第64話



 

 私たちはメイドに案内され客室へと向かっている。皇帝陛下が小さいままならノアとネージュも一緒でいいと言ったので2匹も一緒だ。


 皇帝陛下と皇太子殿下は今日はしばらく皇妃様に付き添うそうだ。

 皇妃様は病は治ったものの寝たきりだったことにより痩せて筋力がなくなってしまっていてしばらくはリハビリが必要になりそうだ。

だが話すだけなら問題なくできるので、久しぶりに家族の団欒を楽しむらしい。


「こちらでございます」


 メイドに案内されついた部屋は想像以上に豪華だった。


 ひっっっろ!!!

 これって国賓に使うような部屋じゃないの!? 他国の王族とか!!


「本当にこの部屋でいいんですか……?」


「こちらのお部屋で間違いございません。客室の中で1番良い部屋をと皇帝陛下がおっしゃいました」


 ヒェ!? やっぱり国賓に使うような部屋じゃん!!

 こんなすごい部屋にノアとネージュを入れたらどんなことになるかわからない。


「あの、もっと普通の部屋でいいんですが……って、あ!!」


「ヒャッホー!! 俺の寝床はここにするぜ!」


「ぬ、待てっ! そこは私が目をつけていたところだ!」


 ああぁぁぁ〜!!

 ノアとネージュが腕からすり抜け、部屋へ入りベッドに飛び乗った。


「従魔様たちにも気に入っていただけてよかったです。ではごゆっくり」


 メイドさんはそうニッコリ言うとペコっとお辞儀をして去っていった。


もう毛がつくとかは諦めよう。


「ノア! ネージュ! 絶対に家具壊さないようにしてね!」


「「はーい!」」








 豪華な客室で寝て美味しいものをいっぱい食べて過ごして3日。

 報酬の準備ができたと連絡が来たので王城内の一室へと向かう。


「こちらの部屋でお待ちください」


 案内されて中に入ると既にセサルさんが来ていた。


「こんにちは」


「あ、リア様!こんにちは」


リア、様……??


 なんだか急に態度が柔らかくなったセサルさんに戸惑いつつもソファに腰を下ろす。


「実は皇帝陛下が護衛の騎士を用意してくださり、本日セフィーロ神聖教国に戻ることになったんです」


「そうなんですね」


「それで、もしよろしければリア様も一緒にセフィーロ神聖教国に来ていただけませんか?」


 ……んえ?


「な、なぜでしょうか……?」


「それはもちろん、リア様が聖女様だからです!」


「せいじょ?」


 せいじょって……、聖女??


「えぇ! あのパーフェクトヒールがその証拠です!! パーフェクトヒールは教国の歴代聖女の中でもひと握りの選ばれし者しか使えません! まさかこの目でパーフェクトヒールを見られる日がくるなんて! あのパーフェクトヒールをかけるリア様の神々しさは言葉では表せません!! パーフェクトヒールを前回使える者が現れたのは二百年以上前です。歴史書には使える者でも数日魔法を使わず魔力を溜め、使った後は魔力切れを起こし倒れたと記載されています。なのにリア様はパーフェクトヒールをかけた後でも平然とされていた!! 歴史に残る聖女、いや、歴代聖女の中でもナンバーワンになること間違いなしです!! あぁ神よ。リア様に巡り合わせて頂いたこと、感謝いたします!! 」


 ヒェッ!!!


 穏やかで優しげなセサルさんが急に目を爛々とさせ語り始める。


 ノアとネージュもこの異様な雰囲気に「こいつちょっとおかしいぞ」「気持ち悪いな」とかコソコソしている。


「私は特に回復魔法が得意なわけではなく攻撃魔法も使いますし、魔物も狩ったりしますから、きっと聖女ではないと思いますよ?」


「いいえ!! パーフェクトヒールを使える者が聖女でないはずがありません!!」


 聖女じゃないと伝えても聖女だと言い、教国には行かないと言っても聖女なら来るべきだと言う。

 優しいセサルさんが一気に狂信者へとなってしまった。


 どうしようかと思っていると扉の方から声がかかる。


「皇帝陛下がいらっしゃいました」


 よかった! 助かった!!

 部屋には皇帝陛下に続き皇太子殿下、宰相閣下、騎士団長が入ってくる。

 普通なら皇帝陛下お会いするとなると緊張するところだが、今は皇帝陛下が救世主のように見える。


「待たせたね。まずは改めて、皇妃を助けてくれてありがとう。あれから3日経ったが少しずつ食事も取れるようになり、起き上がれる時間も増えてきた。2人のおかげだ」


 よかった!

 もう病の治った皇妃様には回復魔法は必要ない。なのであれから皇妃様の診察は宮廷医が行っていて、どれほどまで回復しているのか知らなかったのだ。


「まずセサル殿。長期に渡り皇妃の治療感謝する。セサル殿の治療があったからこそリア殿を探し出すまで皇妃は生きていられた。セサル殿には教国までの護衛の騎士と馬車を用意した。安全に教国へ戻れるよう腕利きを選んだので安心して欲しい」


「ありがとうございます」


 皇帝陛下の後ろには揃いの鎧を着た屈強な騎士が並んでいる。


「それではセサル様、馬車までご案内いたします」


 騎士の纏め役らしき人が前に出て案内しようとするが、セサルさんは動かない。


「リア殿も一緒に教国へ行くのです。リア様の話が終わるまで私もここで待たせていただきます」


!?


 いつ私も行くことになったの!? その話は断ったはず……。


「そうなのか?」


 皇帝陛下にそう聞かれて思わず首を振った。


「招待はされたのですがお断りしました」


「こうリア殿は言っているが」


「いいえ! リア様は聖女様です。教国へと来るべきなのです!」


 セサルさんはそう言うと、聖女がどれほど素晴らしいか、なぜ私が聖女なのか、そして聖女がどれほど教国へと来るべきなのかを語り出した。


 皆セサルさんの変わりように目を丸くして驚いている。


「セ、セサル殿。セサル殿の言うことはよくわかった。だが肝心のリア殿本人が教国へは行かないと言っている。セサル殿の先ほどの話を聞く限り、聖女であるリア殿の意見をまず聞くべきではないかな?」


 皇帝陛下は驚きつつもなんとか場を収めようとセサルさんの説得にかかる。

 セサルさんは少し考えるようなそぶりを見せたが、なんとか納得してもらえたようだ。


「聖女様の意見が大切。その通りですね。まぁリア様もすぐに教国に来るべきだとわかる時が来るでしょう。これは神の意思により決まっていることなのですから。リア様、私は一足先にセフィーロ神聖教国へと向かいます。リア様を迎え入れる万全の準備をして待っておりますので安心してお越しください。それでは失礼いたします」


 セサルさんは私の足元へと跪き、祈りを捧げるような仕草をして部屋を出て行った。

 なんだか説得できたようでできていないような気がするが、とりあえずは国へ帰って行ったのでよかったとしよう。


「リア殿、なんだか迷惑をかけて申し訳なかったな。まさかあのセサル殿がああも変わるとは思っていなかった」


 私もああなると思っていませんでした。


「いいえ、皇帝陛下が説得してくださり助かりました」


 本当に、助かりました。


「では気を取り直して報酬について話そうか。リア殿のおかげで皇妃の命は助かった。正直もう治療法もなく助からないと思っていた。本当にありがとう。リア殿には約束通り貨幣で報酬を用意した」


 そう言って宰相様が持ってきた美しい細工の箱にはギッチリと白金貨が詰まっていた。


「白金貨500枚、5億リルが入っている。受け取ってくれ」


 こ、れは……


「貰いすぎです」

 

 確実に。

 流石に魔法を1回かけただけで5億リルは多いと思う。


「いいや、これは皇妃の命の値段だ。本来ならばもっと支払いたいのだが、今回リア殿のことは発表しないという約束なのでこの金額が限界だった。申し訳ない」


 そう皇帝陛下に言われてしまうとそのまま受け取るしかない。皇妃様の命の値段をこちらが下げるわけにはいかない。


「ありがたく頂戴いたします」


 私は一旦ソファの横に立ち上がり膝をついて恭しく受け取る。

 そして宰相様から白金貨の詰まった箱を受け取ると、こんな大金無くしては大変だ! とすぐにアイテムボックスへとしまった。

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