婚約破棄されたけど前世が伝説の魔法使いだったので楽勝です

第19話

　ん？　朝……？

　テントの入り口の隙間から光が差し込んでいる。

　昨日は久しぶりに家族のことを思い出していろいろと考えていたらいつの間にか寝てしまったみたいだ。

「ノア、朝だよ。おはよう！」

　ノアに声をかけると起き上がりはしたものの、まだ眠そうでキチンと目が開いていない。

「……うーん。リア、おはよう」

　水魔法で空中に水球を出し2人で顔を洗う。

　顔を洗ったらノアも目が覚めたようなので、アイテムボックスに入っているものをささっと食べて出発の準備をする。

　テントもしまったし火も消した。よし！これで忘れ物はないわよね。

　基本は丸ごとアイテムボックスに入れればいいのでそうそう忘れ物をすることなんてないんだけれど、一応ね。

　最後の確認が終わったので野営場から街道に向かおうとすると、なんだかやたらとゴテゴテした豪華な馬車が野営場に入ってくる。

　かなり豪華な馬車だわ、貴族かしら。

　今の立場上この国の貴族には出来るだけ会いたくない。

　チラリと馬車をみると、デブブ伯爵の家紋が付いているのが目に入る。

　よりによってあのデブブ伯爵だなんて！

　何か面倒なことが起こる前にさっさと野営場を出ようと思い場所の横を通り過ぎようとした時、

「おい、お前！」

　そう馬車の御者席から声をかけられる。

　もしかして私がオレリア・アールグレーンだとバレている！？

　キッチリ真面目に仕事をこなす私の父と、色々と後ろ暗いことのあるデブブ伯爵では仲も良くなければ派閥も違う。

　何か2人の間に関わりやいざこざがあるなんて聞いたことがないけれど、もしかしたら私に知らないところで何かがあってその仕返しにこんなことになった私を探しにきたのかもしれない。

　どうしよう。と、いろいろな可能性を考えれば考えるだけ心臓がバクバクする。

「ローブを被った女冒険者で小型の鳥魔物……、鋼の斧盗賊団を倒したというのはお前か？」

　鋼の斧盗賊団？

　あぁ、私が討伐した盗賊団ね。

　私が財宝の換金を断ったからここまで追いかけてきたのだろうか？

　ここまで追いかけてくるほど大切なものがあの財宝のなかに入っていたとか？

「はい、そうです」

　そう答えると、御者はジロジロと値踏みするように私を見た。

本当にこいつが1人で盗賊団を倒したのか？　と疑問に思っているのだろう。

　御者が馬車の中に何か声をかけると中から護衛を連れたデブブ伯爵が降りてくる。

　デブブ伯爵が段を降りるたびにギシギシと馬車が鳴り腹がタプタプ揺れる。服のボタンなんか今にも弾けて飛んでいきそうだ。

　相変わらずのようね。

　前に舞踏会で見かけた時から何も変わっていない、デブブ伯爵本人だ。

　私がオレリア・アールグレーンだというのとはローブを被っているからか気がついてないみたいだけど。

「ふん、お前が盗賊団を倒した冒険者か。

何を血迷ったか買取を断ったようだが、そろそろ自分のした愚かな行動を反省している頃だろうとこの私自身が直接買取りにきた。

早く私の財宝を出せ」

　そういうとデブブ伯爵は懐から取り出した何かをこちらに投げる。

　私の目の前の地面に落ちたものを見ると白金貨が2枚。

「これはなんでしょうか？」

　私の見立てでは財宝全てで白金貨25枚、2500万リルほどになるはずだ。

　だが門でアーモスさんに聞いたデブブ伯爵が出した買取額は白金貨2枚と大金貨5枚、私の見立ての10分の1である250万リルだった。

　今こちらに投げられたのはそらよりさらに低い200万リルだ。

「貧乏人は白金貨も見たことがないのか？

それで200万リルだ。早く財宝を出せ」

　そう言われるが2500万リルの物を200万リルでなんて売れるわけがない。

「申し訳ありませんがお断りさせてください。

この財宝の価値はもっと高い。

それに門で示された金額でももっと高かったはずです。」

　そう言うと伯爵はこちらを睨みつけ、懐から大金貨5枚を取り出しまたこちらに投げようとする。

「アーモスさんにもお伝えしましたが、250万リルでは売れません」

　伯爵がこちらにお金を投げる前にそう伝えると、デブブ伯爵は怒りで顔を真っ赤にする。

「なんだと！？　冒険者風情がこの私に口答えしおって！！

むしろ貴族である私がここまで追いかけてきたのだから報酬など求めず差し出すのが当たり前だろう！！　はやく財宝を出すのだ！！」

　デブブ伯爵がそう怒鳴り散らすが魔法を使える今の私では全く怖くない。

「財宝の中にあった絵画は今王都で話題の絵師の物で約300万リル、隣国のトウゲル村で作られた壺は約250万リル、オリキ村で作られた絨毯は800万リルほどでしょうか。他にもジュエリーや美術品、それなりに良い武具や防具もありましたし、細かい物まで合わせれば2500万リルほどになると思います。

とても250万リルでは売れません」

　デブブ伯爵は冒険者に財宝の価値がわかるわけがないと思っていたのだろう。

　金額を言い当てられてかなり驚いたようだが、すぐにまた騒ぎ出す。

「うるさい！　そもそもその財宝は私のなのだ！

私が討伐隊を出していたというのにそれを横取りしたのはお前だろう！　早く財宝を出せ！」

　討伐隊を出したのはいいものの何度も失敗したと聞いているんだけど。

　私がなかなか財宝を出すそぶりを見せないからか、焦れた伯爵は後ろに立っていた護衛に声をかける。

「マトヴェイ！　その女のマジックバッグを取り上げろ！」

　そう言うと後ろに立っていた護衛の男が前に出てくる。

「今のうちに大人しく財宝を出しな。お嬢ちゃん、まだ駆け出しだろう？　オレは今は伯爵様の護衛をしているが元Bランク冒険者だ。オレと戦おうなんて思うなよ、痛い目みるぜ！」

　元Bランク冒険者だというのがよっぽど自慢なのかやたらとカッコつけて言ってくる。

「申し訳ありませんが、お断りします」

　そう言うと気を悪くしたのか不機嫌そうにフンっと鼻を鳴らし「後悔するぜ！」と言い剣を片手に飛びかかってきた。