第34話 ミートボールスパゲッティ


 鹿ディア肉の綺麗な赤身を大量に挽肉にしたため、ハンバーグやミートボールを大量に作り置きした。ハンバーグは成形だけしておき、ミートボールは素揚げにする。


「100円ショップに『ハンバーグの素』が売っていて良かった……」


 作れないことはないが、大量のハンバーグのタネを用意するのは面倒くさい。

 その点、この魔法の粉末を挽肉に混ぜるだけで、玉ねぎやつなぎを用意しなくて済むのだ。

 調味料もしっかり入っているため、あとは成形して焼くだけ。すばらしい。


 ミートボールの素はなかったので、そっちは簡単に味付けした。塩胡椒とガーリックパウダーを少し。作り置き用なので、このくらいで良い。

 素揚げにしたミートボールを一個だけ味見してみたが、肉の味が濃厚で食べ応えがある。

 色々なアレンジ料理に使えそうだった。




 魔の山までの旅は順調だ。

 道中に遭遇する魔獣は大きく、強い個体が増え、人型のゴブリンやオークといった魔物の姿もよく見掛けるようになった。

 もちろん、どれもせっせと倒してポイント化した。魔獣や魔物が強くなるのに比例して、こちらも強くなっているのだ。


(経験値が倍増する、創造神の加護のおかげで、レベルが上がりやすいからな)


 ゴブリンの群れに囲まれた時にはヒヤリとしたが、加護のおかげで全ての攻撃を弾き返し、無傷で切り抜けられた。

 これもある意味チートだと思った。

 向こうからの攻撃は一切通らないのに、こちらからはノーダメージで魔法を放ち放題なのだ。


「無敵バリア状態が面白くて、ゴブリンの集落に突っ込んで行ったのは反省している……」


 テンションが上がり過ぎて、つい逃げるゴブリンを追い掛けて、集落ごと根絶やしにしてしまった。

 五十匹以上はいたと思う。魔法だけでなく、手斧を振るい、ゴブリンを殲滅した。

 

 ゴブリンは放置しておけばあっという間に繁殖し、森の恵みを食い散らかしてしまうらしい。

 食い物がなくなったら、人の集落を襲うようになるため、この国の住民はなるべくゴブリンを見付けたら全滅させろと教えられて育つと云う。


「まぁ、ボランティアだよな」


 ゴブリンから得られるのは魔石だけだ。

 肉は臭くて食えたものではないし、緑の皮膚は使いようがない。その魔石もあまり質が良くないため、ポイントも少なかった。

 その分、経験値が入りやすいようだが。


 魔獣は大型の個体が増えた。

 森林鹿フォレストディア森林猪フォレストボアもかなり大きかったが、ワイルドディアやワイルドボアという大型の魔獣が出現するようになったのだ。

 ヘラジカ並みにデカいワイルドディアを初めて目にした時には、その巨体に唖然としたものだった。

 立派な角は木の枝に擬態しているようで、気配を消されると、一瞬分からなくなる。

 まるで森の主のようだった。


 ワイルドボアも森林猪フォレストボアより一回り近くデカい。性質は短気で、文字通りの猪突猛進。鋭い牙と硬い皮膚が厄介だが、動きは単調なので倒すのは簡単だった。

 どちらも風の刃ウィンドカッターで首を落とせるので、脅威ではない。


「一気にポイントが上がるな……」


 ワイルドディアは角と皮と肉、魔石を合わせて二万ポイント。ワイルドボアは牙と皮と肉、魔石で二万三千ポイントだった。

 肉はとりあえず、ひと通り味見をしたいので、確保。他の素材はさっさとポイント化する。

 高ポイントの魔獣肉は美味いのが確定なので、今から楽しみだ。


「まぁ、もっと高ポイントなのがオークなんだよなー。肉は確保したけど、さすがにまだ口にする勇気がな……」


 オークは二足歩行の豚顔の魔物だ。

 ゴブリンと同じく、武器を扱うため厄介な存在だが、中級魔法で余裕を持って倒せた。

 遠目で確認した際の怪力ぶりからして、接近戦では相手にならなかっただろう。

 もちろん俺はこそこそと遠くから魔法で倒した。

 安全マージン、大事。

 ちなみにオークの魔石はゴルフボールサイズで、何と一万ポイント!

 拠点を見つけたら殲滅しようと思った。




「さて、今日はここをキャンプ地とする!」


 異世界に転生してから、もう二週間は過ぎたが、孤独すぎて一人言が増えた気がする。

 なるべく従弟たちとメッセで会話をするようにはしているが、我に返ると恥ずかしい。


 水場がなかったので、本日はベリーの大木の傍らを野営地に選んだ。

 最近は果樹を見付けて採取する度に、その周辺の木々を間引いている。

 美味しい果実を恵んで貰ったお礼代わりに、日当たりを良くしてやっているのだ。


 さっそく、周囲の木々を切り倒して収納していく。邪魔な根っこも取り除いて【アイテムボックス】に送った。

 この作業も手慣れたもので、十分ほどで周囲が綺麗にひらけた。テントを張り、タープを設置して、調理台や道具を並べていく。


「作り置きしておいたミートボールで、パスタ料理にするか」


 ミートボールスパゲッティと云えば、人気アニメのワンシーンを思い出す。

 子供心にもあれは特別に美味そうに見えた。

 従弟たちと一緒にテレビで観ていたら、あれが食べたいと駄々を捏ねられて、小学生ながら、頑張って作ったことを思い出す。


「パスタをレンジで茹でて、缶詰のソースと混ぜただけだったけど」


 ミートボールは冷蔵庫にあった、お弁当用のレトルト食品だったが、従弟たちは美味い美味いと大喜びで食べてくれたっけ。


「大人になった今も、そう変わらないレベルだな」


 くつりと笑いながら、フライパンでパスタを茹でていく。トマトのホール缶はあるけれど、ソースを作るのは面倒なので、出来合いのトマトソースを使うことにする。

 パスタは少し固めに茹でて、茹で汁を捨てたところでオリーブオイルを回し掛けて、作り置きのミートボールを投入する。

 あとは出来合いのミートソースと混ぜて火を通せば完成だ。手抜きバンザイ。

 皿に盛るのも面倒なので、フライパンごとテーブルに並べた。


 ミートボールは折角なので、たくさん入れてある。粉チーズとタバスコを振りかけて、さっそくいただきます!

 あのアニメの登場人物のように、わしわしと掻き込むように食べていく。

 パスタとソースは、うん、食べ慣れた味だ。まぁ、それなりに美味い。特筆すべきは、鹿ディアの挽肉を使ったミートボールだ。

 素揚げしたミートボールも美味かったが、トマトソースが絡んだら絶品だ。


「トマトソースって結構主張が強い味をしているけど、このミートボールは負けてない。肉の味が濃いからか?」


 何にせよ、美味い。

 これは止まらなくなる。アニメの登場人物たちが競って食っていた意味がよく分かった。肉が美味いから、パスタも進む。

 口許を真っ赤に汚しながら、夢中で食べきった。鹿肉すげぇ。また作ろう。


「今夜のハンバーグステーキが楽しみだ」


 鹿肉を味わえば、次は猪肉だ。

 ぼたん肉の由来が納得できるほどに、綺麗な赤身の上質な肉をどうやって料理してやろうか。


「っと、写真送っておかないとな。アイツらもあのアニメが好きだったし、懐かしがるよなー」


 上機嫌で送ったミートボールスパゲッティの画像は、ひどい飯テロだと三人から叱られてしまった。解せない。

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