アルメリア王国を遠目から一目見たいとの希望に駄目とはいえませんでした
「フランソワーズ嬢、この度は本当にありがとうございました」
王太子が頭を下げてくれた。
「あなたがスカートを引き裂いたのは許せないけれど、海賊船に乗り込んでくれたことにはお礼を言うわ」
シルビアが文句を言いつつ、頭を下げてきた。
これがお礼を言う態度か、とも思う。
そもそもスカートを引き裂いたのは海賊だっていうの! それにシルビアが蹴落とすときに引き裂かれたんじゃない! まあ、最初に調子に乗り過ぎて船長と一緒に蹴落としそうになったのは私が悪いけれど。
「フラン、本当に有難う。シルビアが無事だったのは君のおかげだ」
ディオが代わりに感謝の言葉を言ってくれたんだけど。
何だかなと思うが、まあ、あの我儘シルビアだ。素直に礼は言えまい。私は大人の対応をすることにした。
それよりも、私はソニアが気になった。
ソニアとベルナルドが少し離れた所でこちらを見ている。そして、そちらをかたくなに見ようとしない王太子も。
「フェル、今回の件、ソニアになにか言うことはないの?」
私が王太子に振ってあげた。
王太子は私に言われて少し躊躇したが、ソニアに歩み寄った。
「ソニア、今回の件は本当に申し訳なかった。全ては私の力不足だ。私に力があればアルメリアの横暴を止められたし、そもそも、アルメリア王国の王女に君を返り咲かす事も出来たのだ。本当に申し訳なかった」
王太子がソニアに頭を下げていた。
「いえ、それは私達に力がなかったからでもあります。必要な時に殿下のお力に添えませんでした」
それに対してソニアも言う。
「いや、君は十二分にやってくれていた。妃教育についても、完ぺきだったと聞いている。全てはイエクラの野望のせいだ。奴の欲望は終わりがない」
「まあ、でも、ここまでやられたらしばらくは静かになるでしょう」
私が言うが、
「いや、奴はしつこいのだ。元々、イエクラは王妃、すなわち、我等の祖母に横恋慕していたのだ」
ベルナルドが話し出した。
なんでも、ベルナルドの話によると宰相になってからも、折に触れて迫っていたらしい。しかし、嫌悪されて避けられると今度は国王を毒殺したのだそうだ。
そして、王妃を自分の者に出来ると思ったのに、王妃が自害したと知ると、逆上して王家を簒奪。
それ以来、恐怖政治を布いて支配しているそうだ。
「何か話を聞いている限りイエクラは酷い奴ね」
私は憤って聞いていた。
「アルメリアの今の国王のイエクラは欲望の塊だそうで、気に入った女がいると人妻であろうが手に入れるそうよ。今回もシルビア殿下とソニア様を自分の後宮に入れるつもりだったみたいよ」
横で訳知り顔でメラニーが言っているんだけど。
「いや、それはないだろう。イエクラももう60だぞ。元々息子の嫁にという話だったし」
「いや、あいつならやりかねない。何人も臣下の者が妻を取られたと泣いているそうだから」
王太子言葉にベルナルドが反論したんだけど。どちらが正しいんだろう?
「どちらにしても、なんか酷い奴ね」
私が言うと
「何他人事よろしく言っているのよ。あんたもその欲望の対象なのよ。『あのターザン女を連れてこい。儂が後宮で可愛がってやるわ』って言っていたそうよ」
「な、何ですって」
メラニーの言葉に私はむっとした。
「ちょっとメラニー先輩違うでしょ。イエクラはそんな事は言っていないよ」
ジェドが慌てて否定してきた。
「えっ、でも、それっぽいことを言っていなかった?」
「なわけ無いでしょ。何しろ姉上の事を『凶暴女』って呼んでいるくらいで……」
「なんて言っているって?」
私はムッとしてジェドを見た。しまったという顔をジェドがする。
「ジェド、イエクラの野郎がなんて言っているって」
もう一国の国王とかいう問題ではなかった。
「いやあ、姉上の活躍を聞いたみたいで、遠慮するって」
「『凶暴女など、相手にしていられるか。奴隷にして屈強な奴隷共に与えてやれば丁度いい戦士の種馬になるだろう』って言っていたそうよ」
「な、なんですって」
私はメラニーの言葉にプッツン切れた。
「おのれ、そこまでこの私を侮辱するか。こうなったら、王都ごと燃やしてやる」
「ちょっと姉上、それはだめだって」
「陛下に怒られるよ」
「フランソワーズ嬢。流石に王都襲撃はまずいのでは」
「そうよ。フラン。ここまでやられて黙っているの?」
『えっ』
皆必死に止めようとする中で、1人煽る奴がいるんだけど。
いつもは止めに来るメラニーが煽っているんだけど。絶対におかしい。
私はそれで少し冷静になれた。
「なんであんたが煽るのよ」
「ええええ! だってイエクラはしつこいし、やっぱりここはアルメリアの正当な王位継承者でいらっしゃるベルナルド様に王位を替わって頂いたほうが良いかなって」
「ちょっとメラニーさん、それはまずいって」
「そうだよ。姉上が出ると完全に内政干渉になってしまうし」
ヴァンとジェドが必死に止める。
「そうよね。感情的になるのはよくないわ」
私はなんとか理性を総動員して押さえた。
何しろ、いつもは抑えに回るメラニーが好戦派だというのが、引っかかった。
絶対に碌なことはないのだ。
「良いの? 今度はフランを追ってエルグランまで来るかもしれないわよ」
「そうなったら今度こそ叩き潰すわ」
私は言い切ったけれど。
「私はここで禍根を断ったほうが良いと思うけれど。その方が後々楽よ」
メラニーの言葉に私は思わず頷きそうになったが、
「駄目だって姉上」
「またフエリシー先生に怒られるよ」
ヴァンとジェドに必死に止められたのだった。
私の怒りが一段落した時だ。
「アルメリアか、遥かに遠いのだな」
ベルナルドがポツリと言ってくれた。
ソニアも水平線の果てを見ている。その方角にアルメリアがあるんだろう。
そうだ。一度国を追われれば返り咲くなんて基本は無理なのだ。
多くの王国はそれで終わりだ。
私は二人には可哀相だとは思ったが、ここは帰還の合図を船長にしようとしたのだ。
「フラン様。そろそろアルメリアに向かって良いですかい」
船長がいきなり言ってきたんだけど
「えっ? アルメリアに行くなんて言ったっけ?」
私は船長が何を言っているかよく判らなかった。そんな事誰かが言ったのだろうか?
「メラニーさんがせっかくだからアルメリアを遠くからでも良いから見たいっておっしゃったんですけど」
「いや、でも、もし戦闘になったら問題だし、これ以上の戦闘は難しいと思うんだけど」
私が言うと、
「そうですか。後たった10分くらいでアルメリアが遠くから見えるんですけど」
「えっ、後10分で見えるんですか?」
ベルナルドが食い付いてきた。
「本当ですか!」
ソニアまで言うんだけど。
「えっ、でも、いつアルメリアから増援が来るかわからないし、危険よ」
「なあに、敵が来れば即座に逃げ出せば良いのでは。この船にはなかなか海賊船では追いつけませんよ」
私の言葉に船長が言ってくれるんだけど。
「殿下。ここまで来たのですからできれば一度見るだけでも見てみたいのですが」
ベルナルドが王太子に言ってきた。
「うーん、そうだな。どう思う? フランソワーズ嬢?」
王太子が振ってきた。
私はとても悪い予感がするので、出来たら止めたい。
でも、ベルナルドとソニアはとても見たそうだ。
「フランソワーズ嬢、お願いだ。私は祖国を物心ついてから見たこともないのだ」
「フラン様、お願いです。一度で良いから見てみたいのです」
二人にそう言われると私も駄目だとは言えなかった。メラニーはいつの間にかいなくなっているし。メラニーは気分が悪くて船室に入ったのかも知れないが、ここにいない事が何故かおかしい。何か企んでいる気がするのだ。
でも、私は二人の真摯な視線を受けて断れなかった。
「まあ、少しくらいならば良いんではないですか」
そうとしか答えようが無かったのだ。
でも、後で私はとても後悔することになるのだ。
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ここまで読んで頂いてありがとうございます。
物語は金曜日までに完結です
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