第10話 盛り上がってきた。開始。
さて、ようやく本腰入れて営業ができるようになった。
ボスは良い人で、良い上司で、僕の状況に合う働き方をさせてくれるようになった。そして僕には、この売り方しかないのだ。
今までは、全ての人が客になるような商材を扱ってはこなかった。僕のお客様は、地主か社長だった。だから、知人友人に売ってこいと言われることはなかった。
商品を気に入ってくれるならいいが、友人に合うかわからないものを紹介するのは、苦手だ。そもそも僕は、致命的に友達が少ない。
しかし、売らなければいけないし売るのは好きだ。僕は、僕を、僕の紹介する商材を人が気に入ったと言ってくれることが、たまらなく嬉しい。そして、僕の周りに僕と似た状況で僕より売っている同僚がいると、殺したくなる。
言い過ぎか。僕と似た状況の同僚が売って偉そうにしているのが、腸が煮え繰りかえるように悔しくて、その鼻を人差し指と中指に全力を込めて振り上げ、明かしてそのまま殴り抜けたくなる。
そして、売りやすいように働かせてくれる上司には、全力で応えたくなる。
人を動かすには『正面の理。側面の情。背面の恐怖』が有効だという。
営業なのだから、売れない自分は怖い。売れない自分の状況は怖い。売れなくなった末路が怖い。だから、動く。
自分を横から情をかけてくれて誘導してくれた人には、支えたい人には応えたい。だから、動く。
売って幸せになる機構が出来ている。それを理解している。だから、動く。
良い会社に入ったのだと思う。良い上司がいて、良いシステムを作っていて、情のある人が多い。原則を変えてくれる度量と余地もある。
僕は、僕のことを全く知らず、というか警戒している人から信用を得て、期待に応えて信頼してくれる瞬間が好きだ。売り上げで人に負けているのが嫌いだ。敬意を持つ人に褒めてもらうのが好きだ。
僕は営業だ。
器用な人間じゃない。前の会社、前の商材である程度売れたからといって、それをスッと落とし込んですぐに前と同じように売れるタイプじゃない。
だから、頑張る。必死でやる。
便宜を計ってくれた人がいる。ナメてくれた奴もいる。殺すつもりでやる。自分が恥ずかしくなって、俺の目を二度と正面から見れないようにしてやる。
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