第77話
「そろそろ約束の時間ね」
今日は皇太子殿下とのお茶会だと聞いたメイド達に朝からピッカピカに磨かれドレスアップした。
お茶会じゃなくて今日が婚約パーティーなんじゃないかというくらいに念入りに。
「素敵ですわ」
「ええ! とっても美しいです! 皇太子殿下が恋に落ちるわけですわね」
皇帝陛下が恋愛結婚だったから息子の皇太子殿下にも自身で相手を選ぶことを認めているというのは貴族中が知っていることだ。
このメイド達も私がアンドレ様との再婚約を避けるために皇太子殿下が名乗り出てくれたとは少しも思っていないだろう。
それに素敵だの美しいだのと言われても、悲しいことに今からお茶をする皇太子殿下のほうがよっぽど美しいのだ。
いや、婚約する立場からしたら婚約者が美しいのはいいことなのかな?
中庭に行くと、既にウィルフレッド様が待っていた。
「お待たせしてしまい申し訳ありません」
「いいや、私も今きたところだ」
中庭は沢山の花が咲き乱れ、美しく整えられてある。さすが王宮の庭師だ。
席に座るとフルーツのたっぷり乗った美味しそうなタルトとお茶が運ばれてくる。
「美味しそう!」
「このタルトはうちで出るお菓子の中で私が特に好きな物なんだ」
私だけこんなに美味しそうなの食べて、ノアとネージュに怒られちゃうな。
今日はウィルフレッド様とゆっくりお話ししようと思い、2匹は部屋でお留守番だ。
「いよいよ明後日だね」
「そう、ですね」
明後日……。早すぎる。とてもじゃないが、皇太子殿下と公爵令嬢の婚約だと思えないスピードだ。
「後悔してる?」
「いいえ! ウィルフレッド様には助けていただいていますから」
そういうとウィルフレッド様は少し悲しげな顔をする。
やっぱり本当は想う方と婚約したかったのだろう。
「オレリアは助けて頂いていると言うが、オレリアとの婚約は私や父上、そしてこの国にとっても良い話だから。でもそういった理由じゃなく、婚約者になれることを願っているよ」
?? 私はアンドレ様から逃げられる。ウィルフレッド様達は強力な魔法使いが手に入る。お互い様ですよということかな?
「ええ。私もできることなら協力していきたいと思っております」
「まあ、少しずつ、だね」
その後も和やかにお茶会は進み、少し話しすぎてしまって終わる頃には空が茜色になってきていた。
「本日のお茶会、とても楽しかったです。それではまた、パーティーで」
「あぁ、またパーティーで。パーティーも楽しみにしているよ」
昨日のお茶会の準備で、今日がパーティーなんじゃないかと思うくらいピカピカにされたと思ったが、それは私の間違いだった。
「お次は薔薇の香油を塗ってマッサージさせていただきますね」
「まぁ! お肌がスベスベっ!」
メイドさん達の本気はあんなもんじゃなかったのだ。
今朝の朝食を終えるや否や、メイドさん達に囲まれ湯殿へ連れ込まれた。
そして服を脱がされお湯に浸され、今に至る。
もちろん大国の王宮のメイドさん達だから技術は素晴らしい。素晴らしいのだけれど、とてつもなく長いのだ。
パーティーは明日の夜だというのに、今日は丸1日お手入れに費やして、明日もまた朝からお手入れとドレスアップをするらしい。
ヒィィィ……。今日は特に予定がなかったはずなのにクッタクタだよ。
でも今まで公爵家で色々とお手入れさせていた私でも凄いと思うのだから、効果はとっても期待できるんだけどね。
明日もこれか……。
そう思うと気が遠くなっちゃうから、もう考えるのはやめよう。
ちなみにノアとネージュもパーティーには参加する予定なので2匹も明日は艶々に磨かれるらしい。
メイドさん達に囲まれてヒィヒィ言っている私を笑っていたので、2匹も明日は同じ気持ちを味わえばいいと思う。ふっふっふっ。
そう思っていたが次の日にまたメイドさん達に囲まれると、ノアとネージュを気にしている暇などなかった。
「とっっってもお似合いですわ!」
私の目の前の鏡には、誰これ? と言いたくなるほどの変身をした私が写っている。
ウィルフレッド様がプレゼントしてくださったドレスは隅々までサイズを測ったおかげか、ピッタリと私の身体に合っている。
「それにしてもこのドレス、珍しい形ですね」
王国ではたっぷりと布を使ったボリュームのあるドレスが流行っていたのだけれど、ウィルフレッド様が用意してくださったドレスは上半身から太ももまでが身体に沿ってピッタリとしており、膝上から布が広がっているあまり見ないデザインだ。
背中が大きく開いているし、身体のラインがわかってちょっと恥ずかしい。
でも。身長が高くとても華奢とはいえない私の体型にはいつもの形のドレスよりも格段に合ってると思う。今までは自分は着飾ってもこんなものかと思っていたけれど、今日のドレスを着た私はなんだか女性らしく見える。
このドレス姿を見た今ならわかる。あのいつものドレスは、ただでさえ大きな私をさらに大きく見せていたのだ。つまり、全く似合ってなかった。
「こういった形のドレスが帝国では流行っているのですか?」
「いいえ。私達もこのドレスを見て驚きました。きっと皇太子殿下がアールグレーン様に似合うようにと一生懸命考えたのだと思いますよ」
羨望の的になること間違いなしですっ! とメイド達が笑う。
それにこの色……。
薄い水色から裾に行くにつれて濃い青になっている生地には、美しい銀色の刺繍とキラキラと輝く宝石が縫い付けられている。
これは、ウィルフレッド様の色だわ。
きっと深い意味はなくて、ウィルフレッド様に認められた婚約者だと貴族達に示すためでしょうけど……。
アンドレ様にはこんなドレスを頂いたことがなかったから、なんだか面映ゆい。
アンドレ様はいつも仕方なしにハンカチーフやカフスの色を合わせるくらいだった。
ドレスを贈っていただいた時もとりあえず流行りのものを贈っておけば良いだろうといった様子で、こんな全身を自身の色で包むようなドレスは……。
全身を包む。1度そう考えてしまったらもうダメだった。頭から離れない。
もう! どうしたらいいのっ!
あらあら、と赤くなった顔に気づいているはずのメイドさん達が話しかけてこないのがさらに恥ずかしい。
なんとか熱くなっな顔を冷まそうとパタパタとあおいでいると、コンコンッと部屋の扉が鳴った。
「あら、皇太子殿下! 今アールグレーン様のお支度が終わったところですよ」
ま、待ってっ!!
そう伝えようと振り向くと、ウィルフレッド様がこちらを向いて立っていた。
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