したかったのは異世界転生であって転移じゃない1
さよ吉(詩森さよ)
第1話 聖女召喚?
あっさりとした表現ですが、虐待の話が出てきます。
ご注意ください
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目が覚めると私は見知らぬ森の中にいた。
気持ちが悪い。
まるで乗り物酔いでもしたみたいに、吐き気とめまいがする。
とりあえず近くの木にもたれるようにして体を起こした。
しばらくして落ち着いたので立ち上がると、近くに制服姿の女の子が倒れていた。
手入れのされたきれいなストレートロングの黒髪が印象的な美少女だ。
設備も素晴らしいがものすごく授業料が高いと評判の、私立の名門女子高の制服を着ている。
私がどんなに望んでも行けるはずもないところだ。
声をかけようと思ったが、何人かの男の声と草を踏む音がした。
私はとっさに隠れた。
こんなところに女子が2人でいるなんて明らかにおかしい。
私は直前まで児童保護施設にいたのだから。
考えられるのは誘拐だ。
私の名前は森沢
13歳の中学生だ。
母が独身時代遊んでいた外国人との間にできた子どもである。
別にいた日本人の彼氏に子どもが出来たと嘘をついて結婚したのに、生まれた私は茶髪に琥珀色の目だった。
それでも5歳ぐらいまではごまかせてたんだって。
親戚に外国人がいるって嘘をついてね。
でも顔立ちも肌の色も明らかに違い過ぎるから、DNA鑑定されて一発でバレた。
そして母は夫に捨てられた。
私は祖母に育てられた。
その間に母は別の男と結婚し、私には無関心だった。
私が邪魔だったのだ。
そんな私を祖母がかわいがるはずもなく、いつもベリーショートにして男の子のような格好をさせていた。
母を失敗作と呼び、私が彼女のように男遊びに走らないようにだ。
友達なんかできなかった。
きれいな格好でもないし、スマホを持たせてもらえなかったからだ。
たまに仲良くなりかけることもあるけど、家の事情を知られると周りに反対されるのかみんな離れていくのだ。
表立った苛めにも遭わなかったが、ほとんどいないものとして扱われた。
学校では班を出席番号で決めてくれるのであぶれることはなかったけれど、その中でもいつも一人だった。
そんな私の支えになったのが、図書室の本だった。
生徒ならばいつでも借りれるし、時間中ならずっとそこで読んでいられる。
特にラノベの異世界転生物が好きだった。
大抵は貴族の令嬢に転生していて、死亡フラグがあるものの家族がいて、生活に困っていなかった。
しかもきれいな格好をして、素敵な婚約者がいるのだ。
貧乏令嬢のこともあるけど、それでも屋敷に住んでいてちゃんと女物の服を着ていた。
今よりずっといい。
私は夢中になって読んだ。
もし異世界転生したらと想像した。
そのために内政できるようにいろんな本も読んだし、メイドになることも考えて家事だって、家庭菜園だって率先して手伝った。
あまりにも図書室にいるから、先生も図書委員だと思うみたいで時々仕事をさせられた。
全然かまわない。
祖母に帰りが遅いのは、図書委員の仕事をしていたと言えるから。
でも先月祖母が亡くなって生活が一変した。
未成年だから、母に引き取られることになったのだ。
私は嫌だった。
祖母の家さえあれば、1人で暮らしていける。
でもお金がいるからと売られてしまったのだ。
そうして案の定のことが起こった。
水商売の母がいない間に、義父に襲われたのだ。
私は男の子みたいな格好だが、ハーフでそれなりに見られる顔なのだ。
名前は忘れたけど、人気のモデルに似ているらしい。
なんとか逃げて近くのコンビニに助けを求めた。
警察に連れていかれると母や義父は家出だと言ったが、私の言葉が認められた。
私がお金を持たず、パジャマとスリッパで逃げたからだ。
服や靴をはかない家出なんかない。
ちょっとした誤解なんですと義父は説明していたが、ちょうど似たような事件が世間を騒がせていたので審議のため、私は児童保護施設に預けられていた。
そしてこの状況だ。
私は名門女子高生と違って、黒い綿パンにトレーナーを着ていた。
施設の人が貸してくれたものだ。
男女兼用できるもので、色気もそっけもない。
靴をはいていたのはよかった。
施設の1階は土足だったのだ。
ここまで自分の状況を確認していると、見慣れない金属鎧姿の男たちが例の彼女を見つけた。
「本当に黒髪の女性がいらしたぞ。
彼女こそ聖女様だ」
聖女?
まさか聖女召喚?
これは誘拐ではなく、異世界転移だって言うの?
でもそれならば説明がつく。
私は間違いなく施設の玄関にいて、自分の部屋に行くために靴を脱ごうとした瞬間だったのだ。
あの状況で誘拐されたとしても、車や部屋の中ならともかく森の中なんておかしい。
たとえ森でも見張りがいるか、縛られるくらいはしているはずだ。
でも私もあの子も倒れていただけだった。
そしてあのコスプレのような金属鎧……。
落ち着け、落ち着くんだ。
どうしよう、私も出て行った方がいいんだろうか?
彼らの言葉だと、彼女は聖女様として大事にされそうだ。
でも髪の毛が黒と言っていた。
私の髪はかなり茶色いのだ。
黒とはとても言えない。
しかも冴えない身なりで男みたいだ。
嘘をついていると思われるかもしれない。
鎧の腰には剣もついている。
あれで切られたら死んでしまう。
「もうじき暗くなる。早く戻るぞ」
彼らの一人が、聖女とされた彼女をお姫様抱っこの形で抱き上げた。
これ以上のチャンスはないかもしれないけど、結局私は彼らが去るまでじっとしていることにした。
死の危険もあったけど、一番の理由はこの召喚の目的がわからなかったからだ。
聖女召喚の一番の理由は、なにかを浄化するか、魔王の討伐だろう。
ただ花嫁になるためってのもあるけど、ラノベでも少数だった。
しかも彼らは私を探さなかった。
つまり2人いるとは思わなかったからだ。
複数来ていると知らない、つまり複数必要ないのだ。
たとえ花嫁候補だとしても、2人行けばあぶれるかもしれない。
彼女はきっと愛されて育っただろう。
こんな男みたいな私よりも、男性の心を掴むに違いない。
そうなったら私はどんな目に遭うかわからない。
そう判断したのだ。
彼らが去って最初に私がしたことは何か武器になりそうな石を拾って木に登ることだった。
木の上も完全に安全だとは言えないが、オオカミやクマが出るかもしれない。
下にいたら直接ガブリでおしまいだ。
ご飯やお風呂を済ませていたのは幸いだった。
とにかく朝までしのいで、明るくなってから行動した方がいい。
夜の森は本当に真っ暗だった。
怖かったけれど、どうしようもない。
しばらくは何もなくウトウトしていたが、気が付くと下の方が騒がしい。
見ると眼だけが光る獣たちが私を狙って集まっていた。
手にある石なんて投げたらすぐになくなる。
朝になって明るくなればきっと諦めるだろう。
そう思ってジッと堪えた。
だが次の瞬間、大きな獣が私のいる木に体当たりしてきた。
揺らして私を落とそうというのだ。
必死でしがみつくがものすごく揺れる。
このままでは木が折れてしまうかもしれない。
すると自分の中に何かがムクっと起き上がるようなそんな感覚があった。
ナニコレ?
ああそうか、これが魔力だ。
私にはアレを倒すことができる。
頭の中に言うべき呪文が現れる。
「
その瞬間、木の根元にいた獣たちが全部青い
弱かったのか、すぐに死んだ。
これでわかった。
私も聖女だったのだ。
その後、顔に擦り傷ができていたので、治癒魔法を使おうとしたができなかった。
防御魔法も使えなかった。
つまり戦闘特化だ。
私が思ったのはあの金属鎧たちについていかなくてよかったということだ。
きっともう一人の彼女は治癒や防御ができるんだろう。
そして私だけが戦わされる。
ちやほやされて着飾るような美味しいことは、全部彼女のものになるのだ。
その未来がありありと浮かんできた。
そんなの絶対にごめんだ。
知りもしないやつらのために、戦う気なんてこれっぽっちもない。
向こうだって私のことを探しもしていなかった。
だからこのまま逃げることにした。
私には戦う力があるのだ。
明るくなってすぐ私は彼らが去ったのと逆の方角である、森の中を駆け抜けた。
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予約投稿の時間が間違っていました。
申しわけございません。
5/14 追記
本日19時より、1時間おきに全5話(あとがきなし)で、本作品の続きを書かせていただきました。
『したかったのは異世界転生であって転移じゃない2』
https://kakuyomu.jp/works/16817139554506448912
そのためこちらのタイトルを『したかったのは異世界転生であって転移じゃない1』に変更いたしました。
内容の変更はございません。
どうぞよろしくお願いいたします。
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