騎士団長の息子から決闘を申し込まれて有頂天になりました
私は今まで全然うまくいかなかった友達が一人できて浮かれていた。今日こそ、たくさん友達を作るのだ。やる気満々で私は教室に入った。
「ガスペル、おはよう!」
そして、手始めに昨日友達になったガスペルに元気よく声かけたら何か元気がない。
「どうかしたの?」
「いや、別に何でもない」
そう言うや、ガスペルは立ち上がると私に目も合わせずに部屋を出て言ったのだ。
「えっ」
私は今日こそは友達をたくさん作ろうと勇んで来たのに、いきなり出鼻をくじかれた格好だった。昨日まで普通に話せていたのに、貴族どもから何か言われたのだろうか?
私は貴族たちをじろりと見た。
貴族たちは昨日はいなかった男を中心に集まっていた。確か、私達が食堂で食べている時に私に席を代われと言ってきた奴だ。私の方を向いてにやにやしている。でも、構っている余裕はない。
平民の皆とは私の身分がばれる前にさっさと友達にならないと。
何しろ王立学園では、あろうことかEクラスになったその日のうちにアドに私が公爵令嬢だとばらされたのだ。
今度はアドはいないとはいえ泣き虫シルビアはいるし、この国の王太子もいる。ダミアンもいつゲロらないとは限らない。
そうなる前に何とかして友達を作らないと・・・・。
でも、女の子らもなかなか話してくれない。くそ、せっかくガスペルとは魔道剣の話で盛り上がれたのに。
八方塞がりだった。でも、こういう時のメラニー頼みだ。
「ねえ、メラニー」
私はメラニーを見た。
「嫌だ」
「まだ何も言っていないでしょ」
「あんたがこんな顔する時って絶対に面倒なことだもの」
「何言っているのよ。私が話せそうな平民って誰かなって」
「ああ、そう言うこと? あんたの前の席のルフィナ・ポロトスは大衆洋服店の販売で、結構売上を伸ばしているわよ」
「私でも買える?」
「大衆洋服店だから買えるとは思うけど、最悪王子とかに頼めばいいでしょ」
「そうね。そう言えばヴァンもいるし、最悪オーレリアンに頼もう」
「おい、俺の名前を勝手に使うな・・・・」
オーレリアンが何か叫んだときにはもう無視して、私はルフィナの横にいた。
「ルフィナさん、あなたのところお店やっているんですって」
「いや、あの、フランさん」
ルフィナは私がいきなりとなりに来て焦ったみたいだった。でも、ここで逃すものか。
「私のうちは大衆用で、フランさんみたいな華美な方はイネス様の高級衣料店に行かれたらどうですか」
「いや、あんな高いところは無理よ。それよりもあなたのところで今一番売れている、私達向けの安いドレスがあったと思うんだけど」
「えっ、ドレスですか」
ルフィナが考えている。よし、もう一息だ。
「ドレスじゃなかったかな。普段着として使える・・」
「ああ、汚れが目立ちにくいおしゃれ作業着ですか」
「そう、それよ」
確か事前勉強でメラニーから昨日教えてもらっていたのがそれだ。
「裕福な家の奥様方によく売れていて、それが広がって今爆発的に売れているんです」
「一度お店にお邪魔して見せてほしいんだけど」
「それは良いですけど」
「じゃあ次のお休みの日にお邪魔するわ」
私は畳み掛けた。
「ふんっ、平民同士、安物で満足していれば良いのですわ」
私達の後ろにいきなり現れたイネスが言い切った。
「あっ、イネちゃんごめんね。我が家はお金ないからあなたところから買えなくて」
「誰がいねちゃんよ。平民のくせに生意気な。ふんっ、我が家も平民から金をふんだくろうとは思ってもいないって言っているでしょ」
イネスはぷりぷり怒って去っていった。
よし、一人目だ。そして、次だ。
「テオドラ」
「何よ。私は今宿題で・・・・ってフランさん」
隣のテオドラが驚いて私を見た。
「あなたのところ王都で有名な菓子工房なんでしょ。何が一番人気の商品なの?」
「焼き菓子がよく売れているんですけど、今は新作プリンに凝っていて」
「そうなの。我が国ではハッピ堂のアラモードブリンが有名なんだけど」
「えっ、あなた、アラモードぶりん食べたことがあるの? あそこ並ばないと買えないんでしょ」
「うん、よく買ってきてくれる人がいて」
そう、一学期は私に謝るためにアドが散々持ってきてくれたのだ。
「そうなの! その店の味を目指したんだけど、何かもう一つなんですって。あなたも良ければ食べてみてくれる。感想聞かせてほしいの」
「ええ、良いわよ。喜んで。今度の休みの日にお邪魔するわ」
「おい」
私は小躍りしていた。これで3人めゲットだ。今回は陛下の名前を使って脅迫しなくても何てうまくいけているんだろう。
「おい、お前!」
後ろから男が不機嫌そうな声をかけてきた。
私は男が接近しているのに気づかなかった。
それよりも私は友達作りに忙しいのに、邪魔しないでほしい!
こいつは、前に食堂で私に喧嘩を売ってきたたしか、
「あんたは確かカマクラ!」
「誰だそれは」
男が怒って言った。
「じゃあ、ヤヨイガルド」
私の言葉に横に来たメラニーが首を振る。
「ぜんぜん違うじゃない。なんで原始時代に戻るのよ」
「えっ、そうだっけ。顔貌がなんとなく」
「あんたね。私と聖女にしか判らないギャグ言っているんじゃないわよ」
「えっ、いや、そんな事無いんだけど、どうでもいいやつのことはちゃんと覚えていなくて、確か時代の名前かなって」
「貴様ら、いつまで人の悪口を言っているんだ」
そこに怒った、室町ガルドが口を挟んできた。もう少しで思い出すのに・・・・
「で、何なのよ。モモヤマガルド」
「誰が桃だ、誰が! 俺はエドガルドだ。覚えておけ」
騎士団長の息子が青筋立てて怒っている。
「ああ、江戸時代だったんだ。そう言えば松平健に似ていると思ったのよ」
「はっ、まつなんとかって、どこまで馬鹿にしたら気が済むんだ」
「いや、バカにはしていないわよ」
「ええい、もう良い! 平民女! 貴様に決闘を申し込む」
江戸時代がとんでもないことを言ってくれた。
決闘、決闘って西部劇の世界じゃない!
「おいおい、女に決闘って・・・・」
「ええええ! 本当に!」
アルマンが余計な事を言おうとしたのを、私は喜びのあまり遮った。
「海賊退治は出来るわ、今度は西部劇の決闘が出来るなんて、何て素晴らしいの!」
私は嬉しさのあまり思わず江戸時代の手を握りしめていたのだ。
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