100話突破 番外編



未来の記録


「さて、今夜は何をしようか?」


 満月が都市を照らす夜、時計台の頂上にて呟く。

 此処は冥界のとある都市。

 先日の戦いから、長めで本格的な休暇をリュミス様達から頂いた。

 

「全く、綺麗だなぁ……やることねぇな」


<夢幻:一人だからでは?>


「確かに人呼べばいいよね、でもこの時間は流石に呼べん、深夜だもん」


<侵紅:「主には、いつでもこのルージュちゃんがついてますよ!」>


「念話で話しながら、顕現して口でも言うな。二重に聞こえて気持ち悪い、けどありがとな、ルージュ」


 空中に浮いて後ろから抱き着いてくる、紅の髪をツインテールにした割と布面積少なめな恰好の少女、名をルージュ。

 一度は相まみえ、戦ったが今では確かな仲間だ。

 あれもそこそこ前か?

 

「うわぁ、綺麗な満月ですね!主!」


「あんま揺らすな。結構絶妙な感じで保ってるから、落ちたら上るの面倒だし」


「では、ルージュちゃんの触手の上へどうぞ!主!」


「ああ、その手があったか」


 空間に空いた穴から出て来た、赤黒く細長い肉の塊ようなもの、つまりは触手に飛び乗る。

 これ、見た目の割にヌルヌルしたりしていないのだ。

 まあ自由にルージュが調節できるらしいけど。


「今日は夜景を楽しむとしよう、明日ゆっくり遊ぼう」


「夜景だけでいいんですかぁ?ルーシュちゃんの、カ・ラ・ダ、でも楽しみませんかぁ?」


<夢幻:駄目ですルージュ!>


<記憶:禁止!その行動は許可しません!ルージュ!>


<双星・白:五月蠅いです、深夜に何やってるですか?>


<双星・黒:五月蠅いですよ、深夜に何事ですか?>


「騒がしい!今満月見てんだろうが!」


 急激に増えた脳内に響く声にキレる。


「シロナ、クロナ、済まん寝てて良いぞ、今度は聞こえないようにしとく」


<双星・白:分かった、寝ます。おやすみ、主君>


<双星・黒:分かった、寝る。おやすみ、主君>


「ああ、おやすみ」


 他の声より一段くらい幼い二つの声の主を、即座に眠らせる。

 装備の癖に寝るのはどうなんだ?とか言ってはいけない、シロナとクロナは可愛いから許されるのだ。

 それよりルージュの対応だ。


「今日はしないぞ、ルージュ」


「えぇ~何でですかぁ~」


「最近連日で喰われて俺が疲れているからだ。ユナさんも、ローズさんも、シトラスも、激し過ぎる。俺の身になってほしい、切実に」


「そういうことですか……仕方ありません、主に無理強いは出来ません」


 ルージュはそういうとこしっかりしてるから、本当に助かる。

 言動は割とヤバい時あるが、正直言って神格組の中じゃ一番真面説あるからな。

 それにしても、ユナさん達がマジでヤバい、最近は忙しくてしてなかったからか、求め方が激し過ぎるのだ。

 お蔭で俺は、休暇の筈なのに真面に休めていない。

 嫌ではないのだが、限度というものがあると思う、そもそもユナさん達、体力お化け過ぎるだろ。


「はぁ、俺も満月みたいにゆっくりしてぇ」


<夢幻:本格的にヤバそうですね、お兄さん。無機物になりたくなってきてます>


「今夜はゆっくり月を楽しみましょうね~主。あ!そういえば良いお酒をシトラスさんとローズさんから頂いてたんでした!主、一緒に飲みましょう!」


 酒かぁ、しばらく飲んでないな。

 そこまで得意ではないが、まあ偶にはいいか。


「じゃあ、お言葉に甘えるとしよう、注いでくれるか?」


「勿論です!」


 収納から、取り出したグラスに、妙に赤黒い液体が注がれる。


「これ……ローズさんから貰った方?」


「はい!」


「そう…か」


 いや、前にも言ったことがあるような気もしなくもないが、血なんだよな、見た目が絶対に血なんだよ。

 紛れもなく血に見える、その液体の液面には、綺麗な満月が紅に染まり映される。


「『血夜に咲く薔薇ローズ・ブラッティー』ってお酒ですね、分類としてはワインみたいです」


「…………」


 ローズ……猛烈に嫌な予感がする、ローズさんがくれるローズと名の付く物は、経験上絶対にアレが入っている。

 血気苺ブラッドベリー……などではなく、ローズさん自身の血だ。

 あの血液趣味ヘマトフィリアは何とかならないのだろうか……不味くはないのだが、寧ろ美味しいのが逆に怖いんだよ。

 慣れて行ってる自分が怖い。

 まあ、飲むか。


「さ、乾杯しよう、ルージュ」


「はい、乾杯です!主」


 いつの間にか自分のグラスを出して『血夜に咲く薔薇ローズ・ブラッティー』を注いでいたルージュと乾杯をする。

 ガラス同士がぶつかりあって起きる小気味の良い音が空に響く。

 その後、赤黒い液体を口に含み、喉へと流す。


「…………」


 どんな味だったかは、皆様の想像でお願いします。

 一言いうとすれば、今回に関しては次に会う時にマジで殴りにいこうかと思った。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「ん~、何故この体勢?」


「偶には…こういうのも…良いかなって」


 翌日昼、神魔界にて、エクレア様に抱きしめられています。

 神魔界にも、直接来るのはもう慣れた。

 前は夢風にしか来れなかったんだよなぁ~、直接感じるエクレア様の体温はとても気持ちが良いです。


「…ん?」


「あ…入って良いよ」


「失礼~、お!レイじゃ~ん、相変わらず可愛いね」


 エクレア様の部屋に転移して入って来たのは、サクラ様だった。

 そちらも相も変わらず、綺麗なアホ毛です。


「サクも混ぜて~」


「ちょっまっ――うぐっ」


「ん…温かい」


 痛い痛いっ!?

 先程まで、俺はエクレア様に背後から抱きしめられていた。

 それを見たサクラ様は、前から俺ごとエクレア様を抱きしめて来たわけで。

 前後からありありと感じる尊い果実の感触を楽しむ暇は無く、前後からの圧力が自身を潰そうとする苦しさしか考えることが出来ない。

 見た目以上に力あるからマジでキツイッ!?


「サクッ、ラ様ァ!一旦離れてっ、俺が死にますっ!?」


「んぁ?分かったよ~」


「ハァッ、ハアッ、ハアッ、危ない、まっじで死ぬ。まあ蘇りますけどね!」


「あっ…悲しい…」


 言えばスッとサクラ様は離してくれた、離された瞬間に即座にエクレア様からも離れる。

 あのままだと直ぐにまた抱きしめられるから、外れておかないと。

 そして悲しそうな顔をしたエクレア様に再度近付き、頭を撫でる。

 こうしないと、ずっと悲しい顔をしてエクレア様が見てくるんだ……精神的に凄く辛くなる。


「俺はサクラ様は何しにエクレア様の所へ?」


「んにゃ、ただ暇だったから来ただけ、偶には良いかなって」


「ん…ようこそ…」


「マシュマロ持ってきたけど、二人共食べる?」


「何か…青いですね」


「そうだよ!特別な果実を使ってるんだ~!」


 青い……微妙に、嫌な予感がする。

 反射的に、エクレア様の方を見る。

 エクレア様は俺が見ると、こてっと首を傾げ、その綺麗な虹彩異色オッドアイを向けてくる。

 可愛い……じゃない、俺は忘れていないぞ、あの自白クッキーをな。

 滅茶苦茶色々なこと、言わされたのを覚えているぞ。


「これ、変な物入ってませんよね?」


「うん、入って無いよ~食べてみれば分かる」


「食べたみなくても、普通分かると思うんですけど……まあいいです。エクレア様も食べます?」


「ん…美味しいね」


「はい…特に何もない……」


 食べてみたら、普通に美味しいマシュマロだった、そうただのマシュマロ、普通だ。

 今までサクラ様が持ってきた物に比べて、明らかに普通だ、普通過ぎると言ってもいい。

 だって前に持ってきたのは、食べればランダムで五感が一つ、一定時間機能不能になる煎餅、その前の物は食べたら一定時間、刺激を全て快感に変換させるグミだったり、碌な物は無かった。

 でもこのマシュマロは、何もない、本当にただのマシュマロだ。


「これ、普通に美味しいですね……何処にも特別な物が感じれませんよ?サクラ様」


「だってそれ、ただのマシュマロ……ではないんだよね~」


 やはりただのマシュマロではなかったか。


「っ……そうですかぁ、何処が変わってるんですか?……ん?」


 サクラ様に何処が可笑しいのか聞こうと声を発したところで、自身の声がいつもより高いことに気付く。

 おいおい、これはまさかっ!?

 直ぐに、下へと顔を向ける、そこには、


「こ、れはぁ……無い筈の物があって、在る筈の物が無くなってる」


「それに入ってるのは転換の藍苺コンバーティブルーってブルーベリーが入ってるのさ!」


「またブルーベリーかっ!!!そのふざけた藍苺シリーズを作っているのは、一体誰なんだよ!?」

 

 自身には無かった筈の二つの白桃を掴みながら叫ぶ。

 んっ、これは良くない、元々無かったから下着も着けていないから刺激がダイレクトに来て……慣れてない刺激は、脳にくるな。

 って待てよ?性別が転換されてるんなら、エクレア様はもしかして……


「あれ?そのままですね……どういうことだ?」


「転換の藍苺で転換されるモノはランダムでね、世界に規定されたそれぞれの生物の構造を外れない範囲内で、対象の情報や物体で対になるモノが転換される」


「つまりは?」


「例えば、右手に付いていた傷と左手に付いていた傷が転換することはあっても、右手と左手が転換されることはないってこと」


 俺の場合は男という情報と女という情報が転換されたのか。

 それに伴い、男の身体から女性の身体に転換されたってところだろう。


「ふむふむ、成程……じゃあエクレア様は何処が転換されたんですか?」


「よくエクの目を見れば分かるよ~」


「目?……おおっ!入れ替わってますね!……ほら鏡です、エクレア様」


「ん…反対に…なってる」


 エクレア様の虹彩異色は元々、右目が金色、左目が銀色なんだが、今は逆、右目が銀色に左目が金色になっている、注意しなきゃ分かんねぇ~。

 エクレア様の瞳はいつもと変わらず綺麗だ。


「これ、一定時間で効果切れますよね?」


「うん、三時間くらい」


「な、長い……」


 何でそんなに効果時間長いんだよ、今まで一時間くらいだったじゃん。

 三時間も、この女性の身体のでいるのか?嫌ではないが、こうなんというか自分の身体じゃないみたいで、不思議な感じだ。


「女性の身体とは――うひゃっ!?」


 口を開いた途端、自身の尻を鷲掴みにされた、脳に甘い快感により、少し脳が痺れる。

 なんっだこれっ!?


「さ、サクラ様、なっ何を?」


「いや、いいお尻してるなぁ~って」


「いや、違います。セクハラならいつも受けてるので理解しています。問題は感覚の方です、何か仕込みましたか?」


「なにもしてないよ、どうかした~?」


「いえ、何か痺れるというか………その、気持ち良いんですよね……あの、そう言った瞬間から揉みしだかないで貰えますか?」


 元々俺は感覚が強いというか、感度が高いというかそんな感じだが、流石に素面で触れられてこんな感覚になることは無かった。

 女性の身体になって、感覚が鋭くなったとか?


「へぇ~、じゃあ、こうっ!したらどうなるのかな~」


「あひゃっ!?しゃ、しゃくら様、や、やめっ」


 素早く俺をベットまで飛ばして押し倒し、胸を揉みしだかれる。

 うぅ~この世界の女性は強すぎるのだ。


「――って服を脱がさなっ、あっ、エクレア様までっ」


「ハァ…女の子の…レイも…可愛い…凄く…凄く…可愛い」


「ありゃ、エクが……これはヤる気になってるね~」


「あのっ、サクラ様っ、止めってっ」


「それは出来ない、女の子のレイ、サクも食べてみたいもん」


 エクレア様も参戦してきました、逃げ場が消えました。

 もうさ、休みたいって言ってるのにー!助けてくれー!

 

 その後はうん、交わりましたね。

 今日も真面に休めない俺であった。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「ふ~む、気持ちがいい」


「一人で、何してるの?レイ」


「今日は疲れたので、少し夜風に当たってたんですよ、ユナさん」


 サクラ様とエクレア様に襲われて数時間後、今日は久しぶりにそして特別に、使徒が全員集まっての食事会だ。

 場所、冥界のローズさんの城の一室、ちなベランダ付きで都市が一望できる、月もくそ綺麗、満月じゃないのが残念だ、まあ昨日だったから仕方ないね。


「最近、疲労が取れて無いんですよ、休みなのに休めて無いんですよ」


「ん?どうして?」


「…………」


 思わずユナさんを白けた目で見てしまう。

 だってさぁ~、


「ユナさん達のせいですよ」


「え?」


「連日、ユナさん達の夜の相手をしているせいで、疲労が取れないんですよ」


「そういうこと」


「そういうことです」


 何度も言うが別に嫌ではない、嫌ではないが、疲れる。

 こんな風になったのは、シトラスと初めてした後からだっけか?頑張れよ俺、断れ。

 でもあの時は仕方なかった、正直シトラスが居なければ、アリスベルは消滅してても不思議じゃなかった。

 あのクソ堕神と出会ったのもあの時だっけか、しぶといゴミだ、次こそは殺してみせる。

 …………何だ?


「何ですかその小瓶?」


「良い薬……所謂、精力剤と媚薬と呼ばれる物の複合薬。これでどんな夜もバッチリ、一滴を二百倍くらいに薄めて使ってね、じゃないと効きすぎるから。因みに私特製だよ」グッ


「違っがぁーーうっ!!!!」


 右手に小瓶を持って、親指を立てた左手を見せてくるユナさんに即座に叫ぶ。

 今ほど、ユナさんの頬をぐいぐいと引っ張りたいと思った時はない。

 そうじゃない、そうじゃないんだよ、ユナさん。

 俺が言ってるのは、最近連続で夜の相手をしてるせいで、相手をするとき疲れて心配だったり、楽しめないかもってことじゃなくてさ。

 それで疲れてるから休ませてってことなの!!


「疲労が取れないから休ませてってことです!!別に相手をする時の心配はしてません!!まあ、貰いはしますけどね」


「そういうこと……じゃあ、今日は一緒に寝ようか」


「……本当に寝るだけですよ?」


「ん、もちろん」


 嘘臭い……まあ、でも疑っても仕方がないか。

 でも、怖いんだよなぁ、もちろんの後ろに(まあ、建前だけど)って聞こえてきそうだもん。


「妾も一緒に寝たいのじゃ!!」


「え?」


「ん、いいよ」


「……え?」


 背後に現れたローズさんが、俺にとって絶望的な提案をしてきた、マジで言ってる?死ねって言ってる?ねぇ、マジで死ねって言ってる?

 え~二人同時は、終わったかも知れねぇ。


「はぁ~、じゃあ今日は一緒に寝ましょうか」


「おーい、三人とも、そこで何してるっすか~――ってレイ、死にそうな顔してるっすよ?」


「いえ、死期を悟ってるだけですので、気にしなくていいです」


「え?」


 頑張ろ、俺。

 まだ夜は始まったばかりだ、張り切るか。


「ユナさん、ローズさん戻りますよ。まだ、夜は始まったばっかりですから」


「ん、そうだね」


「そうじゃなぁ」




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「本当にただ寝ただけだったな」


 翌朝です。

 ローズさんの城の寝室で三人で寝たわけだが、特に何も無かった。

 全くありがたい、身体絶好調だ。


「そうだな、今日は何をして過ごそうか?」


 久しぶりに目覚めの良い朝、今日は良い一日になりそうだ。

 

 さあ、原初の世界は今日も美しいかね?




















ガシッ


「あ、れぇ?」


 起き上がろうとした瞬間、両腕を掴まれる。


「夜は駄目だって言ったから、昼にしようと思って」


「やることは既に決まっておるぞ」


「ハハッ……」


 皆様、如何やら、今日も自由は無いようです。

 

 ああ、世界は何故ここまで残酷なのだろうか。

 教えてくれ神様。


(知らない、そんなとこまで僕達決めて無いし)


 神様も知らないとは、本当に、驚きですね。


 本当に……だれか、助けてくれ。



 ある城にて、死の使徒は涙を流したとか?


 まあ、されど世界は平和である……俺を除いて。


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