みにくいアヒルの子*凛

あのね!

第1話*凛の母*




 一九九五年晩秋の事である。

 一七歳の加藤桜は、旭ヶ丘台高校二年生。


 桜の唯一の楽しみは、最近火が付き始めた「アムラーファッション」で街中を闊歩する事。

 偏差値最底辺のFランク私立高校に進学したものの勉強は、チンプンカンプン。

 おまけに男子からは散々な言われよう。


 その憂さ晴らしに今日も意気揚々と「アムラーファッション」で街中を闊歩していると、どこからか、同じ高校のいつも桜を散々笑いものにする、いけ好かない奴らが現れた。


「ヤ~イバカ桜、こんなFランク高校なのに、その中でも類を見ないバカってどういう事?桜のバカ!」


「『死亡』も読めなくて『シ』で詰まったらしいな?ワッハッハッハ~!バカ!それどころか、顔と頭の読み方を間違えて読むらしいバカバカ!」


「中学生で習う簡単な因数分解も出来ないらしい?それ所か割り算も出来ないって酷すぎる!」


「バカ!お前のせいで不名誉な事に、益々わが校が他校と開きが出来るわ!」


「バカ!」


「へ~んだ!バカバカ!」


 その時に余りにも頭に来た桜は、泣きながら近くに有ったガレキを拾い投げつけた。


「ワァ~~ンワァ~~ンナッ何を~!ブタどもめ————ッ!シッ死ね—————ッ!」


「ナッ生意気な!」


 だが、男子生徒の顔に”ボカ~ン”と小石が命中。


「クッソ———————ッ!」


 その時この学校きってのギャル「木村美緒」別名アムラーを真似て『キムラ―』アネさんが、「アムラーファッション」に身を包み現れた。


「何だと—————ッ!お前ら人の事言えた義理か?バカなクセして!」


「キャッ‼キムラ―あねさんだ!コワッ!逃げろ——————ッ!」


 こうしてこの「木村美緒」という女番長の手下として高校生活を送る事になった桜。

 それでは何故、この悪ガキ達はこうも執拗に桜に悪態を付きながら、付け回しているのかと言うと、自分たちは気付いていないだろうが、好きの裏返しでもあるのだ。


 要は振り向いて欲しいのに相手にしてくれない。

 その裏返しで悪態を付いていたのだ。



 おっと~!ここで時代背景を御紹介しておかないと—————

 時は 一九九六年丁度「アムラー・ブーム」がピ-クを迎えていたその頃、茶髪のロングヘアー・ミニスカート・細眉・厚底ブーツなどといった安室奈美恵のファッションスタイルが大流行。


「アムラー・ブーム」いわゆる"アムラー"が大量発生して、一代ブ-ムを巻き起こし、社会現象となった。


 そんな時代に東京都葛飾区で、祖父母の代からラ-メン店を経営する両親の元に誕生した桜は、現在二歳下の弟と四人家族。

 家は三階建てで一階がラ-メン店、二階と三階が居住スぺ-スになっている。




 ◇◆◇◆◇◆

 それでは何故こんなにも桜は、勉強が出来ないのか?

 実は両親が災いしている。


 桜の両親は昔ながらのラーメン店を親から引き継いで、朝早くから夜遅くまで一階のお店に缶詰め状態。


 元々祖父母が口が酸っぱくなるほど言っていたらしい。


「ラーメン屋に学歴は必要ない。高校に行く暇が有ったら店を手伝って仕事を覚えろ!」

 父親も祖父にそう叩き込まれて育ったらしい。


 こうして桜は、周りは塾や家庭教師を付けて偏差値競争に明け暮れる中、うっかり中卒になる所だったのだが、担任の先生からの厳しいお言葉に両親も考え直したらしい。


「お父様お母様この時代に中卒では就職口がかなり狭まります。せめて高校だけでも」

 こうして中学三年生の二学期から、急遽高校に通わせようと考え出した両親なのだが、時すでに遅しで脳内は完全に空っぽモード。

 寝たきり老人に走れと言っているようなもの。


 ◇◆◇◆◇◆

 こうして中学三年生の二学期から猛特訓の日々が続いたが、どの高校も撃沈。

 たまたま運良く、私立高校の校長先生がお店の常連だった事も有り、裏口入学で入学できた高校が、偏差値最底辺のFランク私立旭ヶ丘台高校だった。



 元々勉強嫌いな桜は、親の言葉をこれ幸いに店の手伝いに専念していた。


「ラーメン屋に学歴は必要ない。高校に行く暇が有ったら店を手伝って仕事を覚えろ!」


 それでも…桜は何故一言も逆らわなかったのか?

 周りの友達は塾や家庭教師を付けて偏差値競争に明け暮れている中、自分だけあくせく店の手伝いをさせられ、不満が爆発する事は無かったのか?


 実は店の手伝いは好きではなかったが、美味しい事がいくつもあったのだ。

 それはまず第一に、お店のお客様達。


「桜ちゃん偉いね~!ほ~らこれ取っときな!」


 お店のアイドル的存在である桜は、お客さん達からは『おこずかい』を、また高齢のお爺ちゃんお祖母ちゃん達には『美味しいお菓子やお土産』が貰えるので、更には両親からも、お手伝いをすると破格の小遣いをもらっていたのだ。


 学校では、勉強が出来ないので皆からは、バカ呼ばわりされている身の上だが、お店ではお客様のアイドルでいられ更には貢物の嵐。


 それでも…先生から「お父様お母様この時代に中卒では就職口が、かなり狭まります。せめて高校だけでも」

 そのせいで、生活は一転、塾通いと家庭教師を付けての猛勉強と、勉強に明け暮れる毎日。


 こんな環境化、何とか裏口入学で偏差値最底辺の高校に滑り込んだ。

  

 つづく





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