第4話 嫁なのか? 妹なのか?
決勝の刻限となり、呂琳と孫尚香が対面した。
「……」
「…………」
二人ともピリピリしている。
観客席にいる家族の方が緊張するくらいに。
「尚香! 力が入りすぎだ! いったん深呼吸しろ!」
孫策が妹にアドバイスを送ったので、
「気負いすぎだ、琳! 普段の練習を思い出せ!」
と呂青も叫んでおいた。
「普段の練習か。余裕じゃねえか、呂青殿」
「事実だ。琳の弓はすごい。あいつは戦場の空気を知っている」
「ふ〜ん、そりゃ楽しみだぜ。何たって呂布将軍の娘だからよ」
孫策が圧を送ってくる。
呂青も負けじと対抗した。
呂琳と孫尚香は競技用の矢を一本一本点検している。
「私のお兄ちゃんの方が凄いんだからね!」
「そんなことない! 私の兄上の方が凄いもん!」
「いいや! 私のお兄ちゃんが上だし!」
「絶対に私の兄上が格上だよ!」
「くぅぅぅ〜」
「むぅぅ〜」
一歩も譲らない両者。
「どっちの兄が優秀なのか弓で決めましょう!」
「望むところだよ! 絶対に私が勝つ!」
そうなるよな。
似た者同士だから譲れないポイントも一緒らしい。
「なあ、呂青殿。前々から気になっていたのだが……。あの子は嫁なのか? 妹なのか?」
「
「俺は妹と同腹だからその感覚が分からん。強いていうと嫁なのか? 妹なのか?」
「ああ……」
指摘されるまで考えてこなかった。
呼び方は『兄上』『琳』のままだ。
買い物へ出かけた時も『本当に兄妹仲が良いですね』なんて声をかけられる。
「妹だな。同じ父や母を持つから。実家に帰ると昔のように振る舞う」
「なるほどね」
孫策は視線を前に戻した。
……。
…………。
肝心の試合結果について。
お互いミスらしいミスもなく延長戦にもつれ込んだ。
呂琳が男性顔負けの射撃を披露すれば、孫尚香も見事な技で場をどよめかせる。
「中々やるね。でも疲労で腕が震えているよ、弓腰姫さん」
「まだまだです! ここからが強いんですよ、私は!」
「ふ〜ん……」
呂琳が有利だな、と思った。
というか孫尚香は相手が悪すぎた。
呂青は審判に向かって手招きする。
『あと三射でも決着がつかなかったら引き分けにしろ』と指示する。
『二人とも優勝させてあげたい』
そういう会場の空気を感じ取ったのだ。
孫尚香はそこから三射を粘った。
苦しいのは明らかで、何回も腕を気にしていた。
「勝負は引き分けとし、両者優勝とします!」
審判が結果を告げると、会場は割れんばかりの拍手喝采に包まれた。
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