第2話 蛇矛の値打ち

 黄忠が優勝を手にした翌日。

 弓技大会の女性部門も開かれた。


 エントリーしたのは八名。

 決勝トーナメントからスタートする。


 優勝の大本命は呂琳だ。

 騎射を得意とするが、地上でも名手には変わりない。


「今日の調子はどうだ?」

「一月前から調整してきた。バッチリだよ!」


 会場へ入るなり大きな歓声に包まれた。

 長安は完全にホームなのである。


「弓腰姫とは反対の山か」

「キューヨーキ?」

「孫策殿の妹君だ。いつも腰から弓をぶら下げているらしい」


 呂青はトーナメント表を指差した。

 揚州の孫尚香そんしょうこうがエントリーしており、大会のダークホースと目されている。


「さあ、張った! 張った!」


 大声のした方を向くと劉備がいた。

 ちゃっかり賭場を開いている。


「何が楽しくて胴元をやるのかねぇ」


 隣にいる張飛が文句をいう。


「だって仕方ねえだろう。無位無官になっちまったんだからよ」


 天下統一の後、劉備には新しい官位が与えられた。

 ところが上官を投げ飛ばしてクビになり、今はニート状態に戻っている。


「皇族の末裔のくせに泣けるねぇ。袁紹の客将やっていた時代が天国みたいだぜ」

「うるせえ! 益徳えきとくの図体がデカいから食費がバカにならんのだよ! 借金して酒飲みやがって! お前の蛇矛だぼうを質に入れてやろうか!」

「ケッ……戦争が終わったんだ。あんなもん、一晩の酒代にしかならねぇ。重すぎて趙雲ですら扱えねえんだぜ」


 劉備のギャンブル屋に客がやってきた。


「これ、弓腰姫に賭けるぜ」


 銀子がたっぷり入った袋を置く。


「おおっ! 気前がいいな、兄さん!」

「まあな。世話の焼ける妹が出場するんだ。願掛けみたいなものよ」

「ほう? 妹?」


 それを見ていた呂青も銀子の袋を取り出した。


「だったら俺も賭けに乗るしかないな」

「何だよ。いたのかよ、呂青殿」

「それは俺の台詞だ」


 呂青と孫策の間で火花が散った。

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