帝国皇帝視点2 帝国の逆襲はなんとも言えない地味な作戦になりました
「こ、これは何じゃ」
俺はその映像を見て完全に切れていた。
その映像には、俺が破壊の魔女に土下座しているのがバッチリ写っているではないか。誰が撮ったのだ。こんな画像を!
「なんでも、破壊の魔女が自ら撮影していたようで、これを全世界にばらまいているようです」
「な、なんじゃと」
俺は怒りのあまり蒼白になった。この画像を全世界にばらまいただと!
世界最強の帝国の皇帝が、辺境のエルグラン王国のたかだか一公爵夫人に土下座をしている姿を全世界にばら撒いただと!
俺は呆然とした。
そして、次には怒りが湧いてきた。
「世界各地の商会が次々に販売をしています」
「販売した商会とは取引を直ちに停止せよ」
当然だろう。そんな商会とは取引停止だ。と言うかすぐに潰してやる。
「直ちに帝国内では発禁にしました。同盟国でも発禁の依頼をかけました。その他の国々にも圧力をかけております。ただ、全てを取り締まるのはなかなか難しいかと」
ビスマークの言葉の歯切れも悪い。
たしかにこういうものは発禁にすればするほど裏で流通するものだ。あの破壊の魔女のすることだ。既に主要各国の王族には送っているだろう。
「この画像はどこから手に入れたものだ?」
「我が国に送られてきた分でございます」
「我が国にまでご丁寧に送ってきたのか」
「はい。我が家にも送られてまいりました」
「貴様の家にまでか」
俺は驚いた。一体いくつ送ってきたのだろうか?
下手したら全ての帝国貴族にも送っているのかもしれん。俺はもう許せなくなった。俺が土下座しているところを全ての帝国貴族共に知られただと!
「おのれ、こうなったら全面戦争だ。直ちにホルムへ出兵させろ。そのまま一気に魔の森を突っ切り
破壊の魔女の領地に攻め込む」
「それは・・・・いきなり約束したことを破られると」
ビスマークは躊躇したようだった。冷血宰相が何を躊躇しているのだ。
「最精鋭の第2師団が壊滅しております。今は戦力の再編が急務かと思われますが」
「まだまだ他の師団はあろう」
「しかし、各地の不満分子がこの画像を見て動き出す兆しがあります。ホルムへの派兵は自らの首を締めることになるかと」
「ホルムなど1個師団もあれば攻略できるであろうが」
俺が切れかかっていた。何故かビスマークは頷かない。
「ルブラン公爵の軍が出てくれば難しいかと」
「ええい、何故お主は頷かないのじゃ」
「陛下申し訳ありません。純粋な軍事力においては5個師団を投入しても負けるというシミュレーション結果が出ております」
「な、なんと、5個師団でもか」
俺は黙ってしまった。帝国の3分の一の師団をあてても勝てないのか?
「陛下ここは我慢のときでございます。臥薪嘗胆ということはもございます」
「なんじゃそれは?」
「東洋の国の王で、屈辱を受けて自らは薪の上で寝ることの痛みでその屈辱を思い出し、必死に努力して国力をあげてその国を打ち破ったとのことです」
「今は我慢の時だと言うのか」
「はい」
俺は冷血宰相を睨みつけた。
「しかし、ただ、耐えるだけではの」
そんなのは俺様のプライドが許さない。いや、もうこの姿を全世界にさらされたのだ。この恥辱晴らさずいられるか。
「そこは考えております。破壊の魔女の一族は単細胞でございます。そこを突くのです」
「突けるのか?」
「はい。あの二人がかわいがっている娘が王立学園におり、エルグランの王太子と婚約しております。ここに王女殿下と王子殿下を派遣して二人の間に楔を埋め込むのです」
「なんとも迂遠な手じゃの」
「致し方もございません。今は戦力を整えるときでございます。その娘がこちらの戦力になれば1個師団の力があるということでございます」
「何、一個師団もの力があるのか!」
我が帝国最強魔術師があっさり負けたはずだ。最悪その娘を使って、母親に対抗させてもいいだろう。
「はい。それも、娘がこちら側に付けば母親としても無碍には出来ますまい。破壊の魔女の邪魔がなければ、陛下の世界統一の夢も大きく前進することは間違いございません」
「そうか、まあ、致し方ないの。早急にその事を詰めよ」
「御意」
ビスマークは頭を下げて下がって行った。
俺は一人になった。
未だにあの画像が蘇ってくる。世界最強の我が帝国の皇帝が土下座をして許しを乞う場面が。
「くそったれ」
俺は思いっきり机を叩いていた。
「おのれアンナめ。今だけじゃ、今だけは我慢してやる。しかし、貴様ら、我が事がなった暁には絶対になぶり殺しにしてやるわ」
俺は叩いた手のあまりの痛みに涙目になりながら、誓ったのだった。
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