第23話
王城へ辿り着き通されたのは謁見の間ではなく陛下の私室であった。
部屋に通されてすぐ陛下と第二王子が現れ、いよいよこれは本当にオレリアに何かあったのかもしれないと覚悟する。
「今日は私的な会だ、挨拶はよい。それよりも急ぎ話がある」
挨拶をしようと膝をつこうとしたところそう言われてた。よほど急な用件があるのだろう。
「アールグレーン嬢のことだが」
そう話を切り出され、やはり……と覚悟する。
王族の前だからと気を張って耐えているようだが、隣にいる妻からも震えが伝わってくる。
「どうして魔法が使えることを黙っていた?」
「……はい?」
魔法が使えることを黙っていた?どういうことだ?
「お父様、それはどういうことですか?」
王子も事情を知らないようだ。
「バルタザール付近でデブブ伯爵の荷を奪った盗賊を討伐した女冒険者がいた。
デブブ伯爵が荷の買取りを申し出たが条件が合わなかったようでな、揉めて戦闘になったそうだ。
その女冒険者は魔法でデブブ伯爵の元Bランク冒険者をサクッと倒して従魔のグリフォンに乗って国境方面に飛び去っていったそうだ」
元Bランク冒険者をサクッと倒すグリフォンを従魔にした女冒険者。
それはすごいと思うが、今何の関係があるんだ?
「アールグレーン嬢の話だよ」
「は、はい?」
ど、どういうことだ?オレリアの話?
今の話がか??
訳がわからず妻の方を見るが、妻も困惑しているようだ。
「それはどういうことでしょうか。娘は魔法を使えませんし、グリフォンなどと言われても訳がわかりません」
そう伝えると陛下は私をじっと見る。
「どうやら本当に何も知らないようだな」
詳しく話を聞くと、先程話していた女冒険者を見たデブブ伯爵が女冒険者がオレリアだったと言っているようだ。
どういうことなんだ? その女冒険者は強力な魔法を使うと言うがオレリアは魔法を使えない。幼い頃からずっと練習していたが、結局一度も魔法が使えたことはなかった。
それにグリフォンなど、普段王都か領地で一緒に生活しているオレリアが従魔にするなどありえん。
「それはデブブ伯爵の見間違えではありませんか?」
「そ、そうです父上!
オレリアが魔法を使えるなどと!!
ましてやグリフォンを従魔にしているなど、あり得ません!」
そう伝えるが、陛下はそれでもその女がオレリアだと思っているようだ。
「その女はローブで顔を隠していたが、グリフォンに乗り飛び立つ時に風でフードが捲れて取れたという。その時に見えた顔がアールグレーン嬢だったらしい。
デブブ伯爵はアールグレーン嬢が国外追放となった舞踏会にも参加していてアールグレーン嬢の顔を見ているが、確かに本人だったと言っている。
向こうもデブブ伯爵の顔を見て、しまった! という表情をしたというから本人だろう、と」
本当に? オレリアが魔法を使いグリフォンを従魔にして旅をしているというのか?
その冒険者は国境の方に向かったと言っていた。たしかにオレリアは国外追放になっているし、オレリアが残した手紙にも大森林を通って隣国へ向かうと書いてあったから国境に向かうのもわかる。
「確かに元ランクB冒険者を倒すほどの強力な魔法を使えるというのも、強い魔法使いが多いアールグレーン家ならありえることですが……。でも、本当にオレリアが家を出るまで一度も魔法を使っているのを見たことがないのです!」
私がそういうと続いて妻も同意した。
「そうです! オレリアが魔法を使うところは私も見たことがありません!」
そういうと陛下は足を組み、顎に手を当て考え込む。
「では家族にも秘密にしていたということか……」
そんな、なぜ?
本当にその冒険者はオレリアなのか? 本当にオレリアならば、なぜ魔法が使えることを家族にまで秘密にしていた?
でも確かに、賢いあの子が魔法も使えないのに無謀にも1人で大森林を通って隣国へ行くなどと言うだろうか?
本当は魔法が使えるから、1人で大森林へと向かったのではないだろうか?
「父上、本当にその冒険者はオレリアなのでしょうか?
魔法が使えないと嘘をつくメリットがオレリアにあるとは思えません。
魔法が使えることを期待され私の婚約者になったのに、魔法が使えないとわかって周りにも色々と言われていた。
父上もオレリアが魔法を使えないと分かった時は残念がっていたではありませんか!
それなのに嘘をついてまで魔法を使えないということにする理由がわからない」
確かにオレリアには魔法を使えないと嘘をつく理由なんてないはずだ。
今回も無実の罪を着せられ婚約破棄に国外追放となったのは、王と王子が魔法の使えないオレリアから魔法の使えるシャルロッテという男爵令嬢に婚約者をすげ替えるためだ。
魔法が使えなくて1番辛い思いをしたのはオレリア本人だ。
王子も私も妻も、3人とも納得のいかない表情をしているのを見た王はゆっくりと口を開いた。
「1つだけ、思い当たる理由がある」と。
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