第81話

 んえ!?

 たしかに帰ってくるようにって書いてあったけど……、ウィルフレッド様も!?


 「何を驚いている? まさか皇太子の婚約者ともあろう者が従魔に乗って1人で向かおうなんて思っていたわけではあるまいな?」


 うっ……。そう言われると、確かにそんなことする令嬢はいないかもしれない……。


「婚約者の国に2人で挨拶にいく。それだけだ。もちろん船でな」


 そう言った皇帝陛下は、大森林を通って行くんじゃないぞ? というようにニヤッと笑った。







「わぁ〜! 風が気持ちいいですね」


 私達の視線の先には青い海がキラキラと輝いている。


 皇帝陛下にルボワール王国へ向かうように言われた後、驚いている間に報酬だという屋敷に連れて行かれ、そしてまた驚くことになった。

 屋敷は思っていたよりもかなり立派で、ノアとネージュはすぐに気に入り庭を駆け回っていた。


 ルボワール王国へ向かうまで1ヶ月。一旦クレンセシアへ行って、その後大森林に行って、ルボワール王国出発前に帝都に戻って来ればいいや! なんて考えていたけど、そんな暇は全然なかった。


 皇太子殿下の婚約者になった私にはお茶会やらパーティーやらの招待状が山ほど届いた。

 考えてみれば皇太子殿下の婚約者なのだからこうなるのは当たり前なんだけれど……。

 アンドレ様の時は婚約したのが幼い頃だったから、こんなふうに直接招待状がたくさん届くようなことはなかったのだ。

 あの頃はデビュタント前だったからパーティーはまだ出席できなかったし、お茶会も両親が選んだものにいくつか出るだけだった。


「でも今回はそんなこと言ってられないわ」


 私は仕方なく1通1通中を確認し、招待状を出席しなければいけないものと今回はお断りするものに分ける。


 そうして私は出発までの1ヶ月間お茶会とパーティー漬けになり、帝都に飽きたノアとネージュは空を飛び大森林に戻り1ヶ月間狩を楽しんだ。

 1ヶ月後に帰ってきたノアとネージュが、クレンセシアに行く時に首からぶら下げて持って行ったマジックバッグの中から大量のお金が出てきた時は驚きすぎてひっくり返るかと思ったが、そのお金が大森林で狩った魔物をクレンセシアで売って手に入れた物だと聞いた時は頭が痛くなった。

 ノアとネージュはクレンセシアの門へ行き、大森林で狩った魔物を冒険者ギルドで換金したいと喋ったらしい。

 兵士達はノアとネージュのことを何度も見たことがあるが、基本は従魔のみで街へ入ることはできない。

 しかし目の前の従魔達は人間と同じレベルで話しているし、グリフォンとフェンリルだし……、とドナートさんに相談し、ドナートさんが領主様の元へ確認しに走る事態になったという。

 その結果、ドナートさんが付き添うことで無事魔物を換金できた、という訳だ。


 いつも通りできたぞ! と話す2匹の得意げな顔を見ると怒るに怒れない……。

 けど、何もなしでこのままにするわけには行かないし……。今回はこういう理由でたくさんの人に迷惑をかけたんだよ、としっかりと話した。

 私に言われるまでは迷惑をかけたなんて全く考えていなかったようで、話を聞いた2匹はこれはお肉抜きの刑になるんではないか!? とビクビクしていた。

 今回は善意からの行動だからお肉抜きにはならなかったけどね。








 そんな2匹は今船の上から魔法を撃ち、海の魔物を仕留めている。

 皇帝陛下が大きな船を用意してくれたので、ノアとネージュもそのままの姿だ。

 ルボワール王国に着くまでの1週間で海の幸を山ほど狩る予定らしい。

 魔法で仕留めてはノアが飛んで持って帰ってきてアイテムボックスに入れて、持って帰ってきてはアイテムボックスに入れて。


 そんな様子を何度も見たことがあるウィルフレッド様と騎士団長様は「今日もすごいな……」と眺めているが、初めて見る騎士達はあんぐりと口を開けて驚いている。


「リア! 見てくれ! 大物だっ!」


 そう言ってノアが持ってきたのは、ノアでさえ両前脚で抱えても重そうなくらいの大きなお魚! 鑑定すると、白身がホクホクで美味しいお魚魔物らしい。


「白身がホクホクで美味しいらしいよ」


 大物な上おいしいと聞いて2匹は目を輝かせている。


「よし! じゃあ今日はみんなでこれを食べることにしましょう!」


 この大きさなら船に乗っている全員で食べても十分お腹一杯になりそうだ。


「やったー!!」


「流石リア!!」


 大喜びのノアとネージュがすぐに船の料理人達を呼びにいき、ワーキャー騒ぎながらも一緒に解体を始めるのだった。

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