Case.1 探偵なのに盗むんだゆ ⑰

「現れたゆね! 怪盗かいとうソトス!!」


 やま田は巨大ヤドカリの肩に乗る老紳士に向けてそう言い放つ。

 そう、あれは一見すると片眼鏡モノクルをかけたヨーグルなのだが、怪盗ソトスなのである。

 誰が何と言おうともそうなのだ!


「はっはっはっは、やま田クン! 私の宝をぬすもうとは、なかなかに可愛らしい泥棒猫どろぼうねこじゃないか!」

だまるゆ! そのお宝、元々お前の物ではないゆ! ボクはあくまで取り返そうとしているだけゆ!」

「ほほう、では取り返した後はちゃんと元の持ち主に返却するのだろうね」

「……ゆ?」

「ゆ? じゃねえよ。そこは清く正しく即答してくれよ」


 俺の至極しごくとうな意見は、例のごとくやま田の可愛らしいお耳には届かない。


「とにかく、まずはそこのお宝頂くゆ!」

「よろしい! だが、君の相手はこの私ではない。今日は別件があるのでね。代わりに――、手下その①よ、出でよ!」

「はぁい、あるじさま!」


 ソトスが黒いマントをひるがえす。

 と、次の瞬間、その姿は消え去り、代わりに赤い髪をツーサイドアップにした女性がポーズを決めて出現していた。

 黒いハイレグスーツに、黒いロングブーツ、頭には小さなシルクハット、そして例によって目元は赤いマスクで覆われている。

 そのお姿を見るのは二度目だが、チラ見するだけでもハラスメント赤切符を切られそうで、俺の視線は若干らし気味になってしまう。


「皆さぁん、あなたの都合のいい女ラヴァー、手下その①ちゃんですよー! 今日はこのヤドカリさんを使ってヨシナリきゅんにイケナイコトしまぁす」

「なんで俺限定なんだよ」

「そ・れ・は、オネーサンの推しだから?」

『ヤッド! カッリ!』


 手下その①は、にっこりと微笑ほほえんでいるが、その横にいるヤドカリ怪獣は謎の鳴き声を上げ、凶悪な形状のハサミを前に突き出してシャドーボクシングを始める。

 あんなモノでイケナイことをされた日には、新しい世界へ転生してしまうかもしれない。

 あちらで無双するのはもうちょっと青春アオハル満喫まんきつしてからにしたいものだ。

 手下その①はヤドカリのとなりに下りると、指令を下す。


「さあ、可愛がってあげなさぁい!」

『ヤード! カッリ!』


 巨大ヤドカリはその声に応じ。

 こちらへ向かって猛然もうぜんと突撃してきた。

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