから」

「はああああ! あそこまで酷くないわよ」

私は言ったが中々メラニーは信じてくれなかった。


「クラリスの顔の腫れは退いたの?」

「それは判らないわ! まあ、でも、クラリス様もあんなことやったんだから、下手したら処刑なんじゃない?」

「何ですって!」

私は思わず飛び起きてしまった。


靴を履くやそのまま、部屋を飛び出したのだ。


「ちょっとフラン! その格好は寝巻きよ」

メラニーに何か言われるが、良く聞こえていなかった。


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ここまでお忙しい中読んで頂いて有難うございます。

読んで頂いた皆々様には感謝の言葉もございません。

明日第四部完結予定です。


現在この話の本が全国書店で絶賛販売中です。生まれて初めて自分の書いた物語が書籍化されて、歓喜に震えている作者です。本屋さんで自分の本が平積みされているのを見て感激しました。


皆様もぜひとも読んでいただければ嬉しいです!


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