第53話 〈幕間〉夏希 3
レベルが上がった。
ステータス画面を確認し、にんまりと笑う。
レベル10で挑戦したダンジョン。
1週間ほど泊まりがけで、ひたすら魔獣や魔物を狩りまくったおかげで、今やレベル48だ。
兄のハルや従兄のアキも50前後までレベルが上がったようで、ひとまずの成果に満足そうにしている。
勇者特権でレベルが上がりやすい特性には感謝しかない。
「どうせならキリ良く50までレベル上げしておきたかったんだけどなー」
「無理を言うな。そろそろ物資も尽きる。一旦は引き上げて、また潜れば良い」
アキがちらりと付き添いの騎士や神官たちを一瞥する。
【アイテムボックス】持ちの私たちなら、もうしばらくは物資にも困らないだろうが、彼らは容量制限付きのマジックバッグしか持ち込めていないのだ。
当初の予定の一週間分+αの食料と野営道具でバッグはいっぱいらしい。
(トーマ兄さんから仕入れた食料がまだ結構あるけど、あんまり分けたくないしね)
百円ショップの缶詰やカップ麺なら多少融通しても良いとは思うが、コンビニ商品は譲れない。
ホットスナックにおにぎり、お弁当、サンドイッチ。特にパティシエコラボのスイーツは絶対に誰にも渡したくはなかった。
セーフティエリアを見付けての、休憩時間。ちょうどおやつタイムだった。
【アイテムボックス】から、とっておきのスイーツを取り出した。
「ふふっ。今日のスイーツはベルギー王家御用達のショコラブランドがコンビニコラボした、魅惑のザッハトルテ!」
ミニサイズのケーキだが、お値段はかなりする。とは言え、デパ地下で買うよりはかなりお得に楽しめるので嬉しい限りだ。
羨ましそうにこちらを眺めてくるハルやアキの目の前で、一口ずつ大事に味わって食べた。
それに釣られたのか、兄のハルが【アイテムボックス】から焼肉弁当を取り出す。
生活魔法の
カルビの匂いが魅惑的だ。
アキが眉を寄せている。うん、焼肉の匂いはやばいよね。食欲を掻き立てられる。
結局、アキも【アイテムボックス】からコンビニ弁当を取り出した。選んだのはカツカレー。匂いテロに対抗したのか。
付き添ってくれていた騎士たちが切なそうに顔を歪めている。
「うん、美味しかったわ、ザッハトルテ。満足」
「焼肉弁当も最高だな! 次は牛タン弁当が食いたい」
「弁当ひとつじゃ足りないだろ、ハル」
「〆のカップ麺食うから平気!」
相変わらず、ハルの食欲は凄い。
すらりとして一見スレンダーに見えるアキも実は兄に負けず劣らず食べる方だが、マナーが完璧で綺麗に食べるからか、あまり大食いには見えないらしい。
「はー。それにしてもコンビニ弁当はやっぱり美味いよなー。もう、こっちの世界の料理が食えなくなりそう」
「そうね。日本産の調味料やソースを使った料理ならまだしも、異世界レシピのご飯はキツいかも……」
「肉に限っては、魔獣肉の圧勝だがな」
「ああ、そうだった。魔獣肉のステーキやカツは最高に美味しかったわね」
大森林近くで採取された果実も美味しかったので、素材は良いはずなのに。
調味料さえあれば、城での食事もどうにか美味しく食べられるが。
「トーマ兄から聞き出したレシピ、城で買って貰ってるんだろ? アキ」
「ああ。自分達でも食べたいからな。菓子類のレシピはもっと高値を付けても良さそうだ」
「アキは良い商人になりそうね。賢者よりも向いてるんじゃない?」
「自分でもそう思う」
レベルと共にアキは視力が上がった。
もうメガネは使っていないのに、いつもの癖で眉間に指を添えてしまい、戸惑っている姿は、ちょっと可愛いかもしれないが。
「買って貰うと言えば、他にも売り付けているんでしょう?」
「ああ。とりあえずは紙の作り方、綿花の栽培法を売り付けたぞ。大金貨になった」
「大金貨って金貨百枚分だっけ? 金貨が十万円だから、……いっせんまんえんっ⁉︎」
「成功したら、成功報酬も貰えるぞ。そっちは大金貨二枚だ」
「合計三千万円かー…。いいな、もっと売ろう!」
「無理を言うなよ。電子書籍の図鑑レベルの内容だぞ。こんなことなら、世界史や文化史の本を買っとくんだった」
「トーマ兄さんの召喚魔法で買えないのかな?」
珍しく落ち込んだ様子のアキに、何の気なしに呟くと、すごい勢いで振り向かれた。
「本は買えないだろ。コンビニじゃ雑誌や漫画くらいしか置いてないし」
「店頭には新刊や売れ筋な本しか置いていなかったけど、コンビニのネットショップがあるじゃない? 私、たまに特典目当てでコンビニのオンラインショップで本を買ってるんだ。結構、色んな本を扱っていたから、あるんじゃないかな」
「知らなかった……」
そういえば、アキは基本は図書館利用か書店で直接見て買うタイプだったか。
「トーマ兄に確認してもらったら? 私も欲しい本があるから、後で聞いてみよっと」
「え! じゃあ俺も欲しい漫画、聞いてみる! 週刊の雑誌は読み終わった後送ってくれてるけど、コミックスの新刊がそろそろ発行されてるはずだし」
「ハル、お前ちゃんと小遣いあるんだろうな? コンビニで爆買いしていたようだが」
「う……。やばい、かも?」
「……私もちょっと心許ないわね。ダンジョンのドロップ品を売り払ってから、リクエストすることにしようかな」
コンビニスイーツやアイスクリームをついつい大量に購入してしまったのだ。
食べたかったので後悔はしていないが。
金貨一枚、十万円の爆買いは楽しかった。
が、私たち新米勇者のお給料は一日銀貨二枚、二万円。五日分を一気に使い切ってしまったのは、ちょっとだけ反省している。
「……私、百均コスメを王妃さまや姫さま達に売り付けるわ。化粧水や乳液、ハンドクリームはもう売ったから、リップやファンデ、マニキュアあたり。きっと売れる」
トーマ兄から仕入れたので元手は百円だが、銀貨数枚で買い取ってもらえるので、かなりの儲けが出るのだ。女性の美に対する執念は、どこの世界も変わらない。
「なら、俺も調味料と紅茶を売りつけるか。紙と鉛筆もまだ在庫があるから、金貨にはなりそうだな」
「マジか。えっと、じゃあ俺はカップ麺とポテチ……?」
アキはともかく、ハルはもう少し考えて仕入れるべきだと思う。
今のところ、私は化粧品関連とアクセサリーや布の販売でそれなりに稼げている。百均商品の端切れでも、この世界では希少な布地なのだ。
蜂蜜やジャム、飴などの甘味はかなりの量を売り付けてしまったので、さすがにもう売れない。
(トーマ兄の
魔族だけでなく、欲にまみれた人族まで敵に回したくはなかったので、そこは三人とも気を付けている。
飽くまでも、最初から【アイテムボックス】に収納していた物を売り払っていると思わせなくてはいけないのだ。
「ダンジョンのドロップ品がかなりあったから、換金に期待するぞ、俺は!」
「良さそうな武器はドロップしなかったがな」
「トーマ兄さんなら、やっぱり弓かなぁ? 探検も似合いそうだけど」
ドロップした武器をトーマ兄さんに送る予定だったが、残念だ。今回は浅い階層だったので、次回に期待しようと思う。
「城に戻って二日は休息に充てるとして、またすぐにダンジョンに挑戦するぞ」
真剣な表情でアキが宣言するのに、私たちは頷いた。早くレベルを上げて力をつけなければ。
大森林の奥に潜伏するトーマ兄さんと合流するため、大切なものを守り切れるほどの、力を。
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