第45話
「ノア、ネージュ! もう食べられないよ〜」
どっかの国の秘密兵器だと思われていることなどつゆ知らず、私はノアとネージュとクレンセシアの大通りで屋台グルメを食べ漁っていた。
追加でお願いした魔物の解体にまた2日かかることになり、クレンセシア滞在が伸びたので今日は1日町を観光することにしたのだ。
と言ってもノアとネージュを連れて歩くので大きな通りしか通れないのだけど。
鳥と犬の姿になってくれればどこにでも行けるよ? と聞いたが、宿でずっと小さくなっていた2匹はもう限界だったらしい。
宿から出て大通りへ向かうと、初日にだいぶ噂になったからかパニックにはならなかったけどやっぱり目立つし注目は集めるよね。
私たちが大通りを歩くと道がパッカリ割れる。
この遠巻きに見られている感じが落ち着かない。
雑貨店や香辛料の店などをみて気に入ったものを購入しつつふらふら歩く。ノアとネージュが中まで入れるお店がないのでじっくり商品を見れないのが残念だ。
やがて屋台の通りに辿り着くと、食べ物の良い匂いを嗅いだ食いしん坊の2匹が腹が減ったと騒ぎ始めた。
「もう我慢できない!! リア、早く何か食べよう!」
「ネージュ待て! 私は美味い店を見つけるのが得意なのだ。今私がこの鼻を使って美味い店を探そう」
「何を言う! 鼻ならフェンリルである俺の方が良いに決まってるだろう! 俺が店を探してやる!」
「なんだとぉ〜!」
お互いムキになってどっちが店を探すかモメはじめる。どうせ1店舗じゃ足りないんだからそれぞれ好きに選べば良いのに。
そして興味津々に遠巻きに見ていた人たちは災害級の魔物2匹のやり取りに顔を青くする。
大丈夫ですよ。町を破壊したりはしませんから。
あ、おじいさん、こんな所で膝をついて神に祈りをささげないでください。邪魔になりますよ。
「おうおう、お2人さん! うちのスープはどうだい??」
そろそろ止めなきゃな、と思っていたら思わぬところから声がかかった。
ノアとネージュがわちゃわちゃやっている近くの屋台のおじさんんがスープを持って声をかけてきたのだ。
ニコニコと話しかけてきたこのおじさんはノアとネージュが怖くないのかな? と思ったが、スープを持つ手がプルプルしている。
どうやら怖い気持ちを押し込めて怖がる周りのみんなのために声をかけてくれたようだ。
「すみません。ありがとうございます!
ノア、ネージュ。このままみんなに迷惑をかけるなら食べずに宿に帰るわよ」
食べずに、という言葉を聞いた2匹は急にピタッとくっつき、「俺たちケンカなんかしてないぜ!」、「そうそう。どこの店が美味いか話し合ってただけだ!」と言う。頑張ってるけど全然誤魔化せてないよ。
「すみません、このスープ5皿分ください」
「はいよっ!」
ノアとネージュには専用のお皿をアイテムボックスから出し2皿分ずつ入れてもらい、1皿分は木皿に入ったものをそのまま受け取った。
「「「いただきます」」」
スープはゴロゴロとお肉が入っていてお肉も野菜も柔らかく煮えていてとても美味しい。
「美味い! お前やるではないか!! 美味いぞ!!」
ネージュ! 失礼だよ!!
「ごめんなさい、この子まだ人と関わり始めたばかりで失礼なことを」
「いやいや! いいんだよ。伝説のフェンリル様に美味いって言ってもらえてむしろ嬉しいよ!」
店主のおじさんはガッハッハっと笑っており、気を悪くしていなくて一安心だ。
「リア! ここのスープもう少し買っておいてくれ! 後でまた食べる!」
「はいはい。すみません、この鍋一杯分いただけますか?」
おじさんは急に出てきた鍋に目を丸くしていたが、そんなに気に入ってくれて嬉しいなぁ! とたっぷり鍋にスープを入れてくれた。
おじさんとネージュの様子を見て周りの人達も意思の疎通が安全に出来るとわかったからか、「うちの串焼きも美味いぞ!」「うちの店も見て行っておくれよ!」とちらほら声をかけてもらえるようになった。
ノアもネージュも声をかけられるのは初めてでかなりはしゃいでおりあれも食べるこれも買うと大忙しだ。
また、お店の人だけでなく町民まで話しかけてくれる人がでてきた。あと言ってもお店の人と比べたら全然少ないのだけど。
特に悪ガキそうな子供が度胸試しに声をかけてくる。
そしてノアとネージュをチョンと触ってはすげー!すげー!と英雄になっていた。
その後ろで親と見られる大人達は青い顔をしているんだけれどね。
私としてはこのままみんながノアとネージュに慣れて普通に町で過ごせるようになってくれれば嬉しいので大歓迎だ。
結局まだ頭が柔軟な子供達はノアとネージュにあっという間に慣れ、子供が子供を呼び大勢でノアとネージュに群がっていた。
どうやら全身でノアとネージュのもふもふを体感してるらしく、両手を広げてノアとネージュに埋もれている。
「もふもふ!」
「ふわふわの毛が気持ちいい!」
「こっちの羽もすごいよ!!」
とたくさん褒められ2人もご機嫌だ。
「そうだろう! 俺の毛並みは美しいだろう!」「私はこの羽で空を飛ぶんだぞ」、なんて返事をするものだから、さらに子供達は「すごい! しゃべったぁ!」と大騒ぎ。
結局2匹は空が暗くなるまで子供達に囲まれていた。
「つ、疲れた……。大森林で狩りをするよりも疲れたぞ!」
「あぁ。クタクタだ」
「リア、もう宿に帰ろう!」
「ネージュに賛成だ 」
子供達相手にずっと力を加減していたからか珍しく2匹の疲れた姿を見ることができた。
「いつも大森林で1日狩りをしてもピンピンしていたから2匹は疲れないのかと思っていたわ」
「疲れぬわけないだろう!!」
「そうだ! あやつらは大森林の魔物より手強かったのだ!」
そんなわけないでしょう。
今の言葉を聞いたら冒険者全員から抗議の声が上がるよ。
「宿に帰って横になりたい。ずっと絶妙な力加減でゆっくり動いていたから筋肉がプルプルしているんだ!」
「はいはい」
次の日ノアとネージュは2匹そろって「昨日は今まで生きてきて1番熟睡したぞ」と言っていた。
そして冒険者ギルドに向かうため町にでてまた子供達に囲まれるのだった。
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