終章 婚約者はマッチョ騎士!

第93話 レオンの裁判

 週が明けて月曜日。オリビアは王都にある貴族院の裁判所に出廷していた。証人控え席から法廷を眺める。裁判官もずいぶんと表情が固く、困惑しているように見えた。無理もない。こんな異様な法廷、この場にいる全員が初めてのことだろう。


「これより、ジュエリトス王国貴族学院クラブ棟火災崩落事故についての審理を始める。被告人は宣誓を!」


「はい。私、レオン・ダイヤモンド=ジュエリトスは嘘偽りない事実のみ証言することを、ジュエリトス王国国法と創造神クロノスに誓います」


 ジュエリトスの裁判は主任一名と副官二名、合計三名の裁判官により進行、結審する。罪が重ければより位の高い裁判官が担当する。そしてこの国で最高位の裁判官は国王陛下である。現国王、ジョンソン・ダイヤモンド=ジュエリトスが即位後は一度もなかったはず。しかし、彼は今日、この法廷で主任裁判官として被告人と向かい合っている。その被告人が実の息子なのだからオリビア含め周りの人間はとにかく緊張していた。


 被告人レオンが宣誓を終え、いよいよ裁判が始まった。


「ひ、被告人はジュエリトス王国貴族学院クラブ棟にて、放課後のクラブ活動時、所属する古代魔術研究クラブのクラブ室で、炎の幻覚が出る魔道具を用意したところ手違いにより実際に炎が発生。そのことに気づかないまま道具を室外廊下に放置し、フロア全体を引火させた。さらには階下にある実験クラブの道具が燃え爆発し、クラブ棟を崩壊させ、避難が間に合わなかった動物クラブの動物五匹の命を奪い、生徒達を命の危険に晒し、精神的な被害を与えたものとする。罪状は火災致傷と動物致死とする」


 副裁判官がたどたどしく罪状を読み上げているのを、レオンが裁判官席を見上げていた。オリビアは自分が証言するときのことを想像しながら、手のひらがしっとりと汗ばんでいくのを感じた。副官の男性が読み終えると、今度は主任裁判官が被告人に問う。


「被告人、そなたには黙秘権がある。答えたくなければ行使して構わない。その上で問う。罪状の内容に間違いはないか?」


 真昼の青空と黄昏時の夕空。水色と紫、親子の相反する空色の瞳が交わっていた。問いかける王に、彼の息子は静かに頷き返事をする。


「はい。間違いありません」


「では、被告人は下がりなさい。次に証人、前へ!」


 ついに出番が来た。オリビアは汗ばんだ手を一度ぎゅっと握りしめ「はい」と返事して、法廷中央の証言席に向かった。


「証人は宣誓を」


「はい」


 先ほどのレオンと同様、国法と神殿がまつっている創造神クロノスに誓いを立てる。正面上方の裁判官席の中心で、国王が頷く。


「では証人は事件当日に起きたことを話すように」


「はい。事件当日の放課後、私はレオン殿下とともにクラブ室で研究活動をしておりました。一度クラブ室の外に出ようとドアノブに触ると、とても熱く、私は火傷を負いました。それを見たレオン殿下がドアを蹴破ってくだりさり外に出ようとすると、廊下が燃えておりました。その後は殿下と室内で救助を待ち、リアム・アレキサンドライト様に助けていただきました」


 オリビアは話しながらクラブ棟の件もなかなか危険な出来事だったはずなのに、あまりその実感がなかった。きっと先週の事件が大きすぎたのだろう。息継ぎをして話を続ける。


「その後、避難の最中に大きな爆発音がしてクラブ棟が崩壊していきました。私が見たもの、体験したことは以上でございます」


「証人は控え席で待機を」


「はい」


「では、これから十分間休廷します」


 判決前の休廷。オリビアは証人控え席から動かず、ただ時間が過ぎるのを待った。特に傍聴人席は絶対に見てはならない。レオンの親族一同、つまり王族達が並んで座っているからだ。王子の罪の証人だなんて、万が一顔でも覚えられたらやっかいだ。俯いてひたすら十分経過するのを待ち望んだ。


「開廷します! 被告人は前へ」


「はい」


 副裁判官に呼ばれ、レオンが証言台の前に立つ。彼はまっすぐ主任裁判官である自分の父を見上げ、判決が言い渡されるのを待っていた。


>>続く


終章スタートです!

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