第100話 証人、オリビア・クリスタル

 ペリドットの一言で、オリビアは法廷中の視線を受け止めるはめになった。これまでの事件のことを考えると、確かに彼が単独で企てられるようなことではないとは思っていた。証明できないもののラピスラズリからの指示というのは間違いないだろうとも。ここでペリドットの極刑が確定してしまうと、国家反逆を企てる本当の人物は逃げ仰せてしまう。できる限り阻止したいところだ。


「どういうことか説明してください、伯爵」


「は、はい。彼女の誘拐についてですが、演習場方面から隣の領地へ続く道を警戒していた者が馬車を襲撃し私に引き渡したのです。そして彼女は何が目的かと質問した私に言いました。『マルズワルトやラピスラズリ様と組んで、国王暗殺を企てているのだろう』と。きっと演習場や領地で何か証拠を掴んだのです!」


 騎士団員の尋問に答え、ペリドットは祈るように両手の指を組みオリビアに向かって「頼む!」と言った。証言して事実を明らかにしてほしいということだろう。荷が重すぎる。だがここで成人したての小娘に祈らなければいけないほど、ジョルジュ・ペリドットという男は無計画で浅はかなのだ。真犯人とは思えない。


 すると一部始終を静かに見守っていた国王が、顎をひと撫でしてから口を開いた。


「では、再び証人尋問をしよう。よいかな、オリビア・クリスタル伯爵家令嬢?」


「かしこまりました。国王陛下」


 オリビアは裁判席を見上げ返事をした。ラピスラズリの有罪を証明することは難しい。せめてペリドットの極刑を回避し、審理を延長したかった。


「よかろう。被告人は一度下がりなさい。これより証人オリビア・クリスタルの再尋問を開始する。証人は証言席に立ちなさい」


「はい!」


 国王の呼びかけに返事をして立ちあがろうとすると、右手がそっと握られた。隣に座るリアムだった。心配そうに視線を向けてくる彼に、オリビアは笑顔を向けささやいた。


「行ってきます、リアム様」


 右手に温かな勇気を貰い、オリビアは再び証言席に立った。


「オリビア・クリスタル伯爵家令嬢。被告人の証言によるとあなたは、クリストフ・ラピスラズリ侯爵とマルズワルト共和国の人間が国家反逆に関わってると考えていた。間違いないですか?」


「いいえ。少し違います。私は、独自に集めた情報から最悪の答えを出しペリドット伯爵に話しました。当時私は捕えられ、従者たちの命がかかっていましたので、時間稼ぎのつもりでした。ですから話した内容に証拠があるわけではございません。けれど、そう考えるに至った理由はあります」


 騎士団員からの問いかけに歯切れの良い口調で答えるオリビア。貴族たちが注目している中、曖昧な口調で語ると言葉に信憑性がなくなってしまう。国の大物を告発したペリドットを信じてはいないであろう彼らに、もしかしたらと思わせることが目標だ。


「なるほど。ではその理由をお伺いできますか?」


「はい。その前に、いくつか提出したいものがあります。よろしいでしょうか?」


「わかりました。受け取ります」


 ついにきたか。オリビアはこの質問を待っていた。すかさず騎士団員に書類や物品を渡す。この裁判に投じる大きな一石だ。


「私がこれまでに調べたことや、偶然知り得たことに関する資料です。それが誘拐された時の発言に至った理由ですわ」


「説明をお願いいたします」


「はい。まず、証人席にいるリアム・アレキサンドライト様は私の兄の同級生で友人です。彼と現在私の従者をしている者は騎士団に所属し、春にペリドット領の演習場からクリスタル家に向かう際、何者かの襲撃を受けました。彼らは我が家で治療を受け療養しました。私はそのとき、彼らの武器や衣類などから襲撃者の手がかりを得ました。衣類の繊維です。解析魔法で確認した内容を資料としてお渡ししております」


「確認します。これは……」


 言葉を失う騎士団員に、傍聴席が注目している。裁判席も次の言葉を待っていたようで、国王が彼に声をかけた。


「資料を読み上げてくれないか?」


「はい! 失礼いたしました。『剣先に付着していた生地片は、マルズワルト製である。生地はハイランドシープ、染料はマルズワルト国内のみで流通する黒色染料のため、そう結論づける』と記載しております。さらに、生地片の現物と解析者の署名もあります」


「ほう。証人、話を続けなさい」


 オリビアは「はい」と頷き、続きを話し始める。


「生地を特定したあと、王都でハイランドシープの取扱店を探し見つけました。そしてその店で貰った生地サンプルと、騎士団襲撃事件で入手した生地片の素材と染料が一致したのです。こちらも同様にサンプルの現物と魔法解析の結果を用意しました」


「確認しました。取扱店のことも説明にあります。王都の、ラピスラズリ侯爵が経営するブティックです」


 少し、こちらに傾いた。ざわつく傍聴席を背中に、オリビアは確かな手応えを感じ始めていた。


>>続く


本編100話!

長くてすみません💦

引き続きよろしくお願いします☺️

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