【後日談】第一王子視点3 枢機卿の代わりをしただけなのに、婚約者に聖女との関係を完全に誤解されてしまいました

その日の朝一番に土曜日に教会の大司教との面談が中止になった旨の連絡が来た。俺はそのあいた土曜日に、久しぶりにフランとお出かけしようと思ったのだ。


新しく出来た王都の人気のカフェを早速予約して意気揚々とフランを探しに食堂に向かったのだ。新しいカフェなら、勝手にキスされたと怒っているフランの機嫌を直させるのに丁度いいと思ったのだ。


これまた人気の街のプチケーキ40個を準備して面談に向かうと、相変わらずフランは怒っていた。

俺を見ても無視しているので、やむを得ず隣りに座っているノエル嬢にケーキを渡す。


「えええ、本当に宜しいのですか」

ノエル嬢の目が輝いている。こんなプチケーキで良ければいくらでも持ってくる。やはり類は友を呼ぶ。フランの周りには食べ物で釣られる者が多い。


フランの目も一瞬こちらの箱に向いたのを見た。


俺はまたうまくいったと思ったのだ。


「土曜日にフランと王都に新たにオープンしたカフェ・ド・ムーランにクレームブリュレを食べに行きたいのだが」

つれなくしているフランがメチャクチャ耳をそばだてているのを見ながら俺は言ったのだが、


「殿下、その日は女の子だけで女子会をやるので・・・・」

申し訳無さそうにメラニーが言ってきた。


「えっ」

俺はがっかりした。

「えっ、でも、メラニー、せっかく殿下がこうおっしゃっていらっしゃるのに」

ノエルがプチケーキを物欲しそうに見ている。


普通は婚約者を立てろよと言いたいところだが、フランがせっかく自分で何かやろうとしているのだ。おそらく残念なことに優先順位は俺より上だ。フランを見ると俺を無視していやがる。


「いやいや、ノエル嬢、女子会の方が先ならば、仕方があるまい。また、時間を作ってくるよ。そのケーキは返さなくて良いから、クラスの皆で食べてくれ」

そう言った時のノエル嬢の嬉しそうな顔と言ったら。


「その代わり、フランをよろしく頼むよ」

「は、はい。それはもうお任せ下さい」

ノエル嬢は胸を叩いていた。

フランは嫌そうな顔をしていたが、この時は、俺はもう少しでフランと仲直りが出来ると思っていたのだ。




その放課後王宮に帰ると教会のボドワン枢機卿が俺を訪ねてきていた。

あんまり会いたい相手ではないが、無視するわけにも行かない。

しかし、その横にピンク頭の聖女まで連れていて俺はうんざりした。



「殿下、この度はローズ様が大変ご迷惑をおかけして本当に申し訳ありませんでした」

しかし、ボドワンはいきなり頭を下げてきたのだ。これは予想外だった。この生意気な枢機卿が頭を下げてくるなんて。

「本当に申し訳ありませんでした」

その横のピンク頭まで頭を下げてくる。



「いや、まあ、反省したのなら良い」

いつまでも頭を下げさせておくわけにも行かず、俺はやむを得ず頷いた。この国の教会は聖女を管理しているのもあって結構強いのだ。特にこの枢機卿は若手のやり手で、俺に対してもめったに頭を下げない。それが下げてきたのだ。許すしかなかろう。でも、それが間違いだった。


「ローズ様も教会で一週間朝から夜までお祈りされて反省されました」

「本当に申し訳ありませんでした」

ピンク頭は殊勝にも再度頭を下げた。


こうなると俺も許すしかなくなる。


「元々ローズ様は誰に対してもフランクなところがあって、聖女様がお高く止まられるよりは良いだろうと我々も甘えていたところがあったのです。その件では殿下にも本当にご迷惑をおかけしました」

「すみませんでした」

ピンク頭は再度頭を下げたのだ。見た目は反省したようだ。


「いや、判って頂ければそれで良い」

と言うしか無いではないか。


「そう言っていただけると有り難いのですが、殿下のご本心としては本当に反省したかどうかまだ疑問に思っていらっしゃるかと」

「まあ、それはそうだろう。色々あったしな」

俺はその言葉に頷いた。そう簡単に心が入れ替わる訳はなかろう。


「ローズ様は反省も込めてこれから土日は、王都の民のために癒やしの術を施していこうとなされています。もしお宜しければどこかで一度ご覧いただけないでしょうか」

枢機卿の言葉に私は図られたと思った。こいつはまた、何かを考えているのではないかと。


「昔から王族の方々と聖女様が一緒に慰問されるのは珍しいことではございません。ただ、今の聖女様とはまだ一度もそういったことは無く、陛下にご相談させて頂いたところ、一度くらい良いのではないかとおっしゃって頂いたのですが・・・・」

そう言われると断りようがなかった。幸いにして明日はフランに振られたばかりで俺の身は空いている。やらなければいけないことならばさっさと済ませてしまえば良かろう。


俺はやむを得ず頷いた。



土曜日は朝から結構暑かった。

聖女が本当に反省したかどうかも判らないし、俺はとても用心していた。

しかし、いきなりピンク頭が抱きついてくるということはなかった。


最初の教会ではピンク頭の横にはボドワンがついて俺はその隣りにいることにした。


信じられないことにピンク頭は汗をかきながら、必死に次から次にやってくる人々に癒やし魔術をかけていた。

魔術をかけている時はそれに集中していて、汗を拭こうにも拭けないようで、それを横から甲斐甲斐しくボドワンが拭いているではないか。そんな雑用をこの男がするとは思ってもいなかった。


次の教会に入ろうとしたときだ。司祭の一人が慌ててボドワンに駆け寄ってきたのだ。


何か二人して真剣に話している。

「何を言うのだ。そんな急に来られても私は聖女様のお世話をせねばならないのだぞ」

ボドワンが怒っている。


「どうしたのだ?」

「あっ、殿下、申し訳ありません。実は帝国から視察に来ていた枢機卿が、なにか怒っているらしく、私に会いたいと申しておりまして」

「帝国の枢機卿か」

俺は先日会ったいけ好かない枢機卿を思い出していた。俺には頭を下げるものの、嫌々ながら頭を下げているのが丸わかりな傲岸不遜な奴だった。その相手をするのはこのボドワンでも中々大変なようだった。


「いえ、まあ、待たせておけばよいのです」

枢機卿の言葉に司祭がギョッとした顔をする。


俺は司祭らが可哀想になった。


「あの枢機卿は後々根に持ちそうだ。行ったほうが良いのではないか」

俺はやむを得ずそう言った。


「しかし、私には聖女様のお世話をしなければ。下手なものを近づけるわけにも参りませんし」

「さっきやっていたようなことだろう。別にあなたでなくても俺でもよかろう」

「宜しいのですか」

「やむを得まい」

「では宜しくお願いします」

ボドワンはそう言うと頭を下げて慌てて飛んでいった。


教会の中に着くと早速聖女は手をかざして祈りだした。

教会の中も暑くて蒸し蒸ししている。聖女は汗が目に入ってやりにくそうだ。

俺はやむを得ず汗を拭いてやる。

ピンク頭は私を見もせずに懸命に祈っていた。

こいつも曲がりなりにも聖女なのだと初めて知った。こんなに懸命に民のために祈っているとは。

しかし、その聖女を見守っている俺をフランが見てショックを受けているなんて思ってもいなかったのだ。



それを知ったのは月曜日にフランの食べている食堂の一角に顔を出した時だった。

フランの俺に対する態度が一変していたのだ。俺が声をかけても全く無視してくれたのだ。

そして、何故かノエル嬢らの反応も悪い。


俺は仕方なしにオーレリアンを呼んで聞いた。

「なんでも、フラン様は、殿下が聖女様と仲睦まじくしていらっしゃるのを見られてキレていらっしゃるみたいですよ」

そのオーレリアンの答えに俺は唖然とした。そういえばあの教会はフランが食べに行ったケーキ屋の近くだったことを俺は思い出していた。


「いや、フラン、それは誤解だぞ。俺は聖女と仲良くしたんじゃなくて・・・・・」

俺は必死に言い訳をしようとしたが、


「はい、殿下、申し訳ありませんが、ここから先は関係者以外は立ち入り禁止です」

俺の言葉は途中でフランのクラスメートの男たちによって遮られてしまったのだ。


えっ、ちょっとまってくれ。俺が汗を拭いていたのはボドワンの代わりをしていただけなんだって、本当に!

でも俺の心の叫びは誰にも届かなかったのだった

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