第5話 いざ、転生
『三人のためにも、衛生面と食事面がマシになるよう、特別製の魔道具をダンジョンからドロップさせるよ! 他にも日本と同じ、……は無理だけど、なるべく快適に暮らせるように誘導する。君にも快適に暮らせて、長生き出来るスキルや魔法をあげるよ。……だから、お願い、トーマ。君をこの世界に転生させて?』
(勇者を働かせるための餌として、俺を異世界に転生させるだと? ふざけんな! ……って、最初は思ったけど)
ふう、とため息を吐いてから、俺はあっさり頷いてやった。
「いいよ。新しい人生を楽しむのも悪くないしな。この世界を快適に生き延びるためのスキルや魔法? それをちゃんと授けてくれるのなら、勇者を働かせるための餌になってやるよ」
『ありがとう! 感謝するよ、トーマ!』
手の中の毛玉がぱあっと輝き始める。
慌てて手を離すと、ふわふわと宙を舞い始めた。覚えのある、光の洪水。
じっくり眺めると、それは魔法陣のような複雑怪奇な紋様を描いて煌めいていた。
と、自身の肉体が透けてきているのに気付いて慌てて毛玉を見上げる。
「さっそく転生? スキルや魔法の説明は!」
『ああ、それは僕が教えてあげるよ。しばらくは付きっきりで、ちゅーとりある? を手伝うよ!』
どうもこの創造神サマ、地球産の一部の文化や言葉に影響を受けまくっているようだ。
眩しさに耐えかねて、きゅっと目を
(そう言えば、どんな姿に転生するのか、聞き忘れていた……)
小柄で華奢な体格が密かにコンプレックスだったので、生まれ変わるならばゴリマッチョが良い。
『ようこそ、僕の世界へ!』
目が覚めると、ケサランパサラン──否、創造神がふわふわと空に浮かんでいた。
魂だけの存在だった時とは違い、頬に当たる風や草の匂いが分かる。
白い雲がたなびく青空は、少なくとも地球とそう変わりはなさそうだった。
横たわっていたのは、草原らしき場所。片手をついて、起き上がった。ゆっくりと立ち上がる。立ち眩みもなく、気分も悪くない。
この異世界に合わせて創られた肉体は、もう既に馴染んでいるようだった。
『君にはなるべく長生きしてもらうために、長寿な種族の肉体を与えたんだ。魔力も多いし、身体がとても軽いだろう? トーマの元のスペックになるべく近くなるよう、頑張って創ったんだよ!』
褒めて褒めて、とばかりにケサランパサランもどきの創造神が周囲をぴょんぴょん飛び回る。
「元のスペックに近く? ……待て、俺の希望は…っ!」
『ん? ダメだった? ハイエルフの肉体』
「ハイエルフ……」
ファンタジーに疎い自分でさえ、聞いたことがある。エルフは耳が尖っていて森に住む美形で長命な種族だったか。
ハイエルフということは、その上位種なのか?
とにかく、いちばん気になる体格は!
見下ろして絶望に打ちひしがれた。
「以前よりも細くなっていないか……?」
『精霊に近い種族だから、
「赤ちゃん……。いいのか、それで」
『中身は君だし、肉体も普通の人間に比べて頑丈だし問題ないでしょ。スキルもちゃんと授けるし!』
「分かった。もう創られてしまったんだから、仕方ない」
憧れのゴリマッチョ体型の夢は遠ざかったが、叶えられないわけでもあるまい。
前世では太りにくい体質だったため、ウェイトアップは出来なかったが、ハイエルフの肉体ならいける可能性もあるのでは。
(普通の人間よりも頑丈って言っていたし、鍛えていけば筋肉も育つかも)
剣と魔法の世界で、魔獣や魔物を倒せばレベルアップして更に強くなるのだと聞いた。
鍛え甲斐がありそうだ。
『転生させる際に自動的に付与されるスキルは、三つ。まずは、この世界で不自由なく意思疎通が出来るように【全言語理解】スキル。この世界の知識がない君たちのために、対象を凝視すると見える【鑑定】スキル』
「へぇ…? アフターサービスもちゃんとあるんだな。正直助かる」
せっかくの新天地でも、言葉が通じないとハードモードすぎる。物を鑑定できる能力もありがたい。調べる手間が大幅に省ける。
『最後はお約束のスキル【アイテムボックス】だよ! レベルに合わせて異空間に物を収納する能力なんだ。異空間だから、生き物は入れられないけれど、時間は停止しているから、収納物は劣化しない。便利でしょう?』
「便利だな。手ぶらで行動が出来るのはありがたい。収納物は劣化しないのなら、食料も腐らないのか」
『そうそう。良いスキルだよね。日本で学んで便利だなーって思って、こちらの世界でも作ってみたんだ。勇者の三人にももちろん与えてあるよ?』
「結構レアなスキルなのか、これ?」
『鑑定とアイテムボックスはレアスキルだよ! 転移者や転生者には特典であげるけどねー』
収納スキルはありがたいが、荷物は無いしな、と自分の体を見下ろしてため息を吐く。
服装は生前に着ていた物がそのまま再現されていた。薄手のパーカーにチェックのネルシャツを着込み、撥水性のジャケットを羽織った姿だ。
下は穿き慣れたデニムのストレッチパンツ。スニーカーも撥水性で気に入りの物だったので、こちらの世界に持ってこれたのは嬉しい。
「とは言え、荷物がないと不安だな……。こちらの世界の金もないし」
ぽつりと呟くと、毛玉は馴れ馴れしく肩に乗ってきた。
『荷物はちゃんとあるよ! 君のアイテムボックスに収納しているんだ。確認してみてよ』
「確認? どうやって?」
『んっふふふー。もちろんお約束の呪文で! リピートアフターミー? 「ステータスオープン」が魔法の呪文だよ』
「……ステータスオープン?」
ぽつりと復唱した瞬間、目の前に透明なタブレットのような物が現れた。
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