第102話 判決

「確かに証拠を並べると彼らが事件に関わっていた可能性はあるように見えます。ですが、私は直接彼らが事件を起こしているところを見たわけではありません。本人の口から聞いたわけでもありません。それで事件への関与を決めつけるなんてできませんわ」


「なるほど。全くその通りだな。では、次の質問だ。君が提出した指輪だが、本物だと思うか?」


「はい。本物だと思います。貴族家の家督を継ぐものが持つ指輪は材質や見た目が酷似しております。私の父が持つ指輪と比べ解析をしましたので間違いないと思っています。ですが、ラピスラズリ侯爵がこれをつけて事件を起こした証拠にはなりません」


「ほう。なぜそう思う?」


 続く尋問。国王は興味深そうに身を少し乗り出し、オリビアに問いかけた。自分の暗殺事件を企てた者の裁判だというのにこの余裕。彼は本当にこの国の王なのだと、その器の大きさに恐れ入る。


「犯人がこの指輪を持っていたとして、それが盗品であることも考えられます。ラピスラズリ侯爵ほどのお方が領地に入れば、私たちの耳にも入ります。ですが事件の前後にそういった話も聞いていません」


「そうか。ならばマルズワルトの件はどうだ? ハイランドシープのことや演習場での集会も見たのだろう?」


「はい。確かに私は集会でマルズワルト人を名乗る者の言葉を聞きました。ですが、彼らが実際にマルズワルトの人間かは確認していません。ハイランドシープのこともそうです。隣国から輸入していることは間違い無ないでしょう。しかしながら、それを傭兵たちが着るとは知らずに売ったかもしれないですし、そもそもラピスラズリ侯爵のブティックで用意したものではないかもしれません。輸入から販売までの間には、ペリドット伯爵も関わっていますから。このような状況で私は、マルズワルト共和国やラピスラズリ侯爵を犯人扱いすることはできません」


「そうだな。これで最後の質問だ。証人オリビア・クリスタルよ、君は被告人ジョルジュ・ペリドットの証言は全て嘘であると言っているのかね?」


 国王に問われ、オリビアは口の端を上げた。彼もやはり自分と同じように極刑を避けようとしている。ちらりと横目で被告人控え席を見ると、ペリドットが今にも泣きそうな顔でこちらを見ていた。オリビアは背筋を伸ばしきっぱりと言い切った。


「いいえ。私には断言できかねます」


「理由を聞かせてくれ」


「はい。私は先ほど、ラピスラズリ侯爵やマルズワルト共和国を犯人扱いできないと言いました。それは決定的な証拠がなかったからです。ペリドット伯爵の発言についても同じです。彼が本当のことを言っているとは証明できませんが、私には彼が嘘を言っているという証明もできません。ですからペリドット伯爵の発言が嘘か本当かはわからないのです」


 オリビアは裁判席を見上げ「以上でございます」と言って証言を終えた。心なしか国王の顔が満足げに見える。


 そして三十分の休廷を挟み、ついにペリドット夫妻への判決が言い渡される。


>>続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る