世界のルール【本】

MIZAWA

第1話 夢がない

 ってか僕は何のために生きているんだろうか。

 ベランダにある椅子に座ってぼけーっと僕ことライルは空を見ていた。

 父親は岩緑の山国の軍人で、なんか有名らしい。

 母親はうるさい記者やってるらしい。

 そして俺はどこにでもいるごく普通の17歳のクソガキ、そうクソガキ、右から見ても左から見てもクソガキ。


 僕なら永遠と空を見続ける事が出来る。

 ベランダにはいつも本棚が置かれている。

 軍人の父親が友達から貰って来たそうで、飾っている。

 雨よけの魔法がかけられており、雨にぶちあたってもそこだけシールドが張られる。

 

「本がないって、この本棚が可哀そうだ」


 なんとなく空を見上げながらそう呟いた。


【次の日】


 顔面を殴られた。

 次に脇腹を蹴られた。

 転がる僕。 


 肉体の肉が地面にぶちあたり砂が体をまぶしてくれる。

 ごろごろと転がりながら空を見ていた。

 やっぱ空って蒼いな。


「てめぇ、いいかげんその虚ろな瞳がきめーんだよ、父親が英雄の軍人だからって生意気なんだよ」


 僕はゆっくりと立ち上がる。

 滅茶苦茶に体がみしみしと悲鳴を上げている。 

 どうでもよくて、なんか世界なんて終わっちまえなんて思う。


「なんで痛そうにしないんだよ、お前の中から心が消えちまったみて―じゃねーか、毎日毎日殴っても蹴っても鳴き声も悲鳴もそして逃げる事すらしない、お前は人形なのか」


 かつて僕に毎日話しかけてくれる人がいた。

 彼女はいつも僕の瞳をみてにこりと笑ってくれた。


【ほら、笑ったらかわいいでしょ、ライル君はさ、笑うのが一番だよ】


「だかモルモが死んだとき笑ってたんだろ、気持ち悪いんだよ異常者」


【悲しいときは笑うんだよ、ライル君】


 僕はあの時何も出来なかった。

 モルモが殺される事は分かっていた。

 誰かが殺す事は分かっていたんだ。

 殺すという情報を仕入れた訳ではない。

 それは感覚、空気、そして、オーラ。

 色々なものが見えて、結論を出した。

 誰かが殺されると。

 モルモだと断定はできなかった。

 

 だから僕は狂ったように泣きわめいて、大人達に告げた。


「誰かが殺される。あれは何かの演技なのかばーか」


 眼の前のいじめっ子がそう言う。

 彼はガタイのいいからだをしており、年齢は僕より1歳年上。

 名前はジュストル、彼は1歳年下のモルモの事が好きだった。

 モルモが俺を虐めるなと言ったから、小さい子供の頃は虐めてこなかった。

 だがモルモが何者かに殺される事で、彼は僕をぼこぼこにするようになった。

 まるで怒りを発散させるかのようだった。


「いいよ、誰も僕の話は聞かないから」


 ゆっくりと立ち上がり、ズボンを払った。

 ジュストルとその他の仲間達は気がすんだのかそれぞれいなくなっていた。

 空には月が輝いていて、緑色の浮遊球体が相変わらず浮いている。

 緑色の浮遊球体は遥か昔から空を浮遊しているそうだ。

 大きさは結構なでかさらしい。


 宇宙と呼ばれる向こうに月はあり、緑色の浮遊球体は宇宙の手前の空の下らしい。

 まぁよくわからないが。


 体がみしみしと痛くて、悲しくなったから笑顔を浮かべた。


 涙なんて枯れてしまっている。

 大事な人を殺された時から僕の時計は止まってしまったようだ。


【誰かが殺されるんだ。はやく誰かを助けてくれ】


 僕の必死な叫び声は大人達の笑い声で消されてしまったんだった。

 沢山の人達がこちらを残念な人のように見ていた。

 英雄の子はバカだとそれで広まった。


 今日もいつものように3階建ての木造小屋のベランダに座って、ただただ空を見ていた。


 毎日空を見ていると、緑の浮遊体が目に入る訳だ。

 何か遺物が緑の球体の上に立っていた。

 口を大きく開けて、緑の浮遊体に立っている1人の人物を凝視していた。

 一瞬その笑顔が目に入った。

 心臓が爆ついた。

 あれは、あれは。

 

 あまりにも信じられない光景に、本棚に頭をぶつけた。

 そこにはいつも存在していない1冊の本が置かれてあった。

 しかも半透明であり、意味が分からなかった。


 緑の浮遊体の所の人物と半透明な本の両方に興味を持ち。

 緑の浮遊体の人物はどうしようもないので、本を見る事にした。


 本を開いた瞬間、頭がスパークし次の瞬間には別空間にいた。

 そこはどこかの球体の中のようだ。

 辺りが緑色だった。


「ようこそ世界のルールへ」

 

 眼の前に突如として現れたのは、初めて大切だと思ったモルモだった。

 姿形は10歳の姿ではなく10歳から成長した姿だった。


「世界のルール? ってその前にモルモだよな」


「そのモルモだぞ、久しいな、ライル君」


「一体どういうこと。君は腹を刺されて滝つぼに落ちたって、死体はでなかったけど」


「その通りだ。あのあとこの緑の浮遊体にかくまわれてな、ここは世界の中心らしい」


「意味がわからないよ」


「君が世界の語り部だ。そして私が繋ぎ手だ」


「その語り部とか繋ぎ手とかどうでもいい、君が生きてくれてて」


「私はずっとこの球体の中で体を再構成していた。さすがに腹を刺されたらそう簡単にはいかんし、滝つぼに落ちた衝撃で全身やばかった。今、ついに体の修復が終わった」


「それで犯人は」


「それは後回した。まず私の話を聞きなさい」


「うん」


「あの本棚は私の父親がお前の父親にあげた。世界の終わりを防ぐためだ」


「大丈夫か? 頭」


「ライル君にそれを言われたら終わりだな。私も、私の一族は繋ぎ手で、お前の一族が語り部、わかる?」


「分かりません」


「よろしい、繋ぎ手は語り部に世界のルールを渡す役割、そして繋ぎ手は世界のルールを記憶し、その使い方を語り部に伝える。よろしい?」


「うん」


「だから私が殺されそうになったの」


「なんか話が見えてきたよ、僕の手を繋ぎに来てくれたんだろ」


「表現がいまいちだがそのとおりだ。そして私と協力して世界のルールのルールを使ってお前を強くさせる。それは果てしもなき力で、それには代償がいる。私はいつでもどこでも君と一緒だ。私は周りの人間には姿が見えない。緑の浮遊体の中で復活するとはそう言う事だ」


「なんかよくわからないけど、その世界の終わりを防げばいいんだ」


「その通り、まぁ時間があるから、君は強くなる事に専念したまえ、地上に送り返そう、私はこの緑の浮遊体から出る事は出来ないが、君の心と繋がっている。その本は世界のルール、誰にも認知不可能で、君が念じればどこにでも魔法書のように浮かび上がる」


「うん」


「君が世界のルールを使ってルールをぶちのめせ」


 気付いた時、僕はいつものベランダに座っていた。

 空には緑の浮遊体が元気そうに浮かんでいた。

 あそこにモルモがいる。

 

 僕の心にオーラが入ってきたようだ。

 生きている事が楽しくなってきた。

 僕が問いかければ、いつでもモルモが声をかけてくれる。


 モルモさえいれば強くなれる。

 いつかくる世界の終わりを防ぐため。

 そして世界のルールを知るため、ページを開いた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る