第97話 情状証人
「証人は事件当日に起きたことを話すように」
「はい」
オリビアは呼吸を整え、事件当日の話を始めた。
「事件の数日前、私はペリドット領が急に増税することを知りました。従者の知人が殺害されるという残念な事件もあり、学院は休んでクリスタル領で過ごすことになっていたのです。そこで気晴らしと領地経営の影響にならないか確認がしたくて、私は従者三名を連れペリドット領に入りました。そして食事などを済ませ広場で増税の知らせを確認し、帰ることにしました。従者の一人が元騎士団員で、春に被害を受けた演習場の復旧具合を気にしておりましたので、寄り道をしました。そこで……」
この先は、言ってもいいものか。宣誓をしたのに心が揺らぎ、つい言い淀んでしまう。すると裁判官席から国王が話の続きを促した。
「続けて」
オリビアは「はい」と頷き続きを話し始める。ありのまま見聞きしたの事実のみ、淡々と。そうしないとここから先の話は自分の首まで絞めかねない。
「まず、演習場は完全に復旧というか、何の被害も被った気配がありませんでした。その地に大勢の人間が集まり、打倒王都、打倒国王を掲げていました。急いで誰かに知らせなければと私は従者たちと馬車でクリスタル領に戻る途中、何者かの襲撃を受け、車内で頭を打ち意識を失いました」
背後から傍聴人たちが息を呑む気配を感じる。どうやら彼らが想像していたより、ことが大きかったのだろう。息を吸い、話を締めくくった。
「気がつくと牢屋のような場所で手足を拘束されており、ペリドット伯爵夫妻の尋問を受けました。その後は馬車襲撃の際に助かった従者と、彼に呼ばれたリアム・アレキサンドライト様に救出され、最後は騎士団の皆様に助けていただきました。私の身に起きたことは以上でございます」
話し終えたオリビアは副裁判官の指示で控え席に戻った。次に第二の証人としてリアムが証言席で救助から騎士団の応援が来て時間が終わるまでの話をする。彼も証人控え席へ戻り、裁判官が被告人を再び証言席に立たせた。
「被告人は、証人の証言に対し意義はあるか? どうだ、ジョルジュ・ペリドット」
「いいえ、ありません……」
「妻のエヴァはどうだ?」
「ありません」
主任裁判官である国王の問いかけに、ペリドット夫妻は首を横に振った。平然と表情を変えない妻に対し、夫のジョルジュは顔から血の気が引いている。彼には極刑へのカウントダウンが聞こえているのだろう。
「通常の裁判はこのまま休廷し開廷後に判決だ。だが極刑を求刑され被告人は刑の軽減を求めている。引き続き審理を続けよう」
国王が話し終えると、原告控え席に座っていた騎士団員が立ち上がった。彼はその場で書類を片手に裁判官に向かい口を開く。
「裁判官の皆様、被告人ジョルジュ・ペリドットから情状証人としてクリストフ・ラピスラズリ侯爵を指名したいと要望がありました。原告は傍聴席におります、クリストフ・ラピスラズリ侯爵の尋問を求めます!」
「よろしい。ラピスラズリ侯爵は証言席へ立つように」
冷静に返事をした国王とは反対に、副裁判官たちは目を丸くしている。尋問を要求した騎士団員は冷や汗をかいていた。その人物がジュエリトス王国内でどれほどの地位にいるのか、オリビアにも十分に理解できる。
傍聴席が再びざわつく中、一人その場に立った男は一礼して顔を上げ静かに笑んだ。瞬間、大法廷は静寂に包まれる。
「承知いたしました。国王陛下」
艶のある低い声だけが、法廷内に響いた。
>>続く
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