寮の食堂でさっそく男爵令息に喧嘩を売られたので買いました
私達は二人共、その後見人、私はフェリシー先生を留学の後見人なんかにしたつもりはなかったのに、勝手に陛下と王妃様がしてくれて本当に最悪だった、に延々と怒られたのだ。
唯一良かった点と言えば私が暴れていた間、フェリシー先生が気分が悪くて私を見ていなかった点だ。でなければフェリシー先生の叱責は今の比ではなかっただろう。
「フェリシーさん。このルートン王国の第一王女殿下にあろうことか、お前とはなんですか! お前とは! その上、泣き虫妖怪とは何です!」
「殿下! 留学していらっしゃったエルグラン王国の公爵令嬢にいきなり駆け寄って指差すとは何事ですか。それも魔獣怪獣などと宣うとは。私、空いた口が塞がりませんでした」
せっかく英雄ダミアンと私達留学生の歓迎のために観客が集まってくれたのに、二人はそんなのも関係なく、延々と怒り出したのだ。
その怒りの勢いに英雄ダミアンを賞賛に来ていた観衆もやばいと思ったのか、一人減り二人減り、いつの間にか、この場に残るのは留学生一同と王女の関係者だけになっていたんだけど。
もう本当に最悪だった。
その後、私達は疲れ切って学園についた。
私の寮の部屋は私の希望通り、平民階だった。
「さあ、ご飯よ。ご飯」
私は気分転換にメラニーを誘って、ついでに一緒に留学に来たC組のアニエス・バリエの部屋をノックしたのだ。
「フランソワーズ様」
扉を開けたアニエスは私を見て驚いた。
「しーーーー、私のことはフランって呼んで」
「いえ、でも」
「フェリシー先生が煩かったから言っていなかったけれど、基本私を平民として扱ってほしいのよね」
私は我がクラスの常識を強引にアニエスにも押し付けようとした。
「メラニー様」
アニエスが縋るようにメラニーを見たが、
「あっ、ごめん。フランはしつこいから、さっさと慣れた方が良いわよ。それと当然私にも様なんて付けないでメラニーでいいわ。それが我がEクラスの常識だから」
「でも、私はCクラスですし」
「そんなのもう関係ないわよ。でね、アニエス、ご飯行こう」
私は強引に誘った。
「えっ、でも」
「ああ、デジレも男たちが誘っているはずだから、大丈夫よ」
私はそう言うとアニエスの手を引いて強引に歩き出したのだ。
「えっ、いや、ちょっと」
アニエスは慌てて逃れようとしたが、私の強引さに勝てるわけはないのだ。
「で、アニエスは何故、留学希望出したの?」
空いていた食堂で夕食をトレイに乗せると真ん中の席に座って、私はアニエスに聞いていた。
「私は平民が海外に行ける機会なんてこれを逃したらもう無いと思いまして」
「そうよね。留学なんてめったに行けないもんね」
私はアニエスに大いに共感して手を握りしめたのだ。
「いや、でも、フラン様は」
「私はフランよ、次敬語使ったら怒るからね」
「でも」
「あなた、陛下がそれでいいって言ったんだから良いのよ。それともあなたは陛下の言うことに逆らうわけ」
私は一学期の最初の理論を振りかざした。陛下がクラスの皆に宜しく頼むと言ったのを逆手に取ってすべての理由をその一言に込めているのだ。
「いや、でも、メラニーさん。本当に陛下はそう言われたのですか?」
「いや、そんな・・・・痛い!」
メラニーがバラそうとしたので、私はその足を軽く蹴とばしたのだ。
「ね、メラニーも頷いたでしょ」
「いや、メラニーさん、涙目ですけど」
「メラニーは慣れているから大丈夫よ」
私に雑に扱われるのは・・・・
メラニーの目が後で覚えておけよって言っているけど、そんなの無視だ。
「だから、フランって呼んでね」
「フランさん」
アニエスは仕方なしに言ってくれた。
まあ、いきなり呼び捨てまでは難しいだろう。
「ああ、いたいた」
そこにやっとアルマンらがやって来た。横にC組の男の留学生を連れている。
「フラン、デジレを連れてきたぞ」
「遅かったじゃない」
私が言うと
「フランソワーズ様」
驚いた留学生が言った。
「ちょっとデジレ。私はフランよ。そう呼んで」
「えっ、フラン様」
「様は禁止」
「あいも変わらずおんなじことをしているんだな」
アルマンが呆れていった。
デジレはどうしたものかとアニエスを見ると、
「私もフランさんって呼ばされているの」
「じゃあ俺もフランさんで」
「うーん、アルマンもメラニーもフランって呼んでくれているのに」
「まあまあ、フラン、そこはすぐには難しいんじゃない」
「あなた達最初からそうだったじゃない」
「何言っているのよ。強引に言わせたくせに」
「そうそう、陛下がそう言っているのに、言う事聞かないのって俺には陛下のせいにされて言わされたぞ」
二人してムッとして言うんだけど。
「まあ、良いじゃない。そんなの気にしなくても」
「そう言えるのはフランだけよ」
「そうだ。陛下の名前を利用するのはお前くらいだ」
二人してめちゃくちゃ言ってくるんだけど。
「まあ、確かに利用したかもしれないけれど、良いじゃない。未来のエルグラン王国のためは」
「絶対にあんたのためでしょ」
「そうだ。お前が楽しくすごすためだろうが」
酷い言われようだ。
「それより、デジレは何故、留学希望したの?」
私は二人の話は無視することにした。
「俺は、魔道具に興味があったから」
「デジレの家は道具屋なんです」
デジレの言葉にアニエスが説明してくれた。
「そうなんだ。じゃあ、ライトセーバーみたいな剣も興味がある?」
「ライトセーバー?」
「魔道剣のことさ」
「そう、それにとても興味があって」
「私もとても興味があるわ。この国にいる間に絶対に使ってみたい」
私が言うと、
「フラン、頼むから魔道剣を壊さないでよ」
「なんで私が壊すのよ」
「あなたが触ると壊れる気がするのよね」
「失礼ね」
私達が騒いでいる時だ。
「ちょっとお前ら、俺らの場所に勝手に座るなよな」
後ろからいきなり声をかけられた。
後ろを見ると背の高い男たちの一団がこちらを睨んでいた。
「ええええ、ここって指定制だったの?」
私が驚いて言うと
「はああああ、そうではないけどれど、いつも俺達が使っているんだよ」
「指定でなかったら早いもの勝ちじゃない」
エルグランの王立学園では自分たちが食堂の端の席を指定席にしているのにも関わらず、私は大声で反論してやった。
「ビベイロ様よ」
「あの留学生たちやばいんじゃない」
周りの生徒たちが騒いでくれるんだけど。別に公爵の息子でも私は関係ないけれど・・・・すでに王族とも問題を起こしているし・・・・フェリシー先生が聞いたらまた、怒髪天になりそうな事を思いながら私は平然としていた。
「おい、お前らいい加減に退けよ」
「そうよ。留学生か知らないけれどこのお方はエルガルド・ビベイロ男爵家の嫡男様なのよ」
取り巻き達が言うんだけど、ええええ! この国って男爵家が公爵の上なの? 私は一瞬思ってしまった。
「騎士団長の息子よ」
私の疑問にメラニーが答えてくれた。
一瞬男爵に男爵でとメラニーに対処してもらおうと思ったんだけど、そうか、騎士団長の息子なんだ。
「それがどうかしたの?」
私はさらりと流した。
私の声が大きかったみたいで、周りの奴らはぎょっとした。
エドガルドは無視されてムッとしている。
「おいおい、どうするんだ。いきなり問題起こすのか」
アルマンもオーレリアンも少し慌てている。
うーん、いきなり問題起こして怒られるのも嫌だけど、場所を移るのはもっと嫌だ。
私は周りを見渡した。
皆唖然としてこちらを見ている。こちらは一般食堂だから、エルグランみたいに高位貴族は少ないみたいだ。
「何言っているのよ。エルグランはあんたが一般食堂に入り浸っているからでしょ」
後でメラニーに怒られたんだけど。
でも、私はそこにうってつけの人物を見つけた。
「ダミアン」
何故か、そこに王女の護衛のダミアンがいたのだ。
私に大声で呼ばれてダミアンは驚いた。
そして、呼んだ相手が私だと知ってぎょっとした。
「ちょっと、この子、王女殿下の騎士を呼び捨てにしたわよ」
「ダミアン様はたしか子爵家のお方だったんじゃない」
周りが騒ぎ出した。
待てよ。平民としてやっていくにはあまり目立ってはいけないのかもしれない。
「ダミアン様。この子が私が先に座っていたのに、どけって言うんですけど」
私は慌てて、様付けした。
「おい、近衛騎士なんて呼ぶな」
エドガルドが舌打ちしたが、そんなのはお構いなしだ。
「これはこれはフランソワーズ・・ギャッ」
私はダミアンが様付けしようとしたので、その足を思いっきり踏んでいた。
「な、なにしや・・・・」
ダミアンは私が睨みつけたので黙った。
「さすが海賊を1人で退治されたダミアン様ですわ。騎士団長の息子にもひるまずにご意見して頂けるなんて」
「ちょっと待て、ダミアン様はもともと子爵家で俺らより上だ」
エドガルドが青くなっている。
「ということでエドガルド。私達はこのままここに座っていていいよね」
「な・・」
文句を言いたそうなエドガルドの前にダミアンを押し出すと
「いえ、どうぞ」
エドガルド達は慌てて逃げていった。
逃げ去る際に私をものすごく睨みつけていたけれど、私は全然怖くないのでサラリと無視したのだ。
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